14歳でデビューしたヴァイオリニスト、
ダイアナ湯川(Diana Yukawa)が8年ぶりとなるニュー・アルバム
『バタフライ・エフェクト』を10月21日にリリースした。クラシック作品でのデビューから9年、すっかり大人の女性に成長した彼女は、今作でクラシカル・クロスオーヴァーに初チャレンジ。オリジナリティあふれる楽曲で、新たな扉を果敢に開いた意欲作となっている。
――8年とは短くないブランク。ここまで長く時間があいた理由は? ダイアナ湯川(以下、同) 「理由はひとつじゃないけれど、自分の中に起きた変化を作品に結びつけるのに時間がかかったの。前2作は、クラシックの作品に真正面から取り組んだアルバムだった。それを否定するわけではないけれど、ヴァイオリンという楽器の可能性をもっと伸ばしたい、もっと探求したいという欲求が自分でも抑えられなくなってしまったのよ」
――それがクラシカル・クロスオーヴァーに転向する理由だったの?
「そうね。子供の頃からあらゆる音楽を聴いてきて、以前からこのジャンルにも興味はあった。でもデビューした頃はまだ子供だったから、自分にクラシック以外の演奏ができるとは思わなかった。でも、ヴァイオリンはクラシックだけを演奏する楽器じゃないというメッセージを、ずっと伝えたいと思っていた。それが私のやりたいことだとはっきりわかったの」
――でも、楽譜を忠実に演奏する世界からインプロヴィゼーションもあるクロスオーヴァーに切り替えるのは大変じゃなかった?
「私自身の演奏や精神面の切り替えよりも、私のやりたいことを周囲に理解してもらうのが大変だった。それと想像以上に時間がかかったのは、一緒にレコーディングをしてくれる理解者、よきパートナーを探すのに苦労したから。一緒に曲を書き、プロデュースしてくれる人がなかなか見つからなくて」
「共通の知り合いを介して出会ったの。でも会う前から彼が優れたプロデューサーであることは知っていたわ。そして実際に会うと、優秀な上にいい人で、すぐに意気投合したし、何よりも私のやりたいことを理解してくれたのよね」
――このアルバムでやりたかったことは?
「テクニック重視ではなく、楽曲主体で、その多彩な曲でヴァイオリンのいろいろな面を紹介することよ」
――ロバート・マイルズの『チルドレン』以外はオリジナル楽曲。アンディとは主にどうやって共作したの?
「彼がバックトラックを作り、それに私がインスピレーションを得てヴァイオリンを演奏して曲を完成させる方法や、反対に私が以前から書き溜めていた曲を聴かせて、それに刺激されて彼がバックトラックを作ったこともある。とにかくお互いに刺激し合いながら制作することができたと思う。しかも締め切りがあったわけじゃないから、納得いくまで曲を練り直すこともできたわ」
――それってある意味で贅沢よね。ところで、「マイ・インスティンクト」ではヴォーカルのサンプリングも使っているでしょ?
「あれはアンディのアイディア。彼のライブラリーにあったサンプリングを持ってきたらすごくうまくいって。斬新なことをやりたいという今回のアルバムを象徴する存在になってくれたと思う」
――サンプリングとか、バックトラックに合わせて演奏するのは難しくない?
「最初こそ戸惑ったけれど、慣れると全然大丈夫だし、インプロヴィゼーションが今は私の楽しみになっているから」
――レコーディングはアビーロード・スタジオで行なったんでしょ?
「歴史あるスタジオだから雰囲気も格別。そして、何よりも生楽器の音をレコーディングするのに最高の環境だと思う。これもアンディの提案で、最終的にアビーロードでレコーディングしたことがプラスになるから、やろうよって。彼の判断は正しかったと思う。ただスタジオがあまりに広いので、最初はちょっと怖かった(笑)」
――さて、最後にアルバム・タイトル『バタフライ・エフェクト』に込めた思いを教えて。
「アンディに相談したら、自分で考えるようにと断られてしまって(笑)。それで昔から蝶々が好きだったこと。それからカオスの理論のひとつに“バタフライ効果”というのがあって、それにも興味があったから悩んだ末にこのタイトルにしたのよ」
取材・文/服部のり子(2009年8月)