爆裂エクストリーム・ケイオティック・ハードコアで21世紀の扉をぶち破った
ディリンジャー・エスケイプ・プランが、新作
『オプション・パラリシス』で新たな進化の刻を迎える。脳髄を攪拌し、腰骨を粉砕するサウンドはそのままに、驚かされるのはそのキャッチーさ。過激さを犠牲にすることなく、ソングライターとしての完成度を追求したアプローチは、バンドがネクスト・レベルに到達したことを高らかに宣言している。バンドのギタリスト、ベン・ワインマンが新作における進化を語った。
――1曲目「フェアウェル、モナリザ」からいきなり凄まじいエクストリーム・サウンドをぶちかましながら、奇妙なフックがあって、全編意外なほどに聴きやすいアルバムですね。
ベン・ワインマン(g/以下、同) 「うん、俺たちはつねにミュージシャンとして進化してきた。いつでもエクストリームではあり続けるだろうけど、必ずしもアンダーグラウンドである必要はないと思うんだ。とてつもなくヘヴィでダークで、それでいてメロディがあってもいいだろう。デビューした頃は、俺たちがやっていることは、“音楽”とすら思われなかった。今ではそんなことはなくなったけど、ずっと前方にプッシュし続ける姿勢を持っていたいんだ。『オプション・パラリシス』ではソングライターとしての俺たちを表現したかった。もうひとつ新作の特徴は、これまではギターやベースのパートと歌メロを並行して書いていたけど、今回は曲をある程度仕上げてからグレッグ(プチアート)がヴォーカルを加えていったことだ。そうすることでメロディがくっきり浮かび上がるようになった」
――前作
『アイア・ワークス』発表後には大規模なツアーを行ない、『レイト・ナイト・ウィズ・コナン・オブライエン』にも出演しましたが、 全米で500万人以上が視聴するTV番組に出演した感想は?
「自分の目の前に500万人の観客がいたわけじゃないから、それほど緊張したわけでもなかった。バンドを結成した当初は2人とか3人の前でプレイして、その2人や3人からもブーイングを飛ばされてきたことを思えば、感慨深くはあったけどね。コナンが俺たちの音楽をどう思ったか判らないけど、少なくとも嫌悪感は見せなかったし、クールな人だったよ」
――新加入ドラマーのビリー・ライマーはアルバムにどのような貢献をしていますか?
「ビリーはバンドに加入してスタジオに入るのが初めてだったんで、とてもナーヴァスになっていた。それがプラスに働いたんだ。アルバム全体にピリピリした緊張感が漲っているし、彼はバンドにおける自分の存在をアピールするために、凄まじくハードにプレイしている。あまりに全力を込めたせいで、両腕が腫れ上がったほどなんだよ」
――爆裂ケイオティック・ナンバーがある一方で、「ウィドウワー」「パラシティック・ツインズ」のようなダークな曲もあります。これらの曲は、どのようなところから着想を得たのでしょうか?
「このアルバムは俺たちの自主レーベル“パーティ・スマッシャー”からの第1弾になるし、スペシャルなことをやろうと考えていたんだ。それで1年以上前に俺が書いた曲で、ディリンジャー向けじゃないと思っていたものを引っ張り出してみた。その2曲はどちらもピアノで書いたもので、〈パラシティック・ツインズ〉ではリード・ヴォーカルの一部をジェフ(・タトル/ギター)が歌っている。あと〈ウィドウワー〉と〈アイ・ウドゥント・イフ・ユー・ディドゥント〉では、マイク・ガーソンがピアノで参加しているんだ。彼は
デヴィッド・ボウイの作品でプレイしているし、
ナイン・インチ・ネイルズの
『ザ・フラジャイル』での彼のアヴァンギャルドなピアノを気に入っていたんで、俺たちのアルバムで共演してもらうことにした」
――自ら設立した“パーティ・スマッシャー”レーベルからの第1弾アルバムとなりますが(日本では“デイメア・レコーディングス”からリリース)、自主レーベルを設立したのはなぜですか?
「決して今までの“リラプス・レコード”に不満があったわけじゃないけど、音楽やアートワークやリリース時期、ツアー日程など、すべての面でクリエイティヴなコントロールを行ないたかったんだ。ほかのアーティストを抱える予定はないし、自分たちだけで小回りがきくから、すごく自由だよ。“パーティ・スマッシャー”という名前は『アイア・ワークス』収録の曲名からとったんだけど、“パーティを台無しにする”というレーベル名が俺たちに合っていると思ったんだ。たまに俺たちのライヴ後、バックステージにやってきて、“酒は? 女の子は? ドラッグは?”なんて言う奴がいるんだけど、俺たちはそんなものには興味がないからな。パーティを期待してもダメだって意味も込めているんだ(笑)」
取材・文/山崎智之(2010年3月)