2005年、インディ時代のオリジナル・メンバー、
J・マスキス(vo./g)、
ルー・バーロウ(b/vo)、
マーフ(d)の3人が再び揃い、新たな一歩を踏み出した
ダイナソーJR.。二度とない、と多くのファンが思っていたこの奇跡的なリユニオンはおよそ2年の月日を経てニュー・アルバム
『ビヨンド』に結実した。バンドの中心人物であるJ・マスキスにこのアルバムについての話を聞いた――。
90年代前半にロック・シーンを席巻したグランジ/オルタナティヴ・ムーヴメントにおいて、
ニルヴァーナや
ソニック・ユースらとともに時代を代表するバンドとして扱われ、ここ日本でも大変な人気を博したダイナソーJR.。その後、97年のアルバム・リリース(
『ハンド・イット・オーヴァー』)を最後にいったん解散していたが、2005年になってオリジナル・ラインナップで再結成を果たし、同年のフジロックに出演。翌06年には単独再来日公演も行なって、多くのファンを熱狂させたことはいまだ記憶に新しい。
そんな復活ダイナソーJR.が、ついに新録音のニュー・アルバム『ビヨンド』を完成させた。中心人物であるギター/ヴォーカルのJ・マスキスはもちろん、ベースには
セバドーや
フォーク・インプロージョンとしての活躍でも名高いルー・バーロウ、ドラムスにマーフという結成当初のメンツでレコーディングした作品は、88年発表の
『バグ』以来、実に19年ぶりということになる。久々に3人が顔を揃えた状況で、新譜の制作プロセスにはどのような変化が起きたのか? プロモーションのために来日したJに訊ねてみたところ、その返事は予想以上に率直なものだった。
「そうだな……まあ、ルーに無理やり曲を書かせなきゃならなかったのが一苦労でさ。そういう意味で、いつもよりハードだったよ。何が問題なのか、俺にもサッパリわかんないんだ。あいつ、それこそ何百って曲を書いてきてるのに、ダイナソーに曲を提供するとなると、なぜかいつも四苦八苦してしまうわけ。だから今回あいつの曲が二つも入ってるのは奇跡に近いっていうか(苦笑)」
では、マーフに関してはどうだったのだろう。
「俺が曲を書く時には、まずドラム・パート、次にギターとメロディが聴こえてくるっていう感じで、ドラムはしっかり曲の一部になってるから、俺の曲に関してマーフの方で何か付け足せる余地っていうのは一切ない。それにマーフもそういうやり方が気に入ってるしね。あいつにはいつもと違う叩き方ができるチャンスだし、自分じゃ絶対に叩こうなんて思わないようなビートを教えてもらえるわけだからさ」
ここまで正直に明かしながら、それでもなおJは「世間じゃそう見られてないけど、(ダイナソーJR.は、自分のワンマン・バンドというのとは)ちょっと違うんだよな」と言う。おそらく彼は、己の意見を妥協なく主張しながらも、最終的には他のメンバーとの関係性からバンドの音楽表現が生じてくるものだという信念を抱いているのだろう。
「ダイナソーでやる場合は、曲を書く時“これってマーフに叩けるだろうか”とか、あと“ライヴでやってもイケるだろうか”ってこととかは考えてるね。この3人でやった時にしっくりくる曲かどうかがやっぱり大事っていうか」
こうした、その時その時に与えられた条件下で最善をつくそうとする基本姿勢があるからこそ、『ビヨンド』には、不変のダイナソーJR.らしさが保たれながら、同時に「確立済みの、後は風化していくだけの形式」に陥らない、今の彼らが鳴らすべき必然性を持った音が刻まれているのだ。
取材・文/鈴木喜之(2007年2月収録)