3人ともスウェーデンの名門王立音楽アカデミー出身で、超絶的な演奏力を持つダーティ・ループス。彼らが2014年に発表したデビュー作『ダーティ・ループス』は、日本でもオリコンのトップ10内に入るほどのビッグ・ヒットを記録して脚光を浴びたものだった。そして、約6年ぶりとなる新作『フェニックス』がいまここに完成。ドラムスのアーロンはこの日、体調不良で不参加となったが、ヴォーカル&キーボードのジョナとベースのヘンリックに新作の聴きどころなどを話してもらった。
New EP
ダーティ・ループス
『フェニックス』UCCJ-9228(SHM-CD + Blu-ray / デラックス・エディション)
UCCJ-2188(SHM-CD / 通常盤)――日本でも爆発的なヒットを記録した2014年のデビュー・アルバム『ダーティ・ループス』以来、約6年ぶりとなる作品ができました。まずはデビュー・アルバムのプロモーションとツアーが一段落してからの4〜5年を、どのように過ごしていたか教えてください。
ジョナ「僕はソロ活動をしていた。ツアーもしたし、EPの形にはならなかったけど2曲のリリースもした。そうこうしているうちにダーティ・ループスがまた動き始めたんだ」
ヘンリック「僕はほかのアーティストのバックをするなど、セッションワークをたくさんやっていた。アーロンも同じようにセッションワークをたくさんしていたね」
――ダーティ・ループスとしての活動は意識的に止めていたんですか?
ヘンリック「いや、ときどきギグはやっていたよ。完全に停止していたわけではないんだ。ただ先のプランは立っていなかったし、自分たちがこれからどうしたいのかわからない時期もあった。というのも、あのデビュー・アルバムは僕らが3年間ほぼ毎日取り組んで仕上げたものでね。それと同じことをして、あれを超える12曲入りのアルバムを作るというのが心理的なハードルになってしまっていた。大きな壁が目の前にある感じでね。それで、焦点をアルバム制作ではなく、とりあえず目の前の1曲を完成させることに絞ったら、うまくいくようになった。長いスパンで考えるのではなく、少しだけ先の目標をひとつひとつ達成するようにしていったんだ。このやり方がいまの僕らには合っていると思う」
――そうしてまず、昨年5月に約5年ぶりの新曲「ワーク・シット・アウト」の動画がYouTubeで公開されて反響を呼びました。あの動画は3人とも本当に楽しそうで、演奏する喜びに溢れているようでしたね。
ジョナ「そうだね。あのビデオ撮影のときは、スタジオに入り、3人が自分の位置につき、セッティングが完了して照明もスモークも準備万端となった瞬間、思わずお互いに顔を見合わせて笑顔になっていた。全員が特別な何かを心のなかで感じているのがわかったんだ。すごくクールな何か。それはつまり、本当の喜びの気持ちだったんだと思う」
ヘンリック「そうやって3人で息を合わせて録音することもそうだし、ふたたび曲をリリースできることの喜びもあった。しかも3分の曲じゃなく、長いピアノ・ソロやドラム・ソロ、即興とかも含んだ、これまでとは違うものを作るということの新鮮さがよかったんだ」
――曲構成が複雑で、プログレッシヴ・ロックのようにいろんな展開を見せていく曲ですね。ファンキーなノリの前半から、ジャズ的な中盤、それが合わさったような後半へと続き、一曲のなかでさまざまな要素が顔を出しながら、しかも滑らかに進んでいく。まさしくダーティ・ループスの進化を見せつける大作だなと思いました。
ヘンリック「“僕らは新しいことをしたいんだ”というメッセージを伝えたかった。ひさしぶりに戻ってきた僕らの1曲目が、以前にやったことのレプリカであってほしくなかったんだ。以前より大きく広がった僕らの音楽の幅を見せたかったんだよ」
――それから新作『フェニックス』の1曲目を飾る「ロック・ユー」。この曲は今年4月に公開されて、瞬く間に100万回再生を突破したファンキーな曲ですが、これはどんなふうに生まれたんですか?
ヘンリック「土台の部分がアーロンのポンコツ・コンピュータによって生まれ(笑)、それから歌詞のスケッチを書いて、あっという間にできあがった。初めはお遊びのつもりでやったような曲だったんだ。結果にはものすごく満足しているけどね」
――なんといってもジョナのヴォーカルの高音の伸びがすごいですよね。それに声が楽器みたいに機能しているこの曲のヴォーカルとリズムからは、マイケル・ジャクソンのやり方を想起したりもしました。そのあたりは意識しました?
ジョナ「もちろん! はじめのベースラインからすでにマイケル・ジャクソンふうだったんだ。それでマイケル・ジャクソンっぽいヴァイブを持たせて歌うのが当然だと思えたんだよ。僕にとってマイケルは大きなインスピレーションの元だから、それはごく自然なことだった」
――マイケルと言えば、4曲目の「ワールド・オン・ファイヤー」のリズムとヴォーカルにもやはりマイケル的なものを強く感じました。
ジョナ「そうだね。マイケル的なものが自分から出てくるのを抑えられないんだ(笑)」
――その前の3曲目「ネクスト・トゥ・ユー」もファンキーなグルーヴが渦巻いてる曲ですね。今作は全体的にファースト・アルバムよりもファンクのテイストが強まっているように感じたのですが、どうですか? 最近3人がよく聴くのがそういうものだったりするのでしょうか?
ヘンリック「僕に関して言うと、じつはファンクはそんなに聴いてない。むしろ最近よく聴くのはクラシックなんだ。どこからファンクのインスピレーションがくるのか、自分にもよくわからない。曲ができあがってみると、そうなってるってだけなんだよね」
ジョナ「ひとつは、アーロンのなかから生まれた曲っていうのがあるんじゃないかな。今回、曲の最初のグルーヴを作ったのはアーロンだった。それはファースト・アルバムのときとは違うところで。アーロンはリズムの人間だから、彼からでてきた曲はいつもグルーヴ主体になる。それが原因っていうのは考えられることだよ」
――なるほど。しかもファンキーなだけじゃなくかならずポップさがあって、そのうえジャズ的な構成要素もある。それらが以前よりもオーガニックに混ざり合っているという印象でした。
ジョナ「うん、それはおおいにある。そこは3人が目指し、意識した部分だとも言えるね。EDM的なシンセ主体の音楽とは距離をとりたかった。よりオーガニックで、自然で、タイムレスな音楽を目指したんだ」
――それから国内盤のボーナス・トラックとして収録された4曲ですが、これらはYouTubeの“SONG FOR LOVERS”というシリーズで公開されたものだそうですね。どれも3人のすさまじい演奏スキルにあらためて驚かされる曲です。いまは1日何時間練習するんですか?
ヘンリック「日によって異なるけど、楽器を弾いたり曲を作ったりはつねにしていることで。アレンジしたりするのも一種の練習みたいなものなんだよね」
ジョナ「うん。僕もそうだ」
ヘンリック「昔から僕ら3人とも、とにかく練習ばかりしていた。大学時代もそのあともずっと練習していたものだよ。だからツアーに出る前に練習を始めるとすぐに感覚が戻るんだ。長いことやっているからカラダが覚えているんだろうね」
ジョナ「それに、ミュージシャンとしてある程度上達すると、たとえば飛行機やバスで移動しているときでも頭のなかでイメージして弾くことができるようになるものなんだ。何をもって練習と呼ぶかは難しいけど、僕ら3人はそうしてつねに頭のなかでも楽器を弾いている。加えて言うなら、僕にとって……いや、3人にとってもっとも重要なのは、自分たちがどういう方向に進みたいのかという目標を定め、その道を追っていくことじゃないかと思う」
――ところで、『フェニックス』という新作のタイトルはどういう理由から付けたのですか?
ヘンリック「フェニックス、つまり不死鳥。死んでもまた蘇るっていうのが、このバンドらしくていいなと思って付けたんだ」
――ここからまた大きく羽ばたくことが期待できるタイトルです。
ヘンリック「うん。いまのコロナの状況が落ち着いたら、少しでも早く日程を組みなおしてツアーをやりたいね」
――フルアルバムを制作する予定は?
ヘンリック「計画はあるけど、レコーディングはしばらく先になるかな」
ジョナ「アイディアは山ほどあるんだ。オーケストラとやりたい、とかね。でもその前にとにかくツアーをやりたい。日本のみんなにも早く会いたいよ」
質問作成・構成/内本順一
取材/丸山京子