生き残るのは“自分の哲学”を持っている人 キャリア20周年を迎えたDJ KOMORIが初のベスト・アルバムを発表

DJ KOMORI   2017/04/05掲載
はてなブックマークに追加
 DJキャリア20周年を迎えたDJ KOMORIが自身のプロデュース・ワーク&リミックス・ワークをミックスした初のベスト・アルバム『DJ KOMORI 20th Anniversary Ultimate Mixtape』をリリース。日本のクラブ・シーン / R&Bシーンを彩った20曲が収録された本作についてはもちろん、EDMブームを経ての心境や若いDJへの提言など、色々な話を聞くことができた。このインタビューからも、彼が長年トップDJとして君臨している理由がよくわかるだろう。
――DJ20周年おめでとうございます。20年を振り返っていかがですか?
 「自分で10年目、15年目って数えてはなかったので、もう20年なんだなって感じです。長かったなぁという思いはなくて、あっという間でしたね。今回のベスト・ミックスを出す企画自体は前から温めていたんですけど、気づいたら20周年だったので、このタイミングで出そうということになったんです」
――20周年だからベスト・ミックスを出すことになったわけではなく。
 「そうですね。自分の作品集を出したいっていう思いは前々から僕の中にはあって、企画を進めていく中で20周年のタイミングを合わせてリリースしようということになりました。今まで色々なアーティストと共演させてもらったので、それを作品集という形で出したいなと思ったんです」
――97年にDJデビューされて、その後すぐにスターダムに駆け上がった印象があるのですが、ご自身ではその点どうですか?
 「うーん……やっぱりDJミックスが先行して聞かれてたってのがあるので、そこが大きかったかもですね。中でもマンハッタン・レコードの『The Exclusives〜R&B HITS』シリーズが大きかったかな。けどそれで一気に名が知れたってわけじゃなく、徐々にという感じだと思いますけど。(渋谷のクラブHARLEMで16年続いているパーティ)〈Apple Pie〉とか、長年続いたDJ MIXシリーズとか長年続いている / 続いていたものが多いので、そこも大きいかもですね。けどワールド・ツアーをやりたいとか、DJで有名になってめちゃくちゃ金持ちになりたいとか、そういう考えは最初から全然なくて。純粋にDJをやっていてすごく楽しいし、自分に向いてるなってのもあったので、昔から長く続けたいなっていうヴィジョンはありました。レーベルもすごく堅実に考えてくれたので、その通りになってるといえばなってるかなと思います」
拡大表示 拡大表示
――トラック・メイクはいつ頃から始めたのですか?
 「10年くらい前からです。遅かったのは遅かったですね。それまでもずっとやりたいなとは思っていたんですが、最初はなかなか形にならなくて。MPCとか買ってやってみたんですけど、どうやればいいのかな?みたいな感じで。けどPCを買ってちょこちょこっと出来るようになってきて、まだ形になってない段階の時に、マンハッタンからシングルを先に出してミックスをやりましょうっていう企画がきて、その時にアラウンド・ザ・ウェイ〈Really Into You〉のカヴァーをやることになって。それが最初でしたね。だから最初は覚えながら作っていったという感じです」
――そもそもなぜこの曲をカヴァーしようと?
 「アナログのヒット・シリーズって形だったんで、12インチで一番売れたのって〈Really Into You〉だよねって感じで。基本的な感覚とか曲に対する考え方は当時も今もそんなに変わってないので、10年前の曲ですけど自分でも違和感がないし、今でもかけてます。この曲に限らず、自分の曲は全部かけるのがちょっと照れくさいんですけどね(笑)」
――その「Really Into You」も入った本作、収録曲のセレクト基準は?
 「思い入れは全部の曲にあるんですけど、やっぱりアーティストに拠るところが大きいです。基本的にオリジナル曲にしてもリミックスにしても、どの曲もアーティストに参加してもらっているし、このアーティストとやれたっていうのが自分的に気持ちのステップとして残っているので。トラックのクオリティがすごく高いからっていうよりは、このアーティストと一緒に曲が作れて嬉しかったので、もう1回みんなに聴いてほしいっていう思いが強いですね」
――今作の軸となった曲は?
 「デズリー〈You Gotta Be〉のカヴァーと、以前日之内エミちゃんと作った〈Blue Magic〉のリミックスが今回新しく入ってるんですけど、その2曲を中心に流れを考えていきました。あとはフェイス・エヴァンスとのコラボ曲〈Love's Door〉とアース・ウィンド&ファイアー〈September〉のリミックスは、ネタ的にも近いし、この2曲は好きだって言われることが多いので、この2曲も中心に考えましたね。〈September〉のリミックスを手掛けたのも自分の中ですごく大きくて。この曲のマスターテープに触れたっていうのは自分のキャリアの中でもかなり大きいです。データを一つ一つ聞いて思うことがあったというか、パーカッションの人すごい走ってるなとか、ギターはこんなに音ちっちゃいんだなっていうのがわかって、それだけでも一音楽ファンとしてワクワクしましたね」
――「You Gotta Be」をカヴァーした理由は?
 「最初に出したのが〈Really Into You〉なので、そこに繋がるようなものという気持ちもありつつ、今のヒット曲じゃなくて、自分のルーツである90年代R&B(のカヴァー)をもう1回やりたいなと思ってこの曲を選びました。“自分らしく精一杯生きよう”というポジティヴな歌詞も多くの人に共感してもらえると思いますし。この曲はすでにカヴァーもたくさんあるし、どういう風にしようか何パターンも作ったりしてなかなか大変でしたね。最終的に今の時代の雰囲気のあるトラックってのを意識しつつ、ダンスホール調のトラックに仕上げました。普通に現場でもかけてもらえるのがいいなと思っていたし、今BPM100くらいの曲がまた改めてかかるようになってきたので、そういうところでも若い子に聴いてもらえるんじゃないかなと思ってます」
――「Blue Magic」の元曲はポップでキャッチ―でしたが、今回のリミックスはよりエッジーで、今のKOMORIさんのDJスタイルがより反映されているように思いました。
 「そうですね。単純に今のトレンドの音とプラス、フィーチャー・ベースっていわれるような括りでありつつ。そこに少しアナログっぽい柔らかい質感を加えたトラックにしたいなと思って作っていきました。元曲を作る時のモチーフがゴーストタウンDJズ〈My Boo〉だったんですよ。そこら辺も今に繋がるかなと思って、この曲をリミックスすることにしたんです」
――「Spotlight feat. Latifa Tee」などの中盤の楽曲はEDMやダンス・ミュージックを経由したKOMORIさんの作風だなと思いました。
 「いわゆるEDMブームっていうのはDJはみんな通っていると思うし、もちろん僕も通りましたけど、今考えるとそのブームを傍観するんじゃなくて、一度どっぷり入ってみてすごく良かったなと思っていて。あのシーンって大きいピラミッドみたいになってるんですよ。個性がどうこうってよりも、一番大きなものを演じた人が勝つみたいな感じで。そんな世界に実際入ってみて、僕の居場所はここじゃないって改めて気づくことができたんです。だから(ブームに一度入ってみて)良かったなと。もちろん音楽的に格好良いのはたくさんあるんですけど」
――居心地が悪かったんですか?
 「考え方がちょっと違うなっていうか、ランキングもよくわかんないし、ダフト・パンクが70位で自分で曲を作っているのかわからない人が1位とかなんなんだろうなと思って。今でもダンス・トラックは好きだし、好きなアーティストもいっぱいいるんですけど、この中で生き残ろうとすると犠牲になるのもが結構あるなと思ったんですよね」
――賢明というか、そこで自分を見失わないでブレずにいることが出来たのが凄いなと思います。
 「向こうのアーティストでもいち早くEDMから抜け出した人で且つブレなかった人が評価されたりしているので、そういうのを見てやっぱりそうだよなとは思いますね。やっぱり自分の哲学がある人が強いと思うんですよ。日本でもDJって曲を作る必要はあるのか、DJは曲をかけるのが仕事だっていう考え方もあると思うんですけど、トラック・メイクをやると音楽に対する理解度が全然変わるんです。アースのマスターまで触らせてもらったらやっぱり理解度も変わるし、レーベルの人と“もっとソウルっぽく”とか“クラシックのテイストを入れてください”とか深く話し合うためにも、少しでも理論を知っておいて方が当然いいし。そういうのがわかってくると、昔好きだった曲はこの部分が好きだったんだなとかがわかってくるんですよね。例えば僕はドリカムとかサザンも好きだったんですけど、やっぱり好きな曲はブルースの要素だったりコードがR&Bのものだったりして。そういうものがわかってくると、オール・ジャンルでプレイしてもブレずにできるというか、自分の中で根拠をもって選曲ができるんです。なんでトップ40のテイラー・スウィフトとかかけるの?って聞かれても説明ができるんですよね。全部説明ができるし根拠があるし、自分の哲学があるんです。それも音楽を作らないとわからないことだったので。そういう(哲学がある)人は絶対いいDJだし、特に僕らの上の世代の人って音楽の一つのジャンルが染みついていて、その上でのセレクトなので、そういう人がやっぱり長年プロップスを得てますよね。今の20代の子って何でもありになった時にパッとJ-POPをかけちゃったりして、それが必ずしも悪いわけじゃないんだけど、でもやっぱりブレてると思うし、それがなんでダメなんですかって感じなんで、そこは今後きちんと伝えていきたいです」
――20年の間にトラック・メイクをしたりEDMのブーム入ってみたり、色んな経験をしているからこそ説得力があります。
 「例えばファットボーイ・スリムとか、向こうのなんでもやりますっていう人達って、わかる人達が聴いたら絶対わかるじゃないですか。一個の哲学があって音楽のベースがあってこれをかけてるんだなってのがわかるんですけど、今の若い子は正直なかなかわからないですよね。特にEDMから入ると。そういうところは今後色々伝えていったり、お客さんにもそういう楽しみ方をしてもらえたらと思います。特に日本だと芸能人とかモデルの子がDJやったりかとかが多いので、そうなっちゃうと特に若い子が迷っちゃうし、俺ら何をやればいいの?みたいな感じになっちゃうので。音楽的に何をやればいいのかわからなくなっちゃう子って、やっぱり勉強が足りないんだよって、厳しい意見になっちゃいますけど、そう思いますね。(レコードを)掘るところから始めたり、曲を考えて作ることとかがすごく大事だと思います。最近のシーンを変えてしまうようなインパクトのある若いクリエイターって、それこそディスクロージャーとかもそうですけど、やっぱりめちゃくちゃ詳しいですしね」
――お話を聞くほど、KOMORIさんが長年第一線で活躍されているのも当然だなと思いました。確固たる地位をすでに築いてますが、今後の更なる目標などありますか?
 「純粋に、今後も続けていきたいです。スタンスを大きく変えずにDJも制作もやっていけたらと思っています。具体的なところで言えば、新しい音源でアルバムなりEPなりを出したいなと。今作は開いた世界っていうか、その時代の音だったりポップな流れだったりするんですけど、EPではもっと閉じた世界観とかもやってみたいです。あとこれからはヒップホップももっとやってみたい。近々ではKEN THE 390の新しいシングル〈after party feat. HISATOMI〉を手掛けてるんですけど、もっとやりたいし、トラックも作り始めてます。向こうはブライソン・ティラーとかケラーニとか、ラップの細かいリズムにメロディがついているような、ヒップホップとR&Bの相互作用がいい形でできているので、そういうのが日本でもできたら面白いですよね。あとは月並みな言い方になっちゃいますけど、20年やってこれたのは周りのおかげなので、何かしらの形で少しでも恩返しできたらなと思います」
取材・文 / 川口真紀(2017年3月)
DJ KOMORI
『20th Anniversary Ultimate Mixtape / THE EP』
UKの歌姫、DES'REEのカヴァーとなる最新プロデュース作「You Gotta Be feat. Ashley」にミックスCD『20th Anniversary Ultimate Mixtape』で初お目見えとなった「Blue Magic feat. 日之内エミ」の2017年版リミックスとオリジナル・テイク、そして邦楽初プロデュース作でもある「FLASH feat. CHiE(Foxxi misQ)& EMI MARIA」を収録したDJ KOMORIのスペシャルEPがiTunes、Android、mora、レコチョク、全サブスクリプション・サービスで4月5日(水)より配信。
wwww.djkomori.com/

[収録曲]
01. You Gotta Be feat. Ashley
02. Blue Magic feat. 日之内エミ(2017 Remix)
03. FLASH feat. CHiE(Foxxi misQ)& EMI MARIA
04. Blue Magic feat. 日之内エミ(original version)
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 角野隼斗 イメージ・キャラクターを務める「ベスト・クラシック100極」のコンピレーション・アルバムを選曲・監修[インタビュー] 色々な十字架 話題の“90年代ヴィジュアル系リヴァイヴァル”バンド 待望のセカンド・アルバムをリリース
[インタビュー] アシックスジャパンによるショートドラマ 主題歌は注目のSSW、友成空[インタビュー] 中国のプログレッシヴ・メタル・バンド 精神幻象(Mentism)、日本デビュー盤
[インタビュー] シネマティックな115分のマインドトリップ 井出靖のリミックス・アルバム[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ
[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも
[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”
[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015