ハミ出し者の生き様――DOGMA x LORD 8ERZ『DROPOUT SIDING』

DOGMA(Rapper)   2019/04/25掲載
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 ラッパーのDOGMAが、ビートメイカー / エンジニアであるLORD 8ERZとのタッグで制作したアルバム『DROPOUT SIDING』を発表。本作は、昨年配信で発表したEP『DEAD LINE』にスキットを含む11曲を追加して作り上げた“架空の映画のサウンドトラック”。豪華な客演ラッパーたちと作り上げた音楽的快楽もさることながら、DOGMAのモノ作りに対するこだわりや、“監督”としての采配、“怪演”が光る。

 タイトルについてDOGMAは、自身が執筆したライナーノーツにて“道を踏み外した者の生き方”または“ハミ出し者の生き様”という意味を込めた造語であると解説している。また、“ヒップホップにおける欲望”というテーマもある。
――最近DOGMAくんがツイートしていた“一般論のモラルより、変態のスキルに興味あるんで”という言葉が印象に残っていて、今回の『DROPOUT SIDING』というタイトルとも通じている気がします。
DOGMA 「たしかに、あのツイートとつながっているかもしれないですね。やっぱりヒップホップなんで、自分の状況を一般人のモラルで説明したところでつまらないんですよね。“変態のスキル”を使ってどうやってラップで説明して伝えていくかなんですよ。世のなかにはハミ出し者がいて、そいつらなりに生きているのは普通の人も知ってるだろうけど、だからこそ逆に、“ああ、そういうヤツらっているよね”って言われる感じの音楽にしたらつまらないと思ったんですよ。やっぱり、ハミ出し者側の夢を見せたい。この音楽を聴いた真っ当に生きている人が、こちらに足を踏み入れたくなるようにしたい(笑)。そうさせてやりたいなって。こちら側が面白い、魅力的だって思えるような、夢のある作品という意味も込めて、このタイトルになりましたね。だから、自分としては、聴き終わったあとにすっきりした感じになるような、タランティーノやコーエン兄弟の映画を観終わったあとの感じになるような作品に仕上げたつもりですね」
――イントロに続く、2曲目「FAILED ESCAPE / DROPOUT SIDING」がいきなり漢 a.k.a. GAMID.Oを客演に迎えた強烈な曲で、後半はタイトル曲でもあります。
DOGMA 「もうこの曲は、『DROPOUT SIDING』の代表曲にしたくて作りましたね。それだったら生半可にやらずにコテンパにやってやろう、と。それしか考えていなかったですね。去年配信で出したEP『DEAD LINE』の1曲目が〈獣道〉で、あれはいかにもDOGMAっていうドロッとした曲じゃないですか。その曲よりもさらにグチャグチャにした曲を2曲目に持ってきましたね。タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』みたいに映画が始まっていきなり家族全員が殺されちまうのか?!じゃないですけど、ダダダダダダッって勢いのある感じにしたくて」
――この曲では漢とD.Oにどういうものを求めたんですか?
DOGMA 「俺の中での漢さんのイメージって歌舞伎町みたいな町の雑居ビルの裏路地に生息している“東洋の悪”なんですよ。それに対して、D.Oくんのイメージは、アメリカのジェイルに収監された、オレンジのつなぎを着た入れ墨がガーッて入った人がフェンス越しにこちらを睨んでいる感じなんです。その2人が同じような曲調のトラックでラップするイメージが湧かなかったのもあって、この曲は2つのトラックの曲調を土台にして1曲にまとめているんです。いまD.Oくんが置かれた状況を〈DROPOUT SIDING〉というタイトルで表現するとどうなるんだろう、ということを真剣に考えましたね。それと、2人のアクの強さを100%欲しくて、そこを自分がどう引き出せるかっていうのもテーマでした。漢さんには俺がラップを録音したトラックを渡して、指定した箇所の8小節を埋めてもらえますかと依頼したんです。16小節じゃなくて、8小節で依頼したのは、Primalさんと漢さんの〈新宿 Running Dogs〉の漢さんのヴァースのイメージがあったからなんです。ああいう感じでお願いしますって」
――曲を作る時、ビートとテーマはどちらが先にありますか?
DOGMA 「半々ぐらいですね。PETZとの〈FALLING ASLEEP AT 4:21AM〉やLIBROくんとMONY(HORSE)との〈TODAY〉は、先に曲名と雰囲気をLORD 8ERZに伝えてビートを作ってもらいましたけど、Cz TIGERとの〈R.E.D〉とか〈獣道〉はすでにあるビートからイメージしてリリックを書いて作っていきましたね。書き直しやトラックの作り直しはめちゃくちゃやりましたね」
LORD 8ERZ 「うん(笑)」
DOGMA 「実は〈TODAY〉とか最初はぜんぜん違うリリックだったんですよ。LORD 8ERZから明るめのトラックが来たので、ドロッドロのリリックでこのトラックを汚してやろう!って思いましてね(笑)。でも、LIBROくんのヴァースを聴いて書き直しました」
――地元を散歩しながら馴染みのお店の名前なんかをネームドロップしていく、ほのぼの系のリリックですよね。
DOGMA 「最初は、最高なことなんて一瞬だし、あとは全部最悪なんだよ、良いことなんてねえよって悪態をついている感じでしたね。明るめのトラックに対して、そういう悪態の方がラップとして面白くなるかなって思って。でも、そのリリックの入ったトラックをLIBROくんに渡したら、いい感じに夢をもたせてくれるヴァースだったんですよね。そこを聴いたあとに自分のラップを聴いたら、“これは浅いな〜”って思って(笑)。俺がこの曲の最後のヴァースだし、暴力描写を抑えめにしてもう少し良い一日で終えられるような雰囲気を出すリリックに書き直しましたね」
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LORD 8ERZ 「〈TODAY〉は、DOGMAの最初の暴力描写のリリックを受けてLIBROさんのヴァースが生まれて、さらにそのヴァースからDOGMAの最終的なヴァースが生まれたと俺は思っていますね。で、MONY(HORSE)がさらにDOGMAをなだめる、みたいな」
DOGMA 「で、俺もそういう2人のヴァースを聴いたら、“なんだ、2人の1日はいい感じだなあ”って気持ちが切り替わって、“じゃあ、俺ももう少し良い1日にしよう”って感じですかね(笑)」
LORD 8ERZ 「そうそうそう(笑)」
DOGMA 「LIBROくんとMONYとやることにならなければ、俺が最初に選ばないようなトラックですからね。この曲についていろいろ考えているときに、“普段絡んでいない人と絡むのもありなんじゃない?”ってアドバイスされて、パッとLIBROくんが浮かんだんですよね。だから、この曲に関してはトラックありきで人が決まっていった感じはありますね」
――どちらかと言うと、LIBROっぽいトラックですよね。
LORD 8ERZ 「だから、LIBROさんが最初のヴァースをラップするって決まった時点で、そこは映えるように意識してこのビートは工夫しましたね」
――「R.E.D」に客演で参加しているCz TIGERもアクが強いですよね。
DOGMA 「関西弁で話してくる前の段階で関西人ってわかるぐらいの自分アピールがあるヤツでラッパーとしては面白いけど、自分とは違うタイプのラッパーだとは思っていたんですよ。だから、当初は曲を一緒に作るイメージが湧かなかったんです。そんな俺らの関係の真ん中に、陶酔した液体の世界があったんですよね。それで、Cz TIGERのそういうドロップアウトしている要素を俺のアルバムに混ぜて作ったカクテルという感じですね、この曲は。面白い化学反応が起きましたね」
――「R.E.D」は、エフェクトとか細部の音とか含めて、トリップ・ミュージックとしてかなり凝っているんじゃないかなと思って聴きました。
LORD 8ERZ 「最初は一緒に曲を作ろうって話ではなかったんです。一緒に遊んでいて、せっかくスタジオだし、音を流そうって感じから始まってる」
DOGMA 「で、ラップを書いて録音して一晩でできましたね。そのあと、1回ぐらい修正して完成。音でトリップの感じを伝えることに関しては、この曲は相当凝っていると思いますね。“歪む”とか“曲がる”とかいろんな表現があるじゃないですか。俺の中での〈R.E.D〉は後頭部がぶれてくるっていう感じなんですね。後頭部でボワーンっていう音が常になっているような気がして、ドロンドロンしている。そういうわかりづらさをいかに表現するか?っていうことを考えたんですね。そこで、シンプルにそういう音を入れてしまえばいいんだって思ったんです。それで1ヶ所、シューティングゲームの迫撃砲っていうんですかね、“ビュン”っていう爆発音を入れているんですよ」
LORD 8ERZ 「ブ〜ンっていう音も入れているよね」
DOGMA 「最初から入っているベースの音があるじゃないですか。“膝から落ちていく”っていうリリックのあとにブ〜ンって鳴るベースの音です。あれは俺がLORD 8ERZに“こういう風に膝から落ちていく感じのベース音が欲しい”って説明して入れてもらったんです」
LORD 8ERZ 「DOGMAが俺の家に来て、俺がTR-808の音をいくつか聴かせて、“これじゃない、あれじゃない”って言いながら選びましたね(笑)」
DOGMA 「そうやって〈R.E.D〉の感覚を伝えるサウンドを作り出したんです。その話の流れで言うと、次の曲の〈GHOST / DISENGAGEMENT〉もトリップ・ミュージックのサウンド面っていう点ではかなり凝っているはずですね。その一方で、〈ワルノリデキマッテルリミックス〉は、世の中にいろんなドラッグがありますけど、それについてモラルだなんだ言って文句言っているヤツらはうるせーなーっていうのをラップの言葉で悪態をつく曲ですけど(笑)」
――いろんな固有名詞がバンバン出てくるので驚きますね。
DOGMA 「はい、そうなんです(笑)」
――DOGMAくんは大の映画好きでも知られているじゃないですか。今回の作品を作る上で参考にした映画とかありますか?
 
DOGMA 「昔から好きな『JUNK FOOD』っていう山本政志監督の映画があるんです。その映画のワンシーンのオマージュが今回の11曲目の〈SKIT〉の最後のセリフですね。“さっさと大人になれよって言ってやりたいんですよ”、“大人になるのって難しくねえ”っていうセリフのやり取りは、その映画のワンシーンから来ているんです。先輩役の津田寛治が甲高い声で“お前らちょっとは大人になれよな”っていうのに対して、鬼丸が“大人になるって難しくないですかねえ”って返すんですけど、それが口調も含めてカッコイイんですよね。まあ、そのスキットは“たまプラ集合”って言ったら、鎌倉に行っちゃった、実際にあった後輩のマヌケなエピソードを織り交ぜているんですけど」
――なるほど。ちょっと話は変わりますが、「ニートtokyo」のDOGMAくんの出演した際の「フロウの発見」っていう回が面白くて。ここ最近の客演曲とか、この最新作を聴いても、さらにラップやフロウに磨きをかけていると思うんですけど、最近、ラップのフロウとかについて考えることはありますか?
 
DOGMA 「俺が20代のころは、90年代のウータン・クランのビートとかのBPMでフロウすることが多かったんですけど、トラップが流行るようになってからはやたらBPMが遅かったりするじゃないですか。その空間の埋め方って昔とだいぶ変わってきていると思うんですよ。でも、その空間の埋め方もあるやり方が流行ってくると、だいたいみんなそうなっていくじゃないですか。でも自分はそれと違うハメ方を追求したかったんですけど、なかなか上手くいかなくてどうすればいいんだろうって悩んでいるときもありましたね。でも、ある時期ぐらいから、トラップの“上音に乗っける”とか“上音に当てる”っていう発想でフロウできるようになって変わっていきましたね。自分の声のキーがトラックと合うか、合わないか、みたいのも曲を多く作っていくとわかってくるんですよ。でも、客演の依頼が来たときとかに、“このトラックじゃ俺は乗れません”って断っちゃうとドンドン仕事は減るじゃないですか。それで何でも乗りこなしたくなりたくなってきたんですよね。でも俺の中には2度同じようなことはしたくないっていうのはあって。例えば、『gRASS HOUSE』に入っている〈杉並区(Miyamae Suginami City)〉って曲とか、言葉をたくさん入れてケツで落そうとするから、小節の最後の方にダダダダダダッて言葉を詰め込んじゃう。ああいうのはもうたまにしかしたくない、とかありますよね。言葉の角が強い、角が丸いで、これだけ違うんだな、とか。最近は前よりは良い意味でサラッとしたところはありますね」
LORD 8ERZ 「DOGMAはラッパーとしての声がすごくいいし、ラップの精度が高いし、基本なんでもできちゃうんですよ。〈ワルノリデキマッテルリミックス〉のあとに〈獣道〉を録っていったんですけど、“こういうフロウでハメてみたら?”と提案すると、すぐにその提案を自分のスタイルで消化できちゃうんです。だいぶ研究していると思いますね。『gRASS HOUSE』のころから俄然進化したし、柔軟性が増しました。だから、あれもやりたいこれもやりたいって俺もDOGMAも次々にアイディアが出てくるから、録音作業していて自分も楽しかったですね。それがDOGMAのラップの面白さですよね。紆余曲折あってトラックを作り直したり、ラップを録り直したりしましたけど」
DOGMA 「俺はマジで超うるさいですからね!(笑)」
LORD 8ERZ 「ヤバいっすよ(笑)。普通のビートメイカーやエンジニアの人とかだったら、頭が混乱して“ウワー!”ってイヤになっちゃうと思う。だって、ディレクションしているDOGMA本人がちょっと混乱したりしていましたから(笑)」
DOGMA 「俺、お願いしたあとに、“ヤバい……、超面倒なことを頼んでしまったかもしれない”って思ったりしてましたから(笑)。〈FAILED ESCAPE〉から〈DROPOUT SIDING〉のあいだに入る声を電波の悪いラジオ・ヴォイスっぽく聴こえるようにしようと提案したり」
LORD 8ERZ 「これです、これ(笑)」
DOGMA 「あと、〈FAILED ESCAPE〉はエンジン音から始まるんですけど、“ブオオオーンっていう音はここのタイミングで入れて欲しい”とかっていうのもめちゃくちゃうるさかったです」
LORD 8ERZ 「“コンマ1000分の1秒ずらして下さい”とかマジでそういう指示してきますからね」
DOGMA 「常に新しい発見があってそれを自分の作品で活かしたり試したくなるんですよ。たとえば、トラヴィス・スコットの曲を聴いていて、“ヒャーンって音が聴こえるぞ。これは何だろう? タイヤの軋む音みたいのが入っているな”って気づいたら、それを自分流にやりたくなってしまう。それをやったのが、GOODMOODGOKUとの〈GAME OVER〉なんです。あいつは北海道出身なんで、ディーゼル機関車の音と汽笛から曲が入ると、雪吹雪が舞い上がっている感じになって面白いかもしれないと考えたんです。それで、YouTubeでディーゼル機関車を検索しまくって、途中で“やっぱり寒い土地のディーゼル機関車じゃないと雪の音が入らないな”と気づいたり」
LORD 8ERZ 「それ、言ってた(笑)」
DOGMA 「“これは違うなー”っていう連続で、“じゃあ、お前の正解の汽笛の音はどれだよ!”って我ながら思ったんですけど。それだけで1日とか2日かかっちゃってるんで。だから、このアルバムのミックス作業をしてくれたI-DeAくんにはだいぶ迷惑かけました(笑)。“ここは道路交通情報センターの音がもう少し聴こえないとカッコよくないんです”とか言っちゃったりして、I-DeAくんを少しイライラさせちゃって。だんだん返事ももらえなくなっちゃって、そういうところから俺の面倒くささが浮き彫りになるというかですね」
LORD 8ERZ 「ははははは(笑)」
――そう考えると、現時点でのラッパー / クリエイターとしてのDOGMAが持っているアイディアを投入して作ることのできるヒップホップ・アルバムを作り切った感じはありますか?
DOGMA 「まあまあ、そうですね。最初は13曲ぐらいかなって言っていましたけど、SKITとかも入れたら、最終的に17曲になりましたしね。DOGMAってヤツを知っている人とDOGMAってヤツを知らない人、その両方にどうやってアプローチするか、そのバランスについてはすごく考えましたね。そこが最終的にテーマになりました」
LORD 8ERZ 「たしかにそれは作っていくうちに一番のテーマになっていった」
――ジャケットもインパクトありますよね。
DOGMA 「90年代の映画のVHSのジャケットっぽくしたいというのが薄っすらとイメージとしてあって、“DROPOUT”っていう単語でいろいろネット検索していたんです。そうしたら、ビルにぶら下がっている手だけの部分が絵になったポスターがあって。そこからさらに考えて、BANK ROLLしたお札の中から手が出てくる絵にしたら、欲望から抜け出せない男たちを象徴するような絵になるなと。そんな話をLORD 8ERZと2人で鎖(9sari)の事務所で話しているときに、このジャケットの絵を描いてくれることになるJelly Flashが別件でガラガラって入ってきたんです。それでいま話した構想を伝えたら、“それ面白そう”って引き受けてくれて。描いてくれるならトータルで任せたいなということになって、裏ジャケも描いてもらいました。裏ジャケは、一番やっちゃいけないことは何か? 欲望は何か?って考えて、アダムとイブの禁断の果実から連想したリンゴの絵、さらにCDを取ったところにある、かじられたリンゴの絵も描いてもらったんです。リンゴに血のりをドバドバに塗ったものを作ってもらって、それを模写するところからこの絵は始まっているんです。そこまでやるからには、発売日も延ばしてもらうんで本格的にやってくださいって」
――欲望から抜け出せない苦悩を描いてテーマにしているのがこの作品の面白さですよね。
DOGMA 「この作品の中でも、“欲望は追いかけるほど逃げていく寸法だな”ってラップしていますけど、それがリアルですからね」
取材・文 / 二木 信(2019年4月)
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