――まず、アルバムのお話をうかがう前に、dooooくんが所属しているクリエイター集団CreativeDrugStoreについて教えていただけますか?
「僕は岩手の盛岡出身で、23歳の時に上京したんですけど、
SoundCloud にアップしていた自分のDJミックスを共通の知り合いを通じて、THE OTOGIBANASHI'SのBIMが聴いてくれて。そこから連絡を取り合って、遊んだり、曲を作ったりするようになったのが最初ですね。CreativeDrugStoreは、ポップアップショップという形で不定期にイベントをやっていて、そこで作った服やCDを売ったりしている以外は、それぞれがバラバラに好きなことをやって、楽しくやってる集団ですね。今回の作品からもお分かりかと思いますが、僕はドープな音楽が好きで、複雑な音楽、難解な音楽ばかり聴いてきたんですけど、CreativeDrugStoreのみんなはそういう音楽も好きだし、キャッチーな音楽や洗練された音楽をはじめ、色んなものが好きだったりして。そんな彼らと出会って、一緒にいるうちに、自分の表現の幅も広がったと思いますね」
――今回のアルバム『PANIC』の根幹をなす“ドープ”な感覚を言葉にするなら?
「言葉にするのは難しいんですけど、僕は怖い、おどろおどろしい映画や画家のベクシンスキーやギーガー、漫画家の西岡兄妹なんかが好きだったりして。例えば、ギーガーがクリーチャーデザインを手がけた映画『
エイリアン 』のエイリアンは気持ち悪く、同時に黒く重厚感があって格好良かったりもすると思うんですけど、音楽に関しても、どこか気持ち悪く、それでいて、ヒップホップ的な格好良さがあるものに“ドープ”さを感じるし、そういう作品を作りたいと常々思っていたんです」
――今回、どういう流れからアルバムの制作に取りかかったんですか?
「以前から
bandcamp で作った作品を発表してきたんですけど、今回のアルバムの取っかかりとなったのは、去年、12インチ・シングルで出した〈Street View feat. BIM, OMSB & DEEQUITE / Purple Flower feat. Babi〉ですね。この2曲を作った時に“どうせなら、このタイミングでやりたいことを1枚の作品で全部やりたいな”と思ったんですよね」
――N.W.A. のシャウトが入っているGファンク・マナーの「Street View」とスローモーな4つ打ちの「Purple Flower」は、全く方向性が異なりますよね。 「そうですね。すでにヒップホップを聴き始めていた中、高生の頃、“将来、もし何か作品を出すことがあったら、Gファンクの曲を作りたい”と決めていたので、それで〈Street View〉を作ったんですけど、僕はそういう決めつけというか、思い込むところがあって。今回、P-VINEからアルバムを出すのも、ヒップホップに出会った頃から大好きな
キングギドラ さんの『
空からの力 』のリリース元だったりするので、自分もいつかP-VINEから作品を発表したいなと思っていたからなんですよね」
――自分の夢であり、謎な執着のようなものでもあり。
「ははは。そうですね。そして、僕は自分で和物のミックスを作ってしまうくらい、ポップスも好きだったりして、それを自分でやったのが〈Purple Flower〉なんです。フィーチャリングで参加してもらったBabiは高校の同級生で、当時は一回もしゃべったことがなかったんですけど、その後、Babiがアルバムを出した時、新宿のタワーレコードでやったインストアイベントに行って、“え? 見たことあるけど、何でいるの?”っていうところから頑張って仲良くなった、その成果だったりもするんですよ」
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――音のみに徹底的にフォーカスするビートメイカーも多いなかで、dooooくんの今回の作品は長らくあたためていたアイディアや思い、人との繋がりを含めたご自身の歴史も反映されているわけですね。
「そうですね。自分が育った岩手の良さを伝えたいという気持ちがあって、Babi以外にもビートメイカーのMONKEY_Sequence.19や〈Time Again〉に参加してもらったHUNGERさんも岩手出身ですし、MONKEY_Sequence.19とAru-2が参加している〈Sansa Dance〉は盛岡の祭りである“盛岡さんさ踊り”から付けたものだったりして。その祭りではさんさ踊りという土俵の上で色んな団体が自分たちの踊りを披露しているので、それと同じことをビートでやろうと思ったんですよね」
――HUNGERが参加していることとも関係していますけど、盛岡にはJAZZY SPORTの支店がありますよね。
「そうですね。JAZZY SPORTの影響は大きくて、それ以前は90年代のヒップホップやR&Bばかり聴いていたんですけど、JAZZY SPORT周りの人がやってるイベントに遊びに行ったら、
ディアンジェロ を薦められて。そこからドープな音楽をどんどん教えてもらっていたので、僕のなかでJAZZY SPORTの影響は大きいですね」
――そして、今回の作品には要所要所で入っているスクラッチが、ビートメイカーであると同時にDJでもあるdooooくんのバックグラウンドを垣間見せていますよね。
「正直、スクラッチは得意な方ではないんですけど、自分が聴いてきた格好いいヒップホップにはスクラッチが入っていたということもありますし、岩手ではビートを作りつつも、外に向けてはDJとしての活動がメインだった自分も見て欲しくて。このアルバムでは、曲順やフィーチャリングするアーティストに関してもDJとしての自分だったらどうするのかということは考えましたし、こだわりましたね」
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――仙人掌が参加した「Pain」を含め、90'sヒップホップの影響が感じられるアルバム前半から後半に進むに従って、謎めいた世界に誘われる、そんな流れになっていますよね。
「まさにそれは僕が狙っていたことで。最初は万人がかっけーって思ってくれる曲から始めて、ちょっとずつ変な感じ、ドープな感じになっていく流れを作っていったんです。ただ、仙人掌さんとの〈Pain〉もドープでありつつ、リズムが跳ねたこういうトラックは意外にありそうでなかったりすると思いますし、今回のアルバムでは誰もやっていないことをやりたかったんですよね」
――そして、THE OTOGIBANASHI'Sのin-dをフィーチャーした「iSLAnd」ではレゲエ、YENTOWNのMonyHorseをフィーチャーした「Utage」はメキシカンなネタ使いがどこかトライバルな印象を受けます。
「〈iSLAnd〉はin-dのアルバムに入っているんですけど、ここではそれをさらに解体して、ヒップホップらしい面白さが感じられる曲になりました。そして、〈Utage〉は岩手に住んでいた10年前に見つけていたネタで、将来使おうと思っていたんですけど、この曲では岩手で得たヴァイブスと上京後に出会ったMonyくんのヴァイブスを合体させましたね。ネタ的な話をすると、僕は民族音楽も好きだったりするので、このアルバムにはそういう側面もあると思いますね」
――さらにスローモーな4つ打ちの「Purple Flower」しかり、インダストリアルテクノを彷彿とさせる「Sith」しかり、ハイブリッドなビートはdooooくんならではの作風であるように思いました。
「僕はDJをやる時、ヒップホップ、R&Bだけじゃなく、テクノやディスコ、生音、打ち込みだったり、色々かけるんですけど、僕が岩手で遊んでいたのはそういうパーティだったので、自然と音楽の幅が広がったということがあって。でも、東京で会う人は、ヒップホップを聴くけど、テクノは聴かないとか、そうじゃないパーティもあるところにはあるんでしょうけど、イベント自体もかかるのはヒップホップだけだったり。だから、このアルバムでは、ヒップホップもやるけど、それ以外にもこういうこともやるよと提案することで、ヒップホップしか聴かない人に対して、それ以外の音楽を聴くきっかけになればいいなとも思ったんですよね」
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――近年、メインストリームではケイトラナダ のようにクロスオーバーなビートメイカーも登場していますが、dooooくんがシンパシーを感じるビートメイカーは? 「自分がヒップホップと出会った頃に知った
DJ KENSEI さんや
TEI TOWA さんも大好きだったりしますし、最近だと、ブレインフィーダー周りですかね。
フライング・ロータス も最近新曲を出しましたけど、ぶれずに気持ち悪さを打ち出していますし、アルバム『
You're Dead 』のアートワークに起用した漫画家の
駕籠真太郎 は自分も大好きだったりするし、彼のSNSに出てくる漫画家さんも自分の好みと共通するものがあったりして。音だけじゃなく、映像やアートワークも含め、自分のドープな好みのど真ん中なんですよね」
――そのドープさはインストトラックに色濃く表れていると思うんですけど、ブレイクコアを思わせる「Heiyuu」の奔放なビートはどのように生まれたんですか?
「CreativeDrugStoreには、Heiyuuっていう映像作家がいて。そいつは作る映像や行動がぶっ飛んでいるんですけど(笑)、彼のことを曲にしたら、あんな感じになってしまったっていう。僕は曲を作る時、見た映画や漫画、人や出来事に触発されて、頭の中で漠然とイメージしたものに合う音を探しながら、曲を作るんですよ。だから、例えば、〈doootron〉では自分自身を音で表現していますし(笑)、〈Brain Maschine〉では、僕の脳内を今回のメイン機材であるMaschineで投影したり、〈Psychedelic Woman〉では暴力的なところがある自分の嫁をイメージしましたね」
――はははは。暴力的な嫁……ですか。ジャケット写真の人肉MPCがドープネスを象徴した今回のアルバムですが、作品トータルではどんな世界観をイメージしたんでしょうか?
「長く聴いてもらえるように、曲順を考えたり、キャッチーな曲を入れたりしつつ、最終的には『PANIC』というアルバムタイトル通り、聴く人がパニックに陥る、そんなアルバムになっているとうれしいです。僕はヒップホップももちろん好きなんですけど、他のジャンルも同じくらい好きで、このアルバムではそういう自分を表現したつもりですし、これからもヒップホップにとらわれず、自分の好きな音楽を作っていきたいですね」
取材・文 / 小野田 雄(2017年11月)
CreativeDrugStore Pop Up Shop Vol.8 “Santa's Workshop”