もうひとつのシティ・ポップ――Dos Monos『Dos City』

Dos Monos   2019/03/20掲載
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 チェコの小説家ミハル・アイヴァスと松尾スズキ、あるいは、サン・ラキャプテン・ビーフハートカジモトマッドリブ)とSIMI LABの遺伝子が脈打つ音と言葉とコンセプトから構成された日本のヒップホップの作品と説明されたら、あなたは一体どんな音と言葉を想像するだろうか。

 1993年生まれの中高の同級生が2015年に結成した3人組のヒップホップ・グループ、Dos Monosが発表したデビュー・アルバム『Dos City』がユニークで面白い。荘子it(ラッパー / ビートメイカー)、没(ラッパー / DJ)、TAITAN MAN(ラッパー)の3人の初期衝動と知的好奇心、遊び心と明確なヴィジョンを具現化した快作だ。

 Dos Monosは、昨年5月、JPEGMAFIAclipping.といったオルタナティヴかつエクスペリメンタルな表現を追求しているアーティストを擁する米LAのレーベル、Deathbomb Arc(デスボム・アーク)と契約した。そして先日には、Warp RecordsSpotifyで公開している「A Weekly Mixtape」というプレイリストに彼らの「Clean Ya Nerves」が入ったことが話題となった。
――Warp Recordsの「A Weekly Mixtape」っていうSpotifyのプレイリストにDos Monosの「Clean Ya Nerves」が入っていましたね。
 「あれ、ヤバかったよね」
TAITAN MAN 「僕の友達にWarp好きがいて、“入ってるよ”ってフェイスブックのメッセンジャーで教えてくれて。“え? マジじゃん”みたいな(笑)」
荘子it 「Warpのどういう役職の人がどういう経緯で選んだのかまったく不明です」
 「僕らがディールしているDeathbomb Arcっていうアメリカの西海岸のレーベルもびっくりしていましたね」
荘子it 「Warpって、電子音楽のレーベルのイメージが強いじゃないですか。エイフェックス・ツインとか中学の時とかけっこう聴いていましたし」
 「でもWarpってそのころとはまたちょっと違うけどね」
荘子it 「そうなんだ。フライング・ロータスも出しているよね。面白かったのは、Dos Monosが無理なくプレイリストに入っていたことですね。オレらの前の曲が洒落たサンプリング系のトラックで、音の質感がDos Monosの導入になりそうな感じだった。で、Dos Monosの次の曲が、マッド・プロフェッサーマッシヴ・アタックの曲をダブミックスした〈Backward Sucking(Heat Miser)〉だったんです。意外だったのもありますけど、オレらの音楽的出自や文脈に気づいてくれているのかなって。そこもうれしかったですね」
――自分たちの知らないところでWarpのプレイリストに入っていたと。
荘子it 「そうなんですよ。Warpのプレイリストに入ったすぐあとに、小袋(成彬)くんも“入れたよ”ってメッセージくれて。嗅覚の鋭さを感じましたね(笑)」
――『Dos City』、とても面白かったです。まず三者三様のリリックが興味深くて。リリックを書いてラップすることが思考実験になっているような側面もあるのかなと感じたんですが、どうですか?
 「最初はマンブルラップみたいに“わぅわぅわぅ♪”みたいな声だけ録音して、それに歌詞を当てていったりしますね。あとは、絵が浮かぶ感じで書きたいなって。なので、オレはあんまり歌詞の意味は考えていないです。ゴミみたいなものに面白いものがあるっていうふうに考えていて、そういう発想から出てきた言葉でいかにヒップホップっぽく言い切るかっていうのを意識していますね」
――没さんが“shit”をくり返すのは「スキゾインディアン」でしたっけ?
 「そうですね」
荘子it 「没は〈スキゾインディアン〉で“俺はゴミだから帰っていいよ バイバイ”ってラップしているね」
――そう、まさにゴミのリリックもあった。
 「〈スキゾインディアン〉は、めっちゃイキっている自分とまったく自信がない自分の両方がピクピクしながら出ている。そういう二重性・自滅性はDos Monosでの自分のテーマの1つで。〈in 20XX〉っていう曲のリリックは、日常の中からシームレスに出てくる、人の狂気を表した感じですね」
荘子it 「パンク好きだったしね」
――ウェブにアップされているいくつかのインタビューを読ませてもらったんですけど、中学時代からの友達で、それぞれバンドをやっていたそうですね。
荘子it 「没はパンク・バンドで銀杏BOYZのカヴァーとかやっていて、オレとTAITAN MANはもうちょっとすかした音楽が好きで。Dos Monosの中でいちばんパンキッシュなのは没だろうね」
TAITAN MAN 「リリックについて言えば、オレはいろんな角度から自分のことについて言っている感じがしますよね。すべてが自己再帰性っていうか」
荘子it 「オレがいちどこいつに文句を言ったのは、“お前がリリックの中で批判しているのはお前自身だろ!”ってことですね」
TAITAN MAN 「歌詞のすべてが過去の自分についてだったりしますね。だから、他人や他者を批判しているようなリリックに聴こえたとしても、それは自分のなかにある感情の発露だったりするんです。リリックで自分に“目潰し”している感じですね」
荘子it 「目潰しって(笑)」
――TAITAN MANさんのリリックで僕が印象的だったもののひとつは、「バッカス」の“なれるわけねえなあ(レーニンにも能年玲奈にも) フーコーだかユイレなんだかの哲学”ですね。レーニンと能年玲奈で韻踏むラッパーなんているんだ!って(笑)。
荘子it 「ははははは!」
TAITAN MAN 「そこはやっぱ引っかかるんですね。でも、そこははっきりとは発話はしてないんですよね(笑)。取材ってすげぇ(笑)」
――ははは。いや、アルバムを聴いていてリリックが面白いと思ったので歌詞を読みたくて取り寄せてもらったんですよ。
TAITAN MAN 「ナンセンスなところに手を伸ばしたかったんじゃないか、という気はしますね」
荘子it 「TAITAN MANは、論理とか構造じゃなくて、固有名詞を並べてみた時の面白さを追求しているんだと思いますね」
――例えば、思想とか哲学とか文学からの影響をラップに反映させているラッパーの代表選手と言えば、かつてカンパニー・フロウのメンバーとして、いまはラン・ザ・ジュエルズとして活躍しているNYのエル・Pがいますよね。彼は社会意識に基づいた明確な主張がある人で論理的なラップをする時もありますけど、一方で言葉遊びに近い、文脈を飛躍させたラップも得意としていますよね。
 「オレは、カンパニー・フロウ、めちゃめちゃ好きですね」
荘子it 「サンプリングのヒップホップって作り手側の人によっては文脈にすごく自覚的だったりするじゃないですか。サンプリング元の原曲が手元にあるわけだから。オレもどっちかと言ったら文脈にこだわる方なんですけど、でもたとえばジャズの曲の中の、ある気持ち良いフレーズを原曲の文脈から完全に引き離して他の音とコラージュしたトラックは、リスナーにとっては本来異様なもののはずなんですけど、でもそんな文脈の関係ないものを組み合わせる面白さっていうのは、聴いて感覚的に楽しめるわけじゃないですか。そういう音のコラージュの面白さは一般にも浸透している。だけど、言葉のコラージュはまだ一般的に浸透していない部分もあるなって思うんです。だから、レーニンと能年玲奈を並べるとさすがに違和感がある。それをやっているのがTAITAN MANのリリックだと思います。音の次元で許されてることを言葉の意味の次元でもやってしまうっていう」
――言葉のコラージュは荘子itさんもかなり意識しているところなんじゃないんですか?
荘子it 「僕も固有名詞が多いところはTAITAN MANに似ているのかなと思いますね。自分が影響を受けてきたものとか、自分が学んだものとかの固有名詞って、絶対自分に含まれて来るから、それらを組み合わせて表現する。まぁ日常会話で固有名詞を並べるヤツってバカっぽいんですけど。自分がないみたいな感じで。でも、ヒップホップのリリック、ラップだったら、それも表現として面白いと思ってます。たとえば、“龐統(ほうとう)と諸葛亮(しょかつりょう)”って三国志の軍師なんです。で、〈連環の計〉っていう戦法があるんです。鎖でがんじがらめにして攻める戦法で、龐統が曹操軍を倒すときに使って。そこから“連環の計like 龐統諸葛亮よりも起こす乱like陳勝と呉広”ってリリックができた」
――「マフィン」のリリックですね。その曲の荘子itのリリックに、“階級闘争 マルクスに関しちゃトーシロ”ってあったり、あと“ダーリンがスターリン批判したり マタハリがスパイきな臭い処刑したい ヒッチコックの法治国家”(スキゾインディアン)とか“ポルポトのジェノサイド”(ドスシティ)ってあったり。こんなに、共産主義に関連する用語や固有名詞で韻を踏んだりフロウする日本のラップは他にないですね。
荘子it 「共産主義のイデオロギー自体は関係なくて、ただオレは、固まったものを流動的にどんどん解きほぐして液状化させてこう、っていうタイプの主張が基本的には好きで。さらにそういう主張を自分の言葉じゃなくて、全然関係ない固有名詞をブリコラージュして言ってみたりしていて。理路整然とラップするんじゃなくて、元々ある事象を組み合わせて自分の主張にしちゃうっていうその居心地の悪さを含めた面白さが好きなんですよ。自分の論理はいま言ったように説明できるんですけど、その上で、自分の論理が、別の文脈の言葉や言語を使う時にゴチャっとして崩れていくことも含めて楽しみたいっていうのがありますね。だけど、TAITAN MANはもっと感覚的で、即物的だと思う。だって、TAITAN MANがフーコーをリリックに入れたのも、オレがフーコーについて話していたからでしょう?」
TAITAN MAN 「かなり大掴みで捉えて使っているね」
荘子it 「その暴力性が、途中までは論理的でありたいオレとしては、ある意味で怖いとこではあるんです。文脈をわかっている人からすると、“お前はフーコーとユイレをどういう文脈で結びつけているんだ?”って反論したりツッコミたくなると思うけど、それをわかっていても堂々と言えてしまうのがラップの暴力性の面白さだとも思います」
――ただ、その暴力性は、荘子itさんがこの作品のリリックについてこうやって論理的に説明できるから成立していますよね。
TAITAN MAN 「いや、完全にそうだと思いますよ。特に僕のリリックについて言えば、説明が必要だと思います。自分は何かの思想を出発点にして歌詞を書いているわけではなくて、まずは言葉の響きありきなんで」
――ところで、没さんは、サン・ラを研究しにUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に留学していたそうですね。どういう研究をしていたんですか?
 「研究まではいかないと思うんですけど、UCLAにアフロ・フューチャリズムについて学べるコースがあって1年間その授業を受けていましたね。元々サン・ラの音楽が好きだったのもあって。アメリカ南部のアラバマで生まれたサン・ラがなぜああいう超越的な存在になったのかっていうところに興味があったんです。ちょうどアメリカでブラック・ライヴズ・マターが盛り上がっている2015年〜16年に留学していたので、その授業にもアフロ・アメリカンが生き抜く術としてアフロ・フューチャリズムを学びに来ているアフロ・アメリカンの学生もたくさんいて。だから、ブラック・ライヴズ・マターの盛り上がりがアフロ・フューチャリズムへの関心を高めているのを知ることができたのは面白かったですね。個人的にはもっとサン・ラ自身の考え方や人生にフォーカスしていたんですが」
――それはかなり興味深い話ですね。LAの音楽のシーンはどうでしたか?
 「LAのラップ・シーンにはそこまで入り込めなかったんですけど、ローファイ・ビーツの現場にはよく遊びに行っていましたね。面白かったです。僕が絡んでいたシーンはわりとチカーノ系の人が多かったと思います」
荘子it 「没は、いま流行っているローファイ・ビーツのシーンからはすくい取られていないような音楽がホントに好きで。そのあたりのいちばん深いところの音楽を教えてくれるのが没ですね」
 「Hi-Hi-Whoopeeが制作した『Meili Xueshan I&II』(2014年)っていうコンピレーションがあって、そこにローファイとエクスペリメンタルの間くらいのことをやってる人達がいたんですよ。その中で知ったjames matthewっていう人とかと、LAでは遊んでいました。彼に会いたかったのも、LAに行った大きな理由のひとつだったんです」
――なるほど。アルバムでは、イントロの「ドストロ」を没さんが、それ以外のビートは荘子itさんが作っていますね。
荘子it 「パソコンのデスクトップのDTMでビートを作り始めた最初期のものが、Dos Monosに直結していて。バンドをやめてひとりで何か面白いことが出来ないかなって時に、ギターのオーディオ・インターフェースにくっついて来たAbleton(音楽制作ソフト)を使って試行錯誤して自分なりに作り出したんです。オレがAbletonのいちばん面白い機能だと思っているのは、ワープ機能ってやつなんです。サンプリングした音でも弾いたギターの音でも、オーディオ・データのなかでピンを打って、そのピンとピンの間隔を引き延ばしたりして打点をずらしていく。レコードなりからサンプリングした3秒のフレーズを伸縮させてそれを整えていく、みたいな作業ですね。絵画にたとえるならば、絵具をいちどキャンパスにぶちまけてから作品にしていく感じ。そうやって緻密にループを作っていく。だから、MPCのパッドに音をアサインしてそれを叩いて鳴らして作るヒップホップ的な身体性とは程遠い作業なんです」
 「一般的なヒップホップの音の作り方がコラージュの切り貼りだとしたら、こいつは絵具をグチャッとやって水で伸ばして、みたいな作業をしている。そうやってどんどん音を重ねる感じですね」
――スピリチュアル・ジャズからサンプリングしたような管楽器の音から始まる曲ってなんでしたっけ? 「スキゾインディアン」でしたか?
荘子it 「そうですね。あの曲は超短い、サックスのフレーズにピンを打って引き伸ばしてああいうループを作っているんです。ビートが入ってきてからピッチを1オクターブ上げてさらに電子的な音にしたり。そうやってアナログな楽器の音なんかを電子的にいじくるっていうのが好きで快感なんです」
――サンプリング・ソースとそのループは明瞭に具体的に聴きとれるんですけど、総体として聴くとアブストラクトな音像になっているのは意識的にやっているんですか?
荘子it 「そこは意識的ですね。いままで誰もやっていない、実現していない、アナログとデジタルのバランスっていうのを常に考えていて。口で言うのは簡単ですけど、どっちも良いとこ取りした音を表現するためには細かいニュアンスが必要なんですよね。そこで誰かに似ちゃうとつまんないなって思っていてボツにしている曲もいっぱいあります。根本的に新しいって思うものしか興味がなくて、自分も絶対それをやりたくて。世界で絶対誰もやってないバランスのトラックにはなっているとは思います」
――TAITAN MANさんにも話を訊きたいんですが、バンドではドラマーだったそうですね。
TAITAN MAN 「そうですね。元々ドラマーなのもあって、極論を言えば、僕はリズムにしか興味がないんですよね。歌詞の意味とかには興味がなくて、リズムなんです。僕が見てきた人間のなかで、荘子itはいちばんロジカルだし、構造とかの構築力も異常に高い。同世代のなかでその点に関してはトップレベルだと思うんです。だから、オレはその道は歩けないわって判断した可能性は高いです」
――Dos Monosでのラップが、初めて人前で歌ったり声を出したりする表現ですか?
TAITAN MAN 「いや、大学で演劇をやっていたので、発話することへの興味はあったんです。僕は松尾スズキが大好きで、彼の『ファンキー――宇宙は見える所までしかない』っていう本があるんですけど、物語を前に進めるためのセリフというより、その瞬間の面白さだけを追求したセリフで書かれているんです。お笑いコンビで言えば、ジャルジャルの笑いに近いと思うんですけど、僕も意味から逃げたいというのはずっとあって。ドラムをやっていてリズムに対する興味が芽吹いて、演劇で人前で発話することの快楽に目覚めて、その結果いま、ラップという表現にたどり着いたのかもしれません」
――リズムと発話という観点で自身が今回上手くラップできたと思うところを具体的に教えてもらえますか?
TAITAN MAN 「ヴァース単位で言うと、〈スキゾインディアン〉の蹴り出しの“朱色に染まる肌色のピンク”っていうところですね。何も言っていないんだけど、何かを確実に言っている」
荘子it 「いちおう、あれ、セックスの時の身体の火照りとかを描写しているんでしょ?」
TAITAN MAN 「まあ“朱色に染まる肌色のピンク”なんでチ○コですね。だから、その流れで“そのまた奥から白濁のミルク”とある」
荘子it 「で、最後に“パッンパンに詰まった 海に静かに沈める”(笑)」
TAITAN MAN 「ただ、でも、あのヴァースに関しては蹴り出しが好きです。何か余計なものを想起させるのがカッコイイと思っている節が自分のなかにはありますね」
――聴き手側、表現を受け取る側の想像力を喚起したい?
TAITAN MAN 「うん、それはありますね」
――変なものを想像させてやろう、みたいな?
TAITAN MAN 「まさにそのとおりですね。松尾スズキにめちゃめちゃ影響を受けているというか、彼の作風が好きなんです。例えば、舞台にある女性を登場させた時に、“チ○コが付いていない女性”と観客に思わせる力があるんです。そういう言葉とか使っていないのにもかかわらず、観客はその女性を見た時に、“付いていない女性だ”と思う。僕は、そういう余計なノイズが入ってくる作風に惹かれるんですよね。極論を言えば、アルバムを作る時にゼロからスタートして100を目指しているはずなんだけど、ゼロのままだったっていうのがやりたい。普段生活をしていて言いたいことは腐るほどあるけど、Dos Monosっていうユートピアのなかにそういうのを持ち込むのはすごく気持ち悪く感じちゃうんです」
荘子it 「そういう意味でDos Monosには社会性はないんです。社会性のない状態で作品を作り上げたあと、社会に還元することはできると思うんですけど、創作の場は昔からの友達同士のあいだで成立するものなんで」
 「中高6年間一緒なんですよね」
荘子it 「いまこれぐらいの年齢で出会った人とDos Monosみたいな非社会的なことはできないですよね。もっと共有可能なコミュニケーションとかを意識しちゃうじゃないですか。音楽に乗せてなら言っていい言葉と、日常のテーブルでしゃべっていい言葉って明確に違う。例えば、小説家や文筆家の人は、文章で書いていい言葉と、人に面と向かってしゃべっていい言葉の区切りがどこかにあると思うんです。その両者がインタラクティヴになっていくと、職業として成立しているっていうことになるとは思うんですけど、Dos Monosで使っている言葉は、ある意味で世間を捨てた時に出てくる言葉なんです。本質的に非社会的で非政治的な言葉の使い方をしている。そんなアルバムのなかでも、〈生前退位〉はあくまでも個人的にですけど、社会性があるなと思います。最後に書いたんですけど、いちばん上手く普通に書けたなって。逆に〈Clean Ya Nerves〉はいちばん最初にリリックを書いたんですけど、いまでも言葉の使い方が凶暴だなって思う。自分でも超頑張って読み取ってあげないと、“この人は何言っているかわかんない”って感じです(笑)」
TAITAN MAN 「だから、Dos Monosの歌詞が英訳された時に海外の人たちが勝手に読み解くのが実は楽しみだったりする」
荘子it 「英語は主語がはっきりしているから、論旨が明確になるかもしれない。ただ、それで失われるものもあると思う。映画監督の(ピエル・パオロ・)パゾリーニが究極の表現は自由間接話法じゃなきゃダメだってことを言っているんです。つまり直接話法や間接話法みたいな発話者がはっきりしている表現じゃなくて、ふと言葉自体が湧いてきたかのように、天からの声のように、芸術は語らないといけないって。まったくその通りだと思いますね」
 「あと、ジャケは、キャプテン・ビーフハートの『トラウト・マスク・レプリカ』へのオマージュだよね」
TAITAN MAN 「キャプテン・ビーフハートは中3ぐらいの時に聴いたよね」
荘子it 「この3人は、最初は理解できなかったけど、のちにハマッたっていう体験をけっこう共有しているんです。そのひとつがキャプテン・ビーフハートですね。あの音楽を好きになる人は世間からしたら奇人なわけじゃないですか。でも、奇人は生まれつき奇人なわけではなくて、きっかけがあればそういう表現も好きになっちゃうもんなんです。『Dos City』もそういうアルバムにしたいですね」
――アルバム・タイトルの『Dos City』はどこから来たんですか?
荘子it 「タイトルには直接的な元ネタがあって。チェコのミハル・アイヴァスっていう小説家の『もうひとつの街』という作品なんです。“Dos”ってスペイン語で“2”という意味だから、“Dos City”で“もうひとつの街”。元ネタになった『もうひとつの街』は、シュールレアリスティックな描写の羅列によって謎の世界が描かれるような作品なんです。で、その謎の世界が実は、主人公というか、我々がいつも住んでいる街とほぼ同じだってことが明らかにされていく描写になっていて。要は、わけのわからない世界は日常の外にあるんじゃなくて、すぐ裏側にある。もっと言えば、わけのわかるものを共有した我々の世界はわけのわからない世界とある仕方で関係してるんだということで。例えば、くだらない芸能人のゴシップとか、そういう世俗的な話題を摂取している我々の日常と、Dos Monosが練り上げた謎の世界も繋がっているんだと。その感覚はすごく理解できるし、わけのわかるものを共有したみんなのなかにある、わけのわからない変なバグとかノイズが好きで、Dos Monosがやろうとしていることもそういうことなんです。『もうひとつの街』の描写は、自分のやりたいことにかなり近い比喩だなと思ったんで使いましたね。あと、少し前からシティ・ポップって呼ばれるものがまた流行っていたじゃないですか。自分自身も東京に生まれて育った若者というのもあって、最近新しく出会った人には“気取った音楽をやっているんでしょ?”みたいな感じに思われるわけです」
――ははは。Dos Monosは気取った音楽ではないですけどね。
荘子it 「そうなんです。ただ、Dos Monosをやる前、オレは個人的に向井太一yahyelに曲を提供したり一緒にやったりしているし、実際、ああいう音楽を生み出している人たちと大部分は同じものを摂取して生きてきたわけです。それなのに、自分だけが特別だとはまったく思わないけれど、彼らとは全く違う表現にたどり着いてしまった。だけど、オレはこの音楽がポップだと思っているし、シティ・ポップとして作っている。でも、みんなとは同じではいられないから、じゃあせめて“もうひとつのシティ・ポップ”っていう意味も込めて、『Dos City』にしようと」
TAITAN MAN 「だから、バグとかノイズって言っているDos Monosがアングラで終わったら負けだとは思っているんです。メインの異物として存在しないと僕たちが生きている価値はないと思っちゃうんですよね。だから、普通に世界中で多くの人に聴かれたいです。そういう自分たちを、まず面白がりたいっていうのがひとつあります。たとえば、僕らがテレビの5チャンネルを付けてそこに出ていたら面白いし、そういうことを3人で達成できた時にすごい興奮するんだと思う。もうひとつは、啓蒙的になるのはイヤなんですけど、僕らみたいな音楽が世に出て、もっと他の面白い音楽も聴かれるようになる地殻変動が起こせたらそれも面白いと思う」
荘子it 「だから、そういう意味でのニルヴァーナになりたいですね。グランジ・シーンって1980年代末にはすでにあって、ニルヴァーナが90年代にドカンと売れて広く知られるようになったじゃないですか。それまで多くの人に聴かれることがなかった他のグランジ・アーティストも神格化されるようになって。そこで、もう歴史が変わったわけですよね。ローカルな音楽だったものへの見方を変えたわけですよね。もう圧倒的に弱者だったヤツが、一番イケてるってなった。カート・コバーンがすごかったのはまったく売れていないアングラな音楽を土台にして、世界中で売れる音楽を作ったっていうことだと思うんです。それに近いことをしたいなっていう思いはありますね」
取材・文 / 二木 信(2019年3月)
Event Schedule
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渋ゲキ祭“SCRAMBLE LAB”


2019年3月21日(木・祝)
東京 渋谷 MAG's PARK
開場 11:00 / 開演 16:00(終演 21:00)
※入場無料 / Dos Monosは19:55よりライヴ出演

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