音楽シーンを振り返ってみたとき、50年代を象徴する存在が
エルヴィス・プレスリー、60年代が
ビートルズ、70年代が
イーグルスだという意見に異論のある人はいないだろう。多くのリスナーに愛されたという意味でも、その時代の空気を大きく吸い込んだ音楽を作り出したという意味でも、彼らは特別な存在だった。時代は下り、現在。エルヴィスは亡くなり、ビートルズは60年代が幕を閉じるのと同時に解散して2人のメンバーがすでにいない。ところが、イーグルスはビートルズと同様、ディケイドの終わりと同時に解散したものの、十数年のブランクを経て復活し、いまも歌い続けている。
Courtesy of Eagles Archives
6月5日に発売されるイーグルスのドキュメンタリー映像作品
『駆け足の人生〜ヒストリー・オブ・イーグルス』は、バンドの結成から解散まで、そして復活から現在にいたるまでを追っている。「ありきたりのロック・ドキュメンタリーにはしたくなかった」「すべてのフッテージを監督に渡し、その後インタビューに応じた。内容に関しては一切まかせたよ。僕らは協力はしたけど、口は出さなかった」と
グレン・フライが語るように、作品の内容は驚くほど赤裸々だ。ホテルの部屋をめちゃくちゃにし、女の子とパーティに明け暮れ、ドラッグを楽しむ。いわゆる“ロックンロール・ライフ”的なことが隠すことなく語られる。メンバー間の軋轢なども、一方からの視点だけでなく、双方が登場し、それぞれの発言が紹介される。で、意見がぶつかるのかと思いきや、いや、あんときはホントすまんかった、みたいな展開になるのだから大人って素敵だ。
とはいえ、もちろん話題の中心は音楽。彼らはいつもライヴで「ウィ・アー・ザ・イーグルス、フロム・ロサンゼルス」と挨拶する。それほどロサンゼルスという街の存在は大きいのだ。70年代初頭、独自の音楽シーンを形成していたロサンゼルスには、街の外からも大勢の人が集まっていた。「イーグルスは開拓者はなく居住者なんだ。開拓者が切り拓いた西部の土地に後から来て家を築いた。僕ら以前のバンドは開拓者だった。僕らが愛し尊敬してやまないバンドだよ」と語るデトロイト出身のグレン・フライは
J.D.サウザー、
ジャクソン・ブラウンと同じアパートで暮らしていたこともある。イーグルスの初期のヒット曲「テイク・イット・イージー」はそんな生活のなかから生まれたグレン・フライとジャクソン・ブラウンの共作曲だ。また、バンドの誕生は、
リンダ・ロンシュタットが
ドン・ヘンリーとグレン・フライをバック・バンドのメンバーとして起用したところにあるし、ロサンゼルスには、
ジョニ・ミッチェル、
ジェイムス・テイラー、
キャロル・キング、
ニール・ヤングらが出演するなど音楽的な中心地として機能していたトルバドールという伝説的なクラブもある。彼らがロサンゼルスから出現する下地は十分にあったこと、それを自覚していることを「フロム・ロサンゼルス」の一言は示している。この映像作品には、そんな自覚と、ロサンゼルスに対する一般的なイメージをうまく利用しつつも、普遍的なテーマを歌い爆発的な人気を得ていった彼らの歴史が、貴重な映像と、本人はもちろん、昔の仲間やスタッフなどの証言で綴られていく。見ごたえたっぷりの3時間だ。オープニングはライヴ直前のバックステージで歌う「セヴン・ブリッジズ・ロード」。ライヴに向けて互いの気持ちを合わせるようにア・カペラで披露される素晴らしい歌で、一気に引き込まれ、あっと言う間に3時間が経つだろう。
Courtesy of Eagles Archives
また、デラックス・エディションには、「観て、当時の自分たちの演奏の素晴らしさにいまさらながら驚かされた」とグレン・フライが語る、1977年3月21日メリーランド州ラーゴのキャピタル・センターで行なわれたライヴ映像を収録するDVDと、ハードカバーの写真集が付く。
『駆け足の人生〜ヒストリー・オブ・イーグルス 〈デラックス・エディション〉』 UIBY-75033 税込6,800円
このほか、DVD通常盤(UIBY-15021 税込3,800円)、Blu-ray Disc(UIXY-15003 税込4,800円)も発売
※文中の発言は、4月にロンドンでプレミア上映会が行なわれた際の記者会見と、オフィシャルのインタビュー素材から引用しました。