“黒い春”と一緒に“死者の日”を楽しもう エル・ハル・クロイの世界とは

エル・ハル・クロイ   2018/10/31掲載
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 メキシコ系アメリカ人を指す“チカーノ”という言葉が象徴的に取り上げられる、多様性に富んだ人種や文化のるつぼ、イースト・ロサンゼルスから登場したローカル3人組バンドのエル・ハル・クロイ(EL HARU KUROI)が2016年以来となる来日ツアーを行います。ツアー初日となる東京公演が行われる11月2日は、映画『リメンバー・ミー』で描かれた、メキシコの伝統的なお祭り“死者の日”の時期。キュートなガイコツ、カラベラとマリーゴールドの花に彩られた“メキシコのお盆”とでも言うべき祝祭を本場さながらに楽しむべく、チカーノ音楽に精通する「MUSIC CAMP, Inc. / BARRIO GOLD RECORDS」主宰・宮田 信さんからそのヒントを伺いました。
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――まず宮田さんとエル・ハル・クロイの出会いは?
 「6〜7年前にチカーノ・バットマンのオープニング・アクトとして初めて現地でライヴを観ました。MUSIC CAMP, Inc. / BARRIO GOLD RECORDSとしては、これまでにアルバム3枚の国内盤をリリース、2016年の初来日ツアーを僕がブッキングで働く〈晴れたら空に豆まいて〉と一緒にサポートしています。バンドの存在を教えてくれたのは、僕の友人であり、昨年日本で行われたジョー・バターンのクリスマス・ライヴにDJとして出演していたデヴィッド・W.ゴメスですね。彼は、誰も知らないメキシコのダサいクンビア・バンドのアルバムに最高のファンク・ナンバーが隠されているってことを知っている男(笑)」
――個性的なバンド名ですよね。
 「日本語に定冠詞をつけて、独自にスペイン語化したものだそうです。“黒い春”という言葉はダークなものを包み込んだ不思議な世界観を表していますね。この名前からも分かるとおり、チカーノやラテンといった言葉から想像される、ギャングスタであったりダンサブルなイメージは全くあてはまらない。オルタナティヴ・ロックって言ってしまうのが一番早いんだけれども、それもバンドの本質ではないんです」
――特定のジャンルや一面的な言葉だけで語れるバンドではない?
 「はい。音楽ジャンルに当てはめるよりは、ひとつの文学に近い。それぞれの曲にストーリー性があって、アルバムが短編集のようだと説明する方が正しいのかな、と僕は感じています」
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Photo By Rafael Cardenas
――アルバムの国内盤には一部の曲に対訳がついていますが、それぞれの歌詞は幻想的だったり現実的だったり、とてもドラマティックな世界です。
 「歌詞は主に、メンバーのエディカ・オルガニスタ(vo, g)が手がけています。彼女はUCLAで学びながら前衛芸術に興味を持ち、多様性についても教育を受けていますね。2000年以降、イーストLAではこれまでのチカーノ・ロックの文脈から離れた表現がたくさん生まれました。インターネットを通じて、様々なジャンルや時代のカルチャーを知ることができるようになった結果ともいえるかもしれません。エディカはトロピカリズモ、特にカエターノ・ヴェローゾに強い影響を受けています。かたやドミニク・ロドリゲス(ds)は1920〜40年代にかけてのジャズや、マリアッチ、ブルースなんかのアナログ盤を収集したりと、多種多様な文化と人種が集まるイーストLAを象徴するような素養がありますね」
――日本語とポルトガル語で綴られた楽曲「YAGATE」を筆頭に、曲中では英語やスペイン語が飛び出すのも、その多様性の現れでしょうか?
 「そうです、文化的に開かれた真のワールド・ミュージックなんだけれども、日本のリスナーがイメージする、ヨーロッパ経由のものとはちょっと違いますね。エディカはスペイン語と英語のネイティヴで、ポルトガル語は少しかな。彼女は英語の先生をしていて、そこで出会った学生に日本語を教わったみたい。あと子供のころから“OTOMISAN”っていう、イーストLAに唯一残るうどん屋さんにお父さんとよく行っていたらしいです(笑)」
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Photo By Rafael Cardenas
――演奏やアルケストラ・クランデスティーナというラテン・ジャズ・アンサンブル出身という経歴からメンバーがそれぞれプロフェッショナルなミュージシャンだとわかりますが、なぜか手探りの感触と生々しさを感じます。
 「ちょっとデザインに違和感があるのにすごく着心地がいい服みたいでしょ。90年代のイーストLAの雰囲気とよく似て“ロウ”なんです。ストリートのギャングやミュージシャンそれぞれのコミュニティ、いわゆるバリオがまだ未承認でささくれ立っていた当時の感覚とでもいうべきかな。新しい世界を生み出そうとしているところから匂い立ってくる、熱を帯びたロウな雰囲気は魅力のひとつですね」
――なるほど。個人的にはラテン訛りのあるロック・バンドとして受け止めていて、あの手探り感はガレージ・ロックの空気なのかなと思っています。また、アルバム『CANTA GALLO』のライナーノーツで指摘されている通り、フガジを思わせるポスト・パンクの要素は無視できないものでは?
 「ちょうど30代半ばのメンバーにとって、パンクやポスト・パンクの影響は間違いなくありますね。意図的にちょっと外すところとか、使っているテンション・コードだったり。自宅の居間でバンドの練習をしてるから、ガレージ感ももちろん出てきますよね。ガレージ・バンドはイーストLAで続いてきたひとつの音楽文化ですから」
――3人がリビングルームのソファで「SIN SABER」を演奏している動画のように?
 「あれはドミニクの家かな。いつもあのソファの周辺で毎晩のように集まって演奏してます。近くに住んでるミュージシャンがたくさん集まって、そのなかにはグラミー賞に輝いた仲間の演奏家もたくさんいるのですが、彼らと裏庭で伝統的なメキシコの古いボレロやランチェーラをセッションをしていたりするんですよ」
――また今回の来日ツアーはちょうど“死者の日”の時期にあたります。
 「〈DIA DE LOS MUERTOS〉という楽曲は死者の日そのものを歌っているんですが、映像が素晴らしいんです。ここに記録されているような、実際にローカルが行っているパーティを日本のいろんな場所で出来たらと思っています。東京公演では祭壇を用意して、お客さんにもマリー・ゴールドの花を作ってもらったり、みんなで手作りして、参加するのがイーストLAっぽいかなって(笑)」
――とっても楽しそうです。死者の日はハロウィンと混同されがちですが、映画『リメンバー・ミー』で描かれたメキシコ伝統のお祭りですよね。
 「そうです、死後の世界からご先祖様が帰ってくると考えていて、日本のお盆に似ていますね。LAでもパブリックなものになったのはここ10年くらいなのかな。ある程度生活に余裕ができて、暮らしも安定してきたからメキシコ系移民のライフスタイルが変わってきて、メキシコから持ち込んだ伝統を見直そうとしてる。さらにはアメリカ生まれの2世、3世たちであるチカーノとしての伝統も見直しが始まってます。生活水準や政治的な部分ではまだまだタフな現実が続いていても、マイノリティとしてこぶしを突き上げていたころからずいぶん変わってきている印象です」
――その移民の暮らしは「ELLA」のミュージック・ビデオでも描かれています。
 「そう、あれはチカーノたちの生活のなかによくあるお母さんたちの姿ですね。月曜の朝早いバスで裕福な家に行って、いわゆる“家政婦さん”をして、金曜の夜遅くまで泊まり込みで働いて家族のもとに帰ってくるんです。今もいっぱいいますね。ああいった生活そのものを〈ELLA〉のように詩的にうたうことはこれまでのチカーノ音楽にはない表現で、まさに文化が成熟した結果だと思います。エディカは知的で親しみやすくて、働くお母さんたちを見て育ってきた子供ならではの強いまなざしをもったタフなバリオの女性です。〈DIA DE LOS MUERTOS〉とこの曲をカップリングした来日記念シングルもリリースしますよ」
――「EL CUCUI」の映像もバリオの文化を伝えていますね。
 「観てもらったらわかるけど、全く同じものがナマハゲって呼ばれて秋田にあるよって教えたら驚いてました(笑)。あの映像は、LAの高層ビルのすぐ足元にはパーソナルな生活があって、チカーノの伝統が息づいているっていうコントラストを伝えたかったのかな。自分たちのルーツを紹介する責任感を持つ一方で、エル・ハル・クロイはやっぱり伝統的なアーティストと違う要素も強いから100%のサポートを得られなくて苦労していることも多いみたいです。特に彼らの両親たちの世代は、メキシカン・ポップスや、もっとわかりやすいアメリカン・ロックを好むから」
――その種のキャッチーさは確かに感じません。
 「そこに僕は共鳴してますね(笑)。興味を持ってもらうために日本のチカーノ好きが反応するように、今度チョロ(チカーノ・ギャング)の恰好をしてもらって写真撮ろうかって(笑)」
――にわとりがバンダナで顔を隠すだけでは弱いと(笑)。
 「彼らの本当の姿とステレオ・タイプなイメージに当て込んだチョロの写真を並べて“どっちがリアルですか?”って提示したら面白いかなって(笑)。ローライダーとギャングというイメージは、確かに魅力的なアイコンなのですが、現地の人たちと接するとそれだけでチカーノという言葉が広がっていくことに大きな違和感を感じます。こういう仕事をしている人間の責任として、それだけではないホントにあるリアルな多様性をしっかり紹介していきたいと思っています。僕も実際に現地へ行くまで誤解していたのですが」
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Photo By Rafael Cardenas
――エル・ハル・クロイがオリジナリティ、独自の世界観を生み出すことにフォーカスしているバンドだからこそ、より強くなる想いですね。
 「2016年のライヴではイーストLAの空気そのものが再現されました。いろんなライヴを企画してきましたけど、この時はなにかが通じ合ったというか、僕自身も感動したひとつでした。招聘した晴れ豆インターナショナルはエル・ハル・クロイと一緒にこういうパーティや街角の音楽の楽しみをシェアできる仲間を日本中に作っていきたいと考えていて、テレビなどメジャーな媒体には頼らない音楽のネットワークを作る試みでもあります。今は地方での集客がネックになって、海外アーティストのライヴが東京に一極集中していますが、今回のように実際に動いてみると、各地に熱い想いを持った音楽コミュニティとも出会い、良い関係性が構築していけます。企画者、各地のネットワークと海外のアーティストを結ぶことで、なにか新しいものが生まれるかもしれない」
2016 EL HARU KUROI / 映像プロデュース: 野田昌志
――その想いは、昨年ジョー・バターンを招いて行われたラテン・ソウル・クリスマス・パーティや映画「アワ・マン・イン・トーキョー〜ザ・バラッド・オブ・シン・ミヤタ」の上映会と地続きでもある。
 「メキシコ・シティで上映した時に、映画を観てエル・ハル・クロイを知ってファンになったという声が多かったんです。チカーノ・バットマンは知られているのに(笑)。最新のイーストLAの音楽のサンプルとして観てください。近く東京と大阪での〈LATIN BEAT FILM FESTIVAL 2018(第15回ラテンビート映画祭)〉でも再上映されますし、あの映画を観てくださった方にはぜひ今回のツアーで現地の雰囲気を味わってもらいたいです」
取材・文 / 服部真由子(2018年10月)
EL HARU KUROI MESSAGE
エル・ハル・クロイから届いたメッセージを紹介
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Photo By Rafael Cardenas
Eddika Organista(vo, g) “Hello Japan I am honored for the opportunity to share a piece of my culture with people from Japan through the music we make. Gracias, Thank you, Arigato!”
エディカ・オルガニスタ(vo, g) 「日本のみなさん、こんにちは。私たちの音楽を通して、私たちの文化の一部を日本の人々と分かち合う機会を持てて光栄に思います。ありがとう!」
Michael Ibarra(b) “It is a great priviledge and honor to be invited back to Japan. We are very excited to return to Tokyo, Osaka and Yokohama, as well as to bring our music to Tokoshima, Kochi, and Kanazawa. The audiences in Japan are the best and the sound engineers and venue workers are the finest and most professional people we have encountered in their field. Special thank you to Barrio Gold and Hare Mame for building and continuing to strengthen the bridge between japan and our community. We love you all.”
マイケル・イバーラ(b) 「日本に再び招かれることをとても名誉に感じています。東京、大阪、横浜の他に、今回は徳島、高知、金沢にも行けることにとても興奮しています。日本のオーディエンスは最高ですし、エンジニアや会場のスタッフたちも非常にプロフェッショナルでした。日本と我々のコミュニティの間に橋を架けそれを継続する努力を続けるバリオ・ゴールドと晴れ豆にも感謝します」
Dominique Rodriguez(ds) “Hello everyone!! I am so excited to see old friends and new ones. Last time we went was the first time to Japan and it was very special. We all had so much fun and enjoyed learning the Japanese culture. It is such and honor to present our music for you. This time we are coming to not only present our music but to also celebrate life and death and loved ones who are no longer with us through our our cultures own very special day of honor to the deceased. I hope to make many great memories and new connections in Japan. Thank you all and I will see you soon!”
ドミニク・ロドリゲス(ds) 「皆さん、新旧の友人たちに会えるのを何より楽しみにしています。日本に来たのは前回が最初でしたが、それは特別な機会となりました。最高に楽しく、日本の文化についても学ぶことが出来ました。我々の音楽を伝えることが出来たのはとても名誉な思いです。今回は我々の音楽を演奏するだけではなく、“死者の日”という我々の文化のなかの特別な行事を通して、命と死、そしてこの世にはもういない我々の愛する人々を讃えたいと思っています。今回も素晴らしい思い出と新しい出会いを期待しています。皆様に感謝、お会いできるのを楽しみにしています」
Live Schedule
エル・ハル・クロイ
「死者の日」ジャパン・ツアー

www.m-camp.net/ehk2018.html

2018年11月2日(金)
東京 代官山 晴れたら空に豆まいて
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 3,900円 / 当日 4,400円(税込 / 別途ドリンク代)
Live: Shoko & The Akilla / Los Tequila Cokes
DJs: Trasmondo DJs / 星野智幸 / Shin Miyata
Tacos: Taqueria Abefusai / Octa
Shop: Barrio Gold Records


2018年11月3日(土)
石川 金沢 FUNCTION SPACE
開場 20:00 / 開演 21:30
前売 3,500円 / 当日 4,000円(税込 / 別途ドリンク代)
DJs: U-1 / ハンサム泥棒(KYOSHO & YASTAK) / 中村一子(Record Jungle)
Tacos: Ricos Tacos
Shop: Barrio Gold Records


2018年11月4日(日)
大阪 do with cafe
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 3,500円 / 当日 4,000円(税込 / 別途ドリンク代)
Live: Conjunto J / カオリーニョ藤原
DJs: TZ(EL TOPO) / Shin Miyata
Tacos: Cantina Rima
Shop: PAD / Barrio Gold Records


2018年11月5日(月)
高知 五台山 竹林寺
開場 17:30 / 開演 19:00
前売 3,000円 / 当日 3,500円
Tacos: Masacasa Tacos
Shop: Masacasa Music
 SOLDOUT

2018年11月6日(火)
徳島 Amusement BAR Fly
開場 19:00 / 開演 19:30
前売 3,000円 / 当日 3,500円(税込 / 別途ドリンク代)
Live: 越路姉妹
DJ: Shin Miyata
Shop: Barrio Gold Records


2018年11月8日(木)
神奈川 横浜 B.B. Street
開場 18:30 / 開演 19:30
前売 3,000円 / 当日 3,500円(税込 / 別途ドリンク代)
Live: gnkosaiBAND
Shop: Ochanga La Pachanga / Barrio Gold Records


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