おお、顔が小さい。そして、その可愛らしさは印象的な透明感を伴う。なんて、書き方もしたくなるか。そんな
エミリー・シモンは、小悪魔的ヴォイスも魅力的なフランスのシンガー・ソングライター。“エレクトロ時代の
ケイト・ブッシュ”などとも評される彼女は
映画『皇帝ペンギン』のサントラやライヴ盤を含めて4作品を過去に発表し、2006年にはサマーソニックに出演したことも。そして、その新作
『ザ・ビッグ・マシーン』はNYに引っ越し新たな環境で録音、それはエレポップ度数を強めた仕上がりとなった。“私の小宇宙の提示、その第2幕のスタート”……そんな位置づけも可能だろう新作プロモーションのために来日した彼女に話を聞いた。
――地中海の側のモンペリエの生まれ(78年)だそうですが、どんな子供でした?
エミリー・シモン(以下、同) 「幼い頃から、夢見る感じの子供だったと思うわ。いつも想像の世界で遊んでいるような子で、そうしたものの延長として、音楽も始めたという感じかしら。父が音楽エンジニアをしており、私たち家族が住んでいるアパートの下がスタジオになっていて、幼少時からそこに出入りするミュージシャンたちと仲よくなったりもし、とてもよく音楽と触れあう環境で育ったと思います」
――最初に自分の曲を作ったのは何歳の頃でしょう?
「11歳の頃。それは自然な行為だったと思います。だって、音楽が自然に私の中にあって、それを外に出しただけだから。音楽家になろうと考えたことはなかったですね、音楽が生活の中にあるのが当たり前で、そのまま大きくなっただけ。音楽が大好きで、音楽への情熱があるということだけで、今まできていると思います」
――ちゃんと、学校では音楽を習っていたんですよね。
「7歳から音楽院で習っていました。パリのソルボンヌで勉強したときは、音楽学を専攻しました。そして、卒業直前にレコード契約を得て、2003年に
最初のアルバムを作ったというわけです。デビューに関しては、順調だったと思います」
――今ふりかえると、そのセルフ・タイトルのデビュー作はどんなものだと思っていますか?
「一つ一つの曲に、とても気持ちを込めて作っていると思いますね。あのときならではの計り知れない力を出し切ったアルバムです。今聴き直すと、あの頃はああだったなと、とても大切な瞬間を思い出したりもします。とともに、その後の7年間の進歩や積み重ねを認識したりもします」
――そこで、
イギー・ポップの曲をカヴァーしていますが、なぜ彼の曲を取り上げたのでしょう?
「高校のとき、友だちときゃあきゃあ言いながらあの曲を聴いたことがあって。ロックとしてはとてもクラシックなタイプの曲だけど、高校の頃の思い出とともに、私なりにやってみたくなったんです。そしたら、私のヴァージョンを聴いた本人から連絡が来たんですよ。すごく喜んでくれて、嬉しかった」
――あなたは現在、NYに居住しているんですよね。なぜ、住もうと思ったのでしょう?
「アルバムがアメリカでもリリースされ、NYやLAでコンサートをやったりするうちに、住んでみたいと思うようになったんです。それで、実際に住んでみたら、凄い刺激を受けたり、新しい触れ合いがあったりして、やはりNYはすごいなと実感しています」
――そうしたNYでの生活で得たものをまとめたのが、新作と言えますか?
「そのとおりです。NYでの生活がこのアルバムには集約されています。その前にも少しオーストラリアにいたりアジアにいたりして、そこで書いた曲もあるんですが、それもNYという環境をとおして磨き上げました」
――新作では基本、英語で歌っていますよね。
「少しだけフランス語でも歌っていますけどね。どちらで歌詞を作るかは、すべて曲次第。その音楽にどちらの言葉が合うかです。用いる言語によって曲種を定めるのではなく、今回は英語の合う曲が多かったということです」
――新作はエレクトロ度数を増し、アルバムを貫く背骨のようなものがはっきりし、押し出しが強くなったと思いました。やはり、それはNYの環境がもたらしたものと言えるんでしょうか?
「いろんなことに起因していると思いますが、そう言っていいでしょうね。NYには才能があるミュージシャンがたくさんいて、私もいろんな部分でチャレンジしなければなりませんでしたから。NY にいてエキサイティングなことに触れれば触れるほど、自分を出した曲を書けるようにもなったと思います。背骨うんぬんというのは、同意します。前は1曲1曲を独立したものとして作っていました。でも、今作はけっこう同じスタジオで同じ奏者で録り、全体のトータルな流れを意識しましたから」
「エンジニアがアーケイド・ファイアもやっている関係からです。モントリオールでキーボードの録音をしたときに、彼に電話をしてスタジオに来てもらったんです」
――あなたはジャケット・カヴァーにもとても気をつかっています。いい音楽を作るだけでなく、ヴィジュアル・イメージもちゃんと提出してこそ、現代のアーティスト活動はまっとうできると考えているようにも思えますが。
「アーティストとしての全ての姿を伝えたい、という気持ちの反映です。私はミュージシャン。まずは私のメロディや色付けや歌声をしっかりと伝えたい。とともに、それを生む私についてのデコボコも明快に開いていけたらと思うんです」
取材・文/佐藤英輔(2010年6月)