エマ・リー・モスのソロ・ユニット、
エミー・ザ・グレイトの2ndアルバム
『ヴァーチュー』は我々日本人にとってはかなりリアリティをもって受け止めるべき作品かもしれない。1曲目「ダイナソー・セックス」で描かれているのは原子力発電に対する畏怖と奇妙な同情。彼女はあたかも
宮崎駿が『となりのトトロ』で描いたように、原子力発電所という怪物を最終的にいとおしいモンスターであるかのように擬人化し、強いエモーションと躍動性を孕んだアコースティック・サウンドで物語に昇華していく。それは激しい批評眼を伴ったファンタジーの創成という作業だ。英国の新世代フォークといった陳腐なイメージを静かに裏切るそんな新作をリリースし、
アッシュのティム・ウィーラー(vo、g)との共演で来日公演を実現させた彼女に新作に隠された思惑を訊ねた。
(C)Alex Lake
エマ・リー・モス(以下同)「向こうでは
ミート・パペッツの曲もやったりしたわね。でも、私一人だったらこんなにたくさんはやらないの。ティムと一緒だとアイディアがどんどん出てきて。“こういう曲やろうよ!”“それなら私はこういう曲がいいわ!”って感じで盛り上がってカヴァー大会みたいになっちゃうの(笑)。で、今回はティムが
レンタルズたちと一緒に<NANO-MUGEN FES.>に出たこともあって、“ウィーザーは絶対やらなきゃね!”ってことになったのよ」
――あなた自身がカヴァーすることによって、「こういういい曲もあるのよ」ということをファンに伝えたいという狙いもあるのですか?
「それもたしかにあるわ。とくにスリーター・キニーなんて、今の若いリスナーは案外知らないと思うし。でも、大体の場合は自分が好きで好きで仕方ないから思わずカヴァーしちゃったってパターンね(笑)。あと、自分の好きな曲をギターでどうやって弾くのかを知りたいっていうのもあるわ。実際、弾き方をティムに教えてもらうの」
――ほかのアーティストの曲を取り上げることで、ソングライターとしての自分の特徴や魅力にあらためて気づいたり?
「ええ、そうね。と同時に、私は基本シンガー・ソングライターだから、ロック・バンドの曲を取り上げることで、普段のスタイルから離れてオルタナティヴなスタイルを試すことができるというよさもあるのよ」
――つまり、本来、あなたは躍動的なバンド・サウンドをもっと作品やライヴの中に取り入れていきたいと考えているのですか?
「ええ、その通りよ。何かとフォーク、フォークって言われることには抵抗があるの。第一、カヴァーするにしてもフォーク・ミュージックの曲を取り上げるのに興味がないし。
ボブ・ディランの曲とかは好きだけど、私はロック・バンドの躍動性を取り入れたいのよ。それに私、細かなピッキングやストロークより、パワー・コードでジャリーン! って鳴らす方が好きなのよね(笑)」
2011.07.19 代官山unit (c)Kenji Kubo
――そうしたラフで攻撃的なロック・スタイルを好む理由が、今回のアルバムのリリックにも表われているような気がしました。1曲目の「ダイナソー・セックス」はイギリスの原発をモチーフにした曲ですよね。
「ええ、実はツアー中にカメラをずっと持ち歩いていて、原発、クレーン、貨物などを撮影してウェブサイトにアップしていたの。日本でも高層ビルを撮影したのよ」
――ある意味で、人類の技術発展の象徴たるモチーフであり、自然破壊の象徴のようなモチーフでもありますね。
「そうね。今となっては、震災後に原発事故を起こした日本や、その後、脱原発を表明したドイツなんかにとってはすごくリアルなテーマになっていると思う。でも、〈ダイナソー・セックス〉を作った時は温暖化をテーマとしていたの。温暖化によって温度が上がって放射能を漏洩してしまう原発を怪物、恐竜になぞらえてるんだけど、でも、私はその恐竜を壊してしまえ! ってことを言いたいのではないのよね。それよりも、技術発展の犠牲になって可哀相、いとおしいとさえ思うの。で、それって、日本のジブリ・アニメに共通していると感じるのよね。『となりのトトロ』とかもそういう作品でしょ?」
(C)Alex Lake
――ジブリ作品には影響を受けているのですか?
「香港にいた子供の頃によくテレビでやっていて。『風の谷のナウシカ』が一番好きかな。一番、自然破壊をテーマにした作品よね。私は必ずしも文明を否定したいわけじゃないの。月面着陸した事実を受けて、“人類は月に行く必要はそもそもない”なんて思わないし、月に行ったからこそわかることもある。でも、だからってそのために無闇に自然をないがしろにするのはいけないわよね。そのバランスを考えていく必要があるって、今回のアルバムで一番伝えたかったのはそこかもしれないわ。そういう意味で、日本の神道は素晴らしい思想だと思うの」
――では、たとえば、ジブリ作品は、基本作り手である宮崎駿という男性の目線から描かれたものです。そこに女性であるあなたとの違いをどのように感じますか?
「でも、不思議なことにジブリ作品はほとんどが主人公が女性よね。しかも、父親との繋がりというのが共通してる。とても興味深いのよね。21世紀のフェミニズムって」
取材・文/岡村詩野(2011年7月20日)