レイヴの高揚感とハードコアのダイナミズムが息づくハイブリッド&エモーショナルなサウンドで、いまやオーバーグラウンドを含めてのUKシーンを代表する存在の
エンター・シカリ(Enter Shikari)。今年1月にリリースされた約2年ぶりのサード・アルバム
『ア・フラッシュ・フラッド・オブ・カラー』は、自信に裏打ちされての痛快作となった。混沌とした時代をポジティヴに扇動するとともに、真摯なメッセージを発する。実を言うと筆者は、4年前にもラウ・レイノルズ(vo、Synほか)とローリー・クルーロー(g)に会っている。その時は憎めない悪ガキといった雰囲気だったが、今回は顔つきからしてすっかり大人(?)になっており、成長した親戚の子供を見るような気分にもなった。
(C)Tom Barnes
――『ア・フラッシュ・フラッド・オブ・カラー』は、それまでの作品以上に青写真がなく、どんなアルバムになるのかも分からないままに制作が進められたとか。
ラウ・レイノルズ「たしかに1曲目の〈システム...〉と本編ラストの〈コンステレーションズ〉だけはアルバムのどこに置くかを前提にした曲。だけどそれ以外にはトータルでどうこうといったことは考えなかったな。それだけ1曲1曲を練り上げることに集中していたんだ。アルバムの全体像が見えたのだって、マスタリングの2時間前。“いい加減、曲順を決めてくれ”と言われ、各曲を並べてようやくさ(笑)」
ローリー・クルーロー「4曲目のタイトルが〈サーチ・パーティ〉になったのも、曲順を決めている最中だったな。もともとは“アナーキスト・パーティ”だったんだけど、いきなり変えちゃおうぜって話になってさ」
――ギリギリまであれこれやっていたんだね。逆にフットワークの軽さを感じたりもするけど、曲自体も最初のアイディアから制作中にかなり形が変わったりしたのかな?
ラウ「うーん。各曲ともそれなりに変化しているけど、特に変わったのは〈システム...〉かな。それこそ煮詰めている間に新たなアイディアがいろいろと積み重なり、自分が最初に持ってきたものとはまったく別のベクトルに向かっていったからね」
ローリー「〈ウォーム・スマイルズ・ドゥ・ノット・メイク・ユー・ウェルカム・ヒア〉も、そうだね。デモすらなくて、あったのはラウの持ってきたギター・リフだけ。そこに各人がさまざまなアイディアを足して完成させた曲だから、〈システム...〉とともに、多面的なアプローチが有機的に結びつき、エモーショナルなエレクトロ・グルーヴに呼応するような出来上がりに、自分たちも驚いているよ」
ラウ「それを言うなら、〈パック・オブ・シーヴス〉のリフやヴォーカル・ハーモニーなんかは、7年前にローリーが練習に初参加した時のものだからね(笑)。バンドの未来について具体的に考えるほうじゃないけど、当時はレディング・フェスティヴァルでライヴができたらなんて思っていたよ(註:現在まで2007年、2009年、そして今年8月にも出演)。そんな最初期のアイディアをまったく違った形(メランコリックなパートから躍動的に展開)に昇華できたんだから、マジカルだし感慨もひとしおだよ」
――なるほど。綿密さとともに、自由な遊び心が快いのもまた、今作の印象だよね。
ラウ「ありがとう(と拍手)。君の言うように、バンドにとっていちばん大切なのは遊び心、そしてユーモアのセンスなんだ。要は楽しもうってこと。ステージでめちゃくちゃに暴れる(ライヴ名物の人間ピラミッドなど)のも、そういった意識からなんだ(笑)」
――ところで今回はタイでレコーディングを行なったそうだけど、それはまたどうして?
ローリー「プロデュースをしてくれたダン・ウェラー(註:元
シクス。前作
『コモン・ドレッズ』でギター・プロダクションを担当してからの付き合い)の友達が、向こうにスタジオを立てて、格安な条件で借りることができたからなんだ。とはいえかなりのハードスケジュールだったら、タイの文化に触れる時間なんてほとんどなかったな」
――異文化に接することで改めて世界中のさまざまな問題について考えることになり、それが各曲の歌詞に反映されているのかと思っていたよ。ポリティカルな意見もエンター・シカリの重要な側面だけど、昨年も東日本大震災をはじめ、いわゆるアラブの春やウォール街でのデモなどさまざまな出来事が起こったからね。
ラウ「いや、歌詞は一昨年、遅くとも去年の1〜2月に書いたから、2011年を直接的に反映しているわけではないんだ。そもそも俺たちが歌っているのは、資本主義といった世界を構成する“システム”の疑問点や問題点。その時々の具体的な事件や出来事ではないんだ」
――もっと根本的なメッセージを発していると。
ラウ「たしかに世界を変えるには、いろいろなことが関わってくる。資本主義は消費の上に成り立っているわけで、自分たちも消費しなければ生きていけない。だけど地球は1つしかなくて、10年後には地球3つ分のエネルギーや資源が必要になってくる。正直、早急に新しいシステムを作ることが可能なのかはわからないけど、未来への選択肢が限られているのも事実。このまま何もしなければ、もっと不平等で貧困層の増える社会が待っているのは間違いないからね。とはいえ人類が世界を変えていけるように決断できれば、何かが変わるかもしれない。あくまでも個人的な意見だけど、自分はそう考えているよ」
取材・文/兒玉常利(2012年2月)
ライヴ写真/metalship