ピクシーズのリーダーだったフランク・ブラックの、ソロのベスト盤『93−03:ベスト・オブ・フランク・ブラック』がリリースされる。ピクシーズ解散以降の10年間に出した9枚のアルバムの中から曲はピックアップされ、さらに新曲もプラス。国内盤は
ロキシー・ミュージックの「リメイク・リモデル」のカヴァーも含む、ライヴCD付きの2枚組だ。
今回のベスト盤は選曲も担当したマネジャーのアイディアだが、当初フランク自身はヒット曲もないだけに「気が進まなかった」と言う。
「
ブロンディや
ビートルズや
ビーチ・ボーイズといった人たちは、大ヒット曲があるからベスト盤を出しても当然だよ。でも
レジデンツもベスト盤を出しているし、フランク・ブラックが出してもいいかなと。ぼくとしては、フランク・ブラックをカルトなアーティストだと思っているからね(笑)」
パンクからカントリーまで、自ら“精神分裂”と言うほど幅の広い曲が聴けるベスト盤。一緒に歌えるほどコンパクトでポップな曲ばかりだが、毒気を効かせて遊び心を大切にする異能のシンガー・ソングライターだとわかる。
「自伝的な曲も、抽象的な曲も、SFから題材を取ってきた曲もあるよ。でも何が何だかわからない半トランス状態に陥った時に曲ができていた感じだから、その時に思っていたことを自分でも忘れてしまうんだ(笑)」
バンド時代と変わらぬクオリティが堪能できるCDでもある。けど再編ピクシーズのDVD
『ラウド・クァイエット・ラウド』では、「ソロ活動はピクシーズの影に隠れてしまっている」という、ぼやき発言も聞かれた。
「それはぼくの正直な気持ちで、ちょっと本音が出ちゃった感じだね。どんなアーティストも、人気が出た時期を超えない限り常に比較されるのは宿命で仕方ないけど、たまに“でもなあ……”って思っちゃうことはあるな(笑)」
でもマイナスの気持ちをプラスのエナジーに転換するのが“フランク流”。今回のCDに入っている新曲、これが2004年のピクシーズの再結成ツアーの熱気がフィードバックされたかのような、パワフルでキレた曲なのだ。
「実はピクシーズの新作を作りたくて曲を書いたんだけど、再結成アルバムを作るのを“嫌だ”と言うメンバーが一人いて実現しなかったんだ。別に怒っているわけじゃないよ。で、ベスト盤に新曲を入れたいという依頼があってから、ソロ・アルバム用の曲も作ったんだ。聴き手がそこにピクシーズ的なエナジーを感じるのであれば、“バンドでできないのなら俺が一人でやってやる”みたいな感じだったんだろうな」
その新曲も収録して秋にリリース予定の次のソロ作は、ピクシーズ時代の名前の“ブラック・フランシス”名義に戻して発表する。
「ピクシーズと一緒に使っていた名前の方が、みんなにより浸透しているだろうからね」
牛歩に見えて精力絶倫の創作活動を20年以上続ける“ブラック”の、原点回帰と心機一転の節目になるベスト盤。ご賞味あれ。
取材・文/行川和彦(2007年5月)