オリジナル・アルバムとしては3年3ヵ月ぶり。
フライド・プライドの7作目
『ア・タイム・フォー・ラヴ』はデビュー以来、最長のインターバル(この間、フライド・プライドとしてライヴを重ねる一方、ヴォーカルのShiho、ギターの横田明紀男がともにユニット外での活動を行ない、他アーティストとの交流を深めた)が音楽のスケール・アップに結実した快作だ。パフォーマンスの密度は高まり、楽曲のヴァリエーションは広がっている。
――ラテンのスタンダード「SWAY(QUIEN SERA)」は音の“固まり感”や、加熱するイメージが強烈ですね。ヴォーカルはパワフルだし、体感速度が極めて速いギター・ソロや切れ味鋭いトランペット(日野皓正)もインパクトがあります。 Shiho「この曲、フライド・プライドでやったら絶対、かっこいいのになあと、前から思っていました。今回、入れたくてアレンジを一生懸命考えたんですよ。その結果、横田さんはフラメンコ風で、
チック・コリアの〈スペイン〉みたいに掛け声とパルマがほしいなというのと、トランペットでセカンド・リフを吹いてほしいというアイディアが出てきました。この曲はミックスの段階でも、いままで横田さんがしていなかったことをしているんです。ときにはヴォーカルの音量を半分にしてしまったり、逆に不自然なくらいに大きくした音もあるし。そういう差し引きを何回もやったんですよね」
横田明紀男(以下、横田)「風景が完璧に見えていました。円形の広場に全員いて、昼間で、ちょっと埃っぽくてとか。全部、絵で見えていたんで、この人、こうじゃない、もっとでかくとか、風景を音にしました」
――「LOVIN' YOU」はギターが、これまでのフライド・プライドにはなかったほど控えめです。今回のアルバムはShihoさんのヴォーカルをじっくりと聴かせるヴォーカル作品の側面もあると感じました」
横田「まずギターがあって、その上に歌があって、コーラスも入れようというこれまでのやり方にとらわれず、歌だけでいいじゃん、ギター弾かなくてもいいんじゃないの?と。そういう風に感じる瞬間が大事に思えて、自然体でできるようになりました。日野皓正さんや
宇崎竜童さん、阿木燿子さんといった方たちと親密なつきあいをさせてもらうなかで、平常心、普通の歩調ですべてのことができたらかっこいいなと思ったんですよね」
――前作で初めて日本語詞の曲を収録し、今回も「RIDE ON TIME」(山下達郎)や「君のそばに」(久保田利伸)をカヴァーしています。 Shiho「6枚目のレコーディングの前に神戸でピアニストの
妹尾武さんとご一緒する機会があって、妹尾さんが作曲した
ゴスペラーズの〈永遠に〉をやったら、前列の女性が“ガン泣き”だったんですよ。それを見て衝撃を受けてしまい、これは日本語の曲も歌わなければだめだと思って。今回はアルバムのコンセプト“LOVE”に合わせて曲を探したんですけど、〈君のそばに〉はPVを観て思わず泣いてしまいました」
――オリジナルの「SWEET MELODY」は口ずさめるようなメロディが心地よいですね。
横田「それこそ10分、15分でできたままのメロディです。ミュージシャンに限らず、自信を持って生きている人なんてそんなにいないと思います。ただ、せっかく自分の中から出てきたものだから、オリジナル曲は大事にしたいじゃないですか。このままでいいのか、とりあえず聴かせたら、ふくらませる必要がないということだったので、そのままやってみました」
――もう一つのオリジナル曲「SPRINGTIME」は、Shihoさんがのびやかに歌う新作の魅力が凝縮されています。
Shiho「ライヴを重ねていって自分のいいところとか、自分のスタイルがなんとなくわかってきた気がします。彼曰く、“最初の頃はいろんな殻をかぶっていた”」
横田「今回、いままでと劇的に違うのは、収録曲の多くを事前に決めて、ライヴで何回もやってからレコーディングに入ったことです。ライヴで繰り返してみて、こう仕上げたいんだったらトランペットは絶対、日野さんだねとか、考えをまとめていきました。セッションをして、うわべでよかったねというミュージシャン同士の関係には正直、飽き飽きしています。求めているのは濃密さなんですよ」
取材・文/浅羽 晃(2009年9月)