ひとつの楽曲の中で、ポップスの発声とクラシックの発声のふたつを使い分けて自在に操る“ポップオペラ”という新ジャンルの歌唱法を開拓した唯一無二のヴォーカリスト、
藤澤ノリマサ。今年デビュー10周年を迎えた彼が、日本を代表する音楽プロデューサーである武部聡志のピアノ&アレンジにのせて、昭和(1970〜80年代)のヒット歌謡たちをカヴァーした名曲アルバムが登場!
――新作
『ポップオペラ名曲アルバム』には懐かしのヒット曲が満載ですね。CDの盤面がレコード盤(ドーナツ盤)のようなデザインになっているのも素敵です。
「僕自身はCD世代ですが、音楽家の父が結構なコレクターでして、家にレコードがものすごくたくさんありました。アナログの柔らかい音っていいですよね。今回のアルバムはそんな“昭和の香り漂う”選曲になっていますが、どれも自分にとっては想い出深く、音楽的にも影響を受けた楽曲ばかりを集めたものです」
――もともとは武部さんと一緒に、昨年の7月から不定期に1曲ずつYouTubeにアップしていた企画が大好評を博して、今回のアルバム・リリースに繋がったものだとか。
――ピアノ伴奏だけの邦楽カヴァー・アルバムって、意外と少ない気がします。
「ストリングスもドラムも一切なしにこだわったのは武部さん。彼の長いキャリアでも、初めてのことだとおっしゃっていました。ピアノだけで僕のヴォーカルをじっくりと聴いてもらえるようなアルバムを作りたいからって。シンプルなだけにとても贅沢な編成です」
――今回、“ポップオペラ”というジャンルもまた新しく進化を遂げたのではないでしょうか。
「基本的にはAメロ、Bメロはポップスとして歌い、Cメロのサビの部分をオペラ歌唱するのがポップオペラのやり方ですが、今回は楽曲によっては厳密に切り替えていないものもあったりして、かなり変則的な部分もあります。それを楽しんでいただけたら嬉しいです」
――1曲目の「瑠璃色の地球」から心を掴まれます。これ、オリジナル(1986年リリース、
松田聖子のアルバム
『SUPREME』に収録』)も武部さんによる編曲でしたね!
「YouTubeでのシリーズも記念すべき第1回目はこの曲からスタートしました。僕は小6の時、クラスのみんなで歌う合唱曲として出会ったのが最初です。当時はピアノ伴奏を担当したので僕は歌えなかったのですが(笑)」
――
安全地帯の「ワインレッドの心」がリリースされた1983年生まれなのですね。
「
玉置浩二さんは、近年のフル・オーケストラと共演しているコンサートも素晴らしい。僕がもっともリスペクトしているヴォーカリストのひとりです。声も大好きだけど、あのフェイクとかテクニックもすごい。年齢を重ねて、ああいうシンガーになりたい! 安全地帯時代よりちょっと低めの、今の玉置さんの声に憧れているので、同じキーである“Eマイナー”でカヴァーしました」
――「ルビーの指環」(1981年/
寺尾 聰)のような、ミドル・テンポなナンバーもいいですね。
「以前、自分のライヴで歌わせてもらって好評だったのですがポップオペラでは初めて。昔、寺尾さんのバックバンドにいた武部さんにとっても特別な曲だそうです。この曲や〈勝手にしやがれ〉(1977年/
沢田研二)のようなノリノリの曲では武部さんのピアノも大活躍なので聴かせどころです」
――「シルエット・ロマンス」(1981年/
大橋純子)や「for you...」(1982年/
高橋真梨子)も息の長いヒット曲ですが、どのような想い出が?
「母が歌謡教室で教えていたので、カラオケで人気のあるこれらの曲はよく耳にしていたし、変声期前に自分でも好きで歌っていました。札幌での高橋真梨子さんのコンサートには小学生の時に両親と一緒に行ったし。そういえば〈for you...〉はカラオケ大会で歌って優勝した曲です(笑)」
――とくに難しかった楽曲はありますか?
「ほかの曲ではほとんどテイクを重ねていないのに、〈川の流れのように〉(1989年/
美空ひばり)だけは納得がいくまで何パターンもレコーディングしました。やはり、ひばりさんは偉大すぎる存在。ジャズを歌っているアルバムを聴いても、リズム感や表現力に度肝を抜かれます」
――「I LOVE YOU」(1983年/
尾崎 豊)のテンポ感、間の取り方もいいですね。
「昔、オーディションをたくさん受けていた頃に知り合った友達が熱狂的な尾崎 豊ファンで、僕がこの曲を歌ったら“綺麗に歌いすぎ”って駄目出しされたのが忘れられません(笑)。のちのちライヴでこの曲を歌った時に、やっと彼に認めてもらえて嬉しかった。それ以来、好きなレパートリーになりました」
――たくさんの人がカヴァーしている「糸」(1992年/
中島みゆき)もポップオペラで聴くと、また味わい深いです。
「ありがとうございます! 今回初めてカヴァーしたのですが、やはり歌詞にジーンときてしまいましたね。デビューしてから10年間支えてくれたファンの皆さんに感謝の気持ちを込めて歌いました。まだまだカヴァーしてみたい曲がいっぱいあるので、このシリーズを今後も続けて行きたい」
――初回限定盤(2枚組)のDISC.2には、ご自身で選曲されたピアノ弾き語りによるセルフ・カヴァーも。そして待望のオリジナル新曲「AVANTI -La vita〜bella-」も収録されています。
「新曲のタイトルはイタリア語で、“前へ、人生は美しい”の意味。10周年を迎えて、さらに前へ前へと進み続ける自分の熱い決意を表明するような楽曲です。これからもどうかご期待下さい!」
取材・文/東端哲也(2018年9月)