尺八という伝統楽器の使い手として、ジャンルにとらわれない活動を続ける
藤原道山。また、シンセサイザーという近代テクノロジーが作り出した楽器を駆使し、世界的な活躍をする
冨田勲。この2人がタッグを組み、1枚のアルバムを制作。タイトルは
『響(kyo)』。CDとSA-CDのハイブリッド盤としてのリリースで、まさに高音質による5.1chの立体的音響も楽しめる一枚だ。時空を超えて交わる2つの楽器が作り出す“和”の世界観。本作について藤原道山に話を訊いた。
伝統音楽にとどまらず、ジャンルを横断して活躍する尺八の第一人者、藤原道山が冨田勲とのコラボレーション作『響(kyo)』をリリースした。冨田が音楽を担当した映画『武士の一分』のレコーディングに道山が参加したのは3年ほど前。その出会いからほどなくして二人は、奥三河の断崖絶壁に音を反射させる立体音響作品『仏法僧に捧げるシンフォニー』でも作曲者、演奏者として共演している。
「山全体がサウンド・スペースになっていました。冨田先生の他には誰も考えつかないだろうという壮大なことを目の当たりにしまして、その時、先生にサウンド・プロデュースをしていただいたら面白いものができるんじゃないかなと考えたんです」
アルバムには前記2作からの曲をはじめ、「管弦の宴〜源氏物語幻想交響絵巻より」やNHKテレビ「新日本紀行」のテーマなど、冨田の新旧の代表曲が並ぶ。また、全14曲中12曲で冨田がアレンジとサウンド作りを手掛けた。
「僕は演奏者に徹しました。先生が書いた譜面をそのまま演奏することで、尺八の可能性を引き出したいと思ったんです。このフレーズをどうやって吹こうかなと考え、楽器の選定から悩むんですけど、僕はその作業が楽しいんですよね。この曲に合うのはどれかなと、40〜50本の中から一つ一つ選んでいって、どちらがいいか決めかねるときは冨田先生に相談しました」
スケールの大きな冨田作品を得て、道山が尺八の多彩な音色や響きを余すところなく伝えている点は本作の聴きどころだ。たとえば、「ガンジス川」ではもっとも管長の長い楽器を使用。荘厳なイメージを醸し出している。
日本酒を酌み交わしながら、冨田作品についてより深く知る機会もたびたびあった。
「バックグラウンドをいろいろお話しくださるんですよ。一つ一つの曲に先生の人生が込められていると知り、全身全霊を込めなければという思いにさせてもらいましたね」
唯一、道山が作曲した「ひぐらし」は尺八とシンセのデュオだ。
「山のあちこちから鳴いてくるひぐらしには、なにか物悲しいイメージがあり、その空間性を尺八で表現できないかと思って作った曲です。先生がどんな和声をつけてくださるか楽しみでしたが、僕が作ったものに対してさらなる広がりをつけてくださったのがうれしかったですね」
さて、冨田勲といえばアナログ・ディスク時代のCD4、その後のトミタ・サウンドクラウドなど、サラウンドに情熱を傾ける音楽家であり、『響(kyo)』は2ch CD+2ch SA-CD+5.1ch SA-CDのハイブリッド盤という仕様だ。
「5.1chでいろいろな方向から音が聞こえてくる面白さを感じてもらいたいですね。〈武士の一分〉には刀で斬る音が入っているんですけど、一番いいスポットで聴いていると、最後に自分が斬られるんですよ。サラウンドのシステムを判断するにもいいアルバムだと思います」
異才と巨匠のコラボ作には、音楽の深みとエンタテインメント性、さらにはオーディオ的な魅力までもが共存している。
取材・文/浅羽 晃(2008年11月)