東南アジアのクラブ・ミュージック・シーンやポップ・カルチャー・シーンではすでに高い人気を誇る、タイ/バンコクを拠点に活動するクロス・カルチュラル・バンド
FUTONが来日した。“ほほえみの国”とも“魔都”とも呼ばれるバンコクの懐の深さとカオティックな空気とともにやってきた彼らに、話を訊いた――。
FUTONとは、もちろん日本語の“布団”のこと。今や万国共通語として通用するこの言葉を冠したのはバンコクを拠点に活動する4人組だ。90年代初頭に英国からバンコクに拠点を移したビーことポール・ハンプシャー(g、元
パナッシュ〜
サイキックTV)と、元
スウェードのサイモン・ギルバート(ds)が、ジーン(vo)、オー(b)というタイ人のふたりと結成したUKタイの混成バンドである。ビーの出自である80年代UKニュー・ロマンティックを彷彿とさせるダンサブルなロックが身上。新作
『ペイン・キラー』は、洗練されたポップ・センスが光る快作だ。
「前回は打ち込み中心で作ったけど、ライヴとの乖離(かいり)が気になっていたんで、今回はライヴのエッセンスを活かすべくバンド・サウンドを心がけたんだ。やはりぼくらの本領はライヴだからね」(ビー)
ビー、サイモンともUKロックの最前線で長いこと活躍してきたベテランだ。現在のフトンでの活動はこれまでのバンドと比べてどうなのだろうか。
「スウェードでは10年間もやっていて、最後のほうはちょっと怠惰になって、最初のころの情熱や初期衝動は薄れがちだった。でもこのバンドを初めて、そんな気持ちを取り戻すことができた」(サイモン)
「ぼくのキャリアはジーンやオーより断然長いけど、彼らに対して上からものを言ったり指示したりすることはない。全員が対等に発言権があり、民主主義的なバンドなんだ。楽曲も全員で作ってるしね。それはぼくにとって、とても居心地のいいことだ」(ビー)
結成当初は日本人メンバーも在籍していたことが示すように、フトンはもともと国境や民族を越えたクロス・カルチュラルなコンセプトを強く打ち出したバンドだ。音楽的にはヨーロッパ色が強く、我々がイージーに連想するようなアジア/タイ的な色は希薄である。それは主要メンバーが英国出身である以上に、インターネットなどの発達で、世界中どこにいても同じような情報を享受できる21世紀のバンドならではの特質と言うこともできる。
「音楽や映画、ファッションなど、タイの若者に欧米の影響は確かに強いと思う。でも日本や韓国のポップ・カルチャーも人気があるし、その一方でタイの精神文化のようなものにも憧れがあるの。フトンの音楽にもそれは反映していると思う」(オー)
「ぼくにとってはフトンっていうのは“新しい国”なんだ。そこでタイ人であることをことさらに意識しようとは思わない。音楽は万国共通語だからね」(ジーン)
つまりは日本の平均的な若者と同じように、タイの平均的な若者たちのアイデンティティは、その無国籍性にこそあるのかもしれない。“フトン”というバンド名は「アジア発で世界中に広まったそのあり方が、自分たちの目標でもあるから」という理由で付けられたという。彼らの音楽が世界の若者にどのように受け入れられていくのか、楽しみだ。
取材・文 小野島 大(2007年10月)