GADORO、SUNART MUSICにカムバックにしての4作目。ファーストのヒップホップ感とちょっと進化した自分

GADORO   2020/04/24掲載
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 GADOROの4作目『1LDK』は、タイトルからもわかる通り、ファースト『四畳半』(2017年)と呼応しつつ、彼の3年間の進歩を刻んだアルバムである。
 前作『SUIGARA』は日本コロムビアからのメジャー・リリースだったが、今回は地元宮崎のDJ YAOHH率いるSUNART MUSICにカムバック。PENTAXX.B.F.、TIGAONE、SUMIKI、ikipedia、DJ PMX、DJ WATARAI、熊井吾郎、S-NA、Kiwyといったトラックメイカーたちが提供するビートに乗って、唯一無二のラップを聴かせてくれる。般若、ハシシ(電波少女)、4s4kiの客演も得て完成させたアルバムについて語ってもらった。
 余談だが、いつも着けているマスクはコロナウイルスともスギ花粉とも関係ないそう。「2013年からコロナ来ることわかってたんで」と笑わせてくれた。
New Album
GADORO
『1LDK』

SUN-0001
――前作をメジャー・リリースして、今回はまたインディーズに戻ったわけですが、メジャーの景色はどうでしたか?
 「メジャーの景色かどうかわからないですけど、ワンマンも大きいとこでできたんで、自分なりに階段は少しずつやけど登っていけてるかなって思います。違いはサンプリングの規制くらいで、自分のやることは全然変わってないですね」
――インディ、メジャーとは別に、4枚目のアルバムということで変わった部分はありますか?
 「自分のなかではファースト(『四畳半』)のころに戻ったというか、あのときのヒップホップ感を取り戻したいなって思ってて。メジャーで出したときには“売れるために”みたいなことも意識してないかっていったらしてた自分もいたんですけど、逆にいまは自分をとりあえず信じようっていうか。ひとの意見ももちろん大事ですけど、最終的には自分で決めてやろうと思った、ってとこですかね」
――僕の印象としては、とても頼もしいというか、兄貴っぽいというか……。
 「兄貴っぽい(意外そうな顔)? うれしいです(笑)。ありがとうございます。自分の言葉をより信じれるようになりましたね。言葉に自信がついてきたと思います」
――ファーストのころに戻ったということですが、ネガティヴさを前面に出していた当時と比べると、ネガティヴを抱えながらも前を向いて、かつリスナーを鼓舞しているような感触があります。
 「ファーストでは自分の生い立ちとかつらかった過去とかをそのまま歌って、未来が見えないままバッドエンドになる曲も多かったんですけど、今回は全体的に重くなりすぎないようにしたかったんです。『1LDK』ってタイトルのとおり、『四畳半』からちょっと進化した自分っていうか。俺とおんなじネガティヴさを抱えて聴いてる人もたくさんいるだろうなって思って、そういう人に向けてのメッセージもあったりします」
――いまお住まいの部屋は?
 「1LDKです。今後も徐々にでかくしていって、10枚目ぐらいには『別荘』にしたいですね(笑)。6枚目あたりでウソついてるかもしれないですけど(笑)」
GADRO
――変化は「いつかのヒーロー」「ありのまま行こう」あたりに顕著な気がしていて、たとえば前者では“俺は最高に無様で最高に弱者”と弱さを吐露したうえで“それでも最高にヤバいのは俺だよ”と立ち上がり、“灯火は灯ってると思ってる 君の助け舟になると願う”と続けている。そのあたりに頼もしさを感じたんです。
 「そうですね。リスナーに向けて歌ってる曲も多いです。全部自分のリアルなんですけど、聴いてる人に向かって、俺もおんなじ感情を持ってるんだよ、みたいな」
――「いつかのヒーロー」では“週末すべて大逆転/俺を観に来る馬鹿に会いたくて”の前に平日の冴えない生活を具体的に描写していて、コントラストが鮮やかです。
 「平日はほんとクソ野郎なんで(笑)。でも週末になったらヒーローにならざるを得ないというか、あえてヒーローと見立てて歌ってます」
――“君が当時憧れたヒーロー そいつの代わりに訪れたb-boy”だから謙虚ですけどね。その後の“死ぬつもりなら飯でん食おうぜ そいつは全額お前の奢りで/気が変わって生きるって言うんなら/今日だけは俺が出してもいいぜ”というくだりにGADOROさんの優しさがにじみ出ているような。
 「死にたいって思ってる人に、媚び売って“死ぬなよ”って言うのも違うな、とか。どういう言葉をかけたら、そういう人は俺の音楽を聴いたりするんかなって思って」
――ファンの方からそういう話をされることもありますか?
 「なくはないですね。ライヴ終わった後に、泣きながら“死にたいと思ってて”みたいなことを言われたときに、とっさのことで“大丈夫だよ”ぐらいしか言えんかったときがあるんですよ。なんて言えば正解やったやろ……ってずっと考え込んでたら、こういうリリックが出ました」
――「ありのまま行こう」で僕がとくにグッときたのは、“男らしくなろうとしなくても良い 女らしくなろうとしなくても良い”というくだりなんです。世の中が“しなきゃいけない”ばかりだからこそ、ステージ上からこういうことを言ってくれると、みんな楽になるんじゃないかなって。
 「いやぁ、うれしいです。うれしいですし、ほんとそのとおりなんです。みんな固まっちゃってるっていうか、まわりが見えなくなってる状況で、こういうリリックを書くことによって、強迫観念に縛られてる状態から解放できるかなと思って。逃げることは全然悪くないと思ってるんで。これはいままでにないような応援ソングみたいなのを作りたかったんです」
――この曲の“自分の弱さは知っている割に自分の強さを知らない君”と「カクシゴト」の“俺の長所ならば短所全て分かることだが俺の短所ならば長所分からないこと”が、“君”のことと“俺”のことで呼応していますよね。それが“俺もみんなと変わらないんだよ”というメッセージになっている。
 「みんなと変わんないんで、実際。平日は地元のマックスバリュで安い弁当買って家に帰ってゲームしてるだけで、週末はボンとぶちかまさんといかんけど、それ以外は本当に普通の人間なんで。“俺はラッパーだ!”って言えばかっこいいですけど、やっぱりどこか痒くて、嘘ついてる気がするんで。だからこういうふうに言っちゃいますね」
――でも本当の普通の人は、僕自身もそうですけど、人前に出て何かをして見せる機会がまずないじゃないですか。GADOROさんはそれをやっている者としての責任みたいなものも感じているのでは?
 「つねに誰よりもぶちかまそうとは思ってますね。ステージを降りたらみんなと一緒の立ち位置っていう意識があるからこそ、ステージに上がったら誰にも負けないっていうか。その気持ちは他のラッパーよりもありますね、絶対に。お客さんたちを代弁してるとか背負ってるっていうわけじゃないですけど、普通の人間がステージに上がったときにどんだけの力を見せれるか」
――去年の6月の東京でのワンマン・ライヴも本当にすばらしかったです。
 「ライヴは毎回めちゃくちゃ緊張するんですけど、かませなかった日は死ぬほど落ち込むんですよ。その感情になりたくないから、恥ずかしさとかそういうものは全部捨てて。ぶちかましたときは、その日一日ずっとハッピーで、その感情も知ってるんで、だからもうとりあえずかまそうと思ってライヴはしてますね。たぶんそこへの意識は普通のラッパーより高いと思います」
――簡素なステージで、ほぼ丸腰でお客さんとの勝負に臨むみたいな緊張感もありました。
 「そうしたかったんです。バック・ダンサーを入れるとかいう話もなくはなかったんですけど、いや、俺とバックDJだけで、お客さんたちと一対一で戦う、と」
――これまでになくボースティングも多い気がしますが、そんなことはないですか?
 「自分のなかで矛盾があるんです。強い自分と弱い自分と。それをあえて矛盾したまま歌ってるというか。たとえば〈BACK DRAFT〉ではバチバチなトラックで“俺は弱者 あえて言い聞かす”とか歌ってますし。〈この街には俺がいる〉は、俺のことを宮崎のヒップホップのアーティストとして誇りに思ってくれてる人も少なくはない……少ないかもしれないですけど(笑)、いるにはいると思って書いたんですけど、俺で大丈夫なのか?っていう自信のなさもあって、“心配はいるがこの街には俺がいる”ってなったんですよね。普通は“心配はいらん”って歌うんでしょうけど。そこは自分に問いかけてる部分もあったりして、矛盾した部分をそのまま書いてます。なんか葛藤してますね」
――なるほど。“心配はいるがこの街には俺がいる”というフレーズは、現時点でのモードを象徴しているかもしれませんね。
 「あー、そうですね。そんな感じです」
――「U love song feat. 般若」は念願の般若さんとの共演ですね。
 「俺がラップが好きになったきっかけの人やし、昔から憧れてたんで、いつか一緒にやりたいなって思ってたんで、感謝です。ちょっと早いかなと思ったんですけど、まわりから“やってみたらいいじゃん”って鼓舞されて。4枚目にして叶ったって感じです。やっぱ思い入れが違いましたね。自分のヴァースを入れたのを“こういう曲です”って般若さんに渡して、返ってきたヴァースがかっこよすぎて、全部消したんですよ、一回。負けちゃいかんなと思って。最初はもっとネガティヴな感じで書いてたんですよ」
――いざ一緒にやってみて印象的だったことは?
 「最後のヴァースが俺との掛け合いなんですけど、全部俺のヴァースのケツ取って韻を踏みながら話をまとめて次へつなげてて、すごいです。俺が“泥臭く玉砕 高山にドン・フライ”って歌ったら、格闘技つながりで“ヌルマゴとマクレガーのリマッチくらい文句ない”って踏んでて、やっぱうますぎるなこの人、と思って、びっくりしました。早いんですよ、レスポンスも。俺はけっこう時間かけるタイプなんで、あの短時間であのスキルと内容はさすがだな、見習わんといかんなと思いました」
――GADOROさんは時間をかけるほうなんですね。
 「かかるときはかかりますね。この曲はまさしくそれです。般若っていうブランドのプレッシャーがすごくて。ちょうどこの曲を作ってたときにUMBともめてたんで、DISってやろうと思って“ライブラ、UMB”と“プレイヤーをダシにするあいつらの手口”みたいな踏み方をして、これで完成や、って思ってたころに電話がかかってきて“あのときはごめんなさい”って言われて、許したんで変えました(笑)」
――謝ってくれたら潔く許すのは偉いですね。もうひとり、ハシシさんとの共演もあります(「VERY VERY feat. ハシシ from 電波少女」)。
 「ハシシさんとは一回、宮崎の飲み屋さんでたまたま会ったんですよ。“ハシシさんですよね”“GADOROくんだよね”って挨拶して、“今度飲みに行こう”って話して、また宮崎で飲む機会があって、最後ラーメン食いながら“曲作りたいね”“ぜひ作りましょう”ってなって、すぐオファーしたんです。ハシシさんは生き方は俺とは全然違うんですけど、仕事とかまったくできないみたいな不器用なところが似てるから、そういう曲を作ろうかってなって。あえてキャッチーで軽快なトラックに乗せて、ドジな部分とかダサい部分をさらけ出した歌ですね。そうすると笑い話に聞こえるというか」
――「靴紐 feat. 4s4ki」は前作に続いて4s4kiさん参加の失恋ソングですね。
 「4s4kiちゃんは好きなんですよ。メロディもリリックもいいんですけど、やっぱり声がかわいいです。これは過去に経験したいくつかの失恋の感情を盛り込んで書いたんですけど、“1人孤独の中スペルマが飛び散る/その後も恋しいこれが愛と思い知るよ”っていうフレーズが俺はいちばん気に入ってるんですよ。オナニーして射精した後も好きだっていう。普通はオナニーした後って……なんて言うんですかね(笑)」
――賢者タイム?
 「そう(笑)! 本当に好きやったら賢者タイムが訪れないんです」
――あぁ、わかります。
 「わかりますか! 恋から性欲を引いたら残るものが愛やと思うんですよ。だから好きな女ってオナニーすればわかるんですよ、本当に好きかどうか」
――オナニーして賢者タイムが訪れるようでは、たんにやりたいだけだと。
 「そういうことです!」
――(笑)。
 「自分のなかではいちばんリアルなリリックで、好きなんです」
――今回は4作目にしておばあちゃんの歌がないですが、その代わりに「ハジマリ」と「幸せ」で、いまの視点から卒業や子供のころのことを歌っていますね。
 「ばあちゃんはもういいでしょうと。あんまりばあちゃんばあちゃん言われても、聴く人がどう聴けばいいかわからんかなって(笑)。〈VERY VERY〉で“もう天国のおばあちゃんに会いたいぜ”って歌ってますけど」
――「ハジマリ」のMVをYouTubeで見たら、ツイッターのDMで卒業ソングを作ってくださいって送ったらわかりました!って言ってくれた、というコメントがありました。
 「まさにそうなんですよ。ちょうど作ってたか作り終わったぐらいのときに“作ってください”ってDMもらって、“わかりました! 作ります”って。“作ってます”とはけっして言わなかったです(笑)。“作ります”のほうがいいですよね?」
――うん。喜んでくれたと思います。
 「これ、いちばん最初にできた曲なんですよ。ikipediaさんが毎日トラック送ってくれてたんですけど、このトラックをもらったときにすぐ卒業ソングのイメージが湧いたんです。卒業ソングというよりも、自分の中高時代のことですね。卒業ソングあるあるにはしたくなくて、あくまで自分のリアルを歌いたかったんで、共感とかそういうのは一切無視して、あえて高嶋先生だったり永瀬先生だったり、個人名を入れました」
――本当にこういうお名前なんですね。
 「本当です。コメント欄でムカついたんですけど、“やるよ絶対(ぜってえ)”で踏むために“丸尾先生”出てきた、って書いてあって(笑)。逆なんですよ。丸尾先生がいたから“やるよ絶対”で踏んだんだよ! ふざけんな」
――(笑)。“親の交尾が単に一年早いってだけで/先輩風吹かすしょうもないアイツ”というのも面白かったです。
 「ずっと思ってたんですよ。たかだか1年2年違いでめっちゃ先輩ヅラしてくる人いるじゃないですか。ああいうのになんか違和感あって、どう言ったら論破できるかなって考えて、そうや、親のセックスがちょっと早いだけやん、って。そういうひねくれたリリックです」
――最後の「幸せ」はある意味「ハジマリ」と対をなしているというか、個人的な思い出からは離れて、普通の仕事をしている人の立場で歌っていますね。
 「いわゆる普通の仕事をして真っ当に生きてる人たちに聴いてもらう曲を、と思って、自分が普通に仕事してたときのこととかも思い出しながら書きました。これはわりとすぐできましたね。仕事に追われて、安い手取りで働いて、死にたい、死にたいって思ったりするけど、結局生きてるじゃないですか。生きてるだけで俺は偉いって自分で自分をほめることしかなかったりとか。そういう現実を歌ってるからちょっと重めなんですけど、最後のヴァースで光が見えてくるようという」
――“ゴミクズのような糞な人生でも生きていて良かったと一度でも思えたらきっと笑顔で死ねる”。さっき話していた、重くしすぎないように、という配慮ですか?
 「それもあるし、自ずとそうなったところもあります。光が見えてくれないと、聴いてる人も救いがないじゃないですか。『四畳半』のときは俺のリリックだったんで」
――ひとりで世界と戦っていた“俺”に、ちょっとずつ仲間が増えてきているみたいな。以前ほど寂しそうじゃないなって思いました。
 「まさにそのとおりです。まだ寂しかったり孤独な部分もなくはないんですけど、ファーストのころと比べたら、支えてくれる人とかも増えたんで」
――これからますます増えていけば、「ハジマリ」で“次 武道館であるときは 全員で来てくれ”と歌っているように、いつか武道館にも立てそうですね。
 「立ちたいですね、武道館。俺のいまの夢です」
取材・文/高岡洋詞
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