「イタリアではその名を知らない人はいない」と言われるほどの人気を誇るイタリア人コンポーザー、ピアニスト、そしてコンダクターでもある
ジョヴァンニ・アレヴィ(Giovanni Allevi)。
スパイク・リー監督がBMWのCFに彼の楽曲を使用したことによりヨーロッパ中でブレイクし、アメリカにおいてはニューヨークのブルーノートでの公演がソールドアウトに。北京五輪や上海万博といった国際的な大イベントにも、イタリア人アーティストの代表として出演しており、世界中がその存在に注視している。現在、もっとも旬のアーティストの一人と言っても過言ではない。
先日、東京・トッパンホールでのピアノ・ソロ・コンサートのために2度目の来日を果たした彼に、近況や今後の予定などをうかがった。
――2008年11月以来、約1年半ぶりの来日ですが、2009年はどんな年でしたか?
ジョヴァンニ・アレヴィ(以下、同) 「イタリア国内だけでなく、海外での演奏会も多く、とても忙しい1年でした。オーケストラとのコンサートを数多く行なうことで、自分の音楽的な可能性の広がりを実感した年でもありましたね。最大のイベントは9月1日にヴェローナの円形競技場(アレーナ・ディ・ヴェローナ)で行なったコンサートでした。これはロンドン響やジュリアード音楽院、紀尾井シンフォニエッタなど、世界各地から集結した87人の演奏家たちによるオーケストラとのコンサートで、観客も世界中から約12,000人が集まったんです。あまりの規模の大きさに、本番直前には恐怖感すら覚えたのですが、客席からの歓声に勇気をもらって、結果的には大成功を収めることができました。アンコールを7曲も演奏しましたし、終演後にはファンの求めに応じてサインをするのが恒例なのですが、この日はサインを終えたのが朝の4時だったんですよ(苦笑)」
――それは大変でしたね。非常に大規模なプロジェクトですが、どういう経緯でスタートしたのですか?
「2008年にリリースした初の管弦楽曲集
『Evolution』が、イタリアのヒットチャートの第3位にランクインするほどの大ヒットになったので、このアルバムの収録曲でコンサートを行なって、ライヴ盤を作ろうという話が持ち上がったんです。そこでイタリア国内で候補地を検討したところ、音響的にも映像的にもヴェローナの円形競技場がベストではないかという結論に達し、スタッフが実現に向けて奔走してくれました」
――急造のオーケストラとの共演は、大変ではありませんでしたか?
「メンバーと会う前には不安も多少ありましたが、いざ一緒に演奏を始めてみると、個々の奏者が本当に素晴らしい音楽性を持っていたので、彼らと共演している間じゅう、喜びでいっぱいでした。このプロジェクトの趣旨を理解した上で参加してくれた方々ばかりでしたし、作曲者である自分に敬意を払ってくれたので、全員がすぐに一丸となれたのだと思います。このコンサートの模様を収めたCDとDVDはすでに発売されていますが、おかげさまで売れ行きも好調のようです」
――2010年3月からは世界各地でピアノ・ソロのツアーを行なっていますが、今回のツアーのコンセプトについて教えてください。
「今回は自分の作品を作曲年代順に並べて演奏しているのですが、それによって僕という人間の歴史を感じていただけたら……と思っています。曲と曲の間には、自分で作品について簡単な解説をしています。本当は言葉では説明したくないのですが、これは自分自身を落ち着かせるためなんです。大勢の人の前でピアノを弾くことは、僕にとってものすごく怖いことですから(苦笑)。パニック状態に陥ってしまうこともあるので、観客とコミュニケートすることで自分をコントロールしようと心がけています。今回のツアーの海外公演は東京が最後で、帰国後は今秋レコーディング予定の新しいアルバムの制作準備に入ります。順調にいけば、10月下旬にリリースする予定です」
2010年6月12日 東京・トッパンホールでのコンサート
Photo:千賀健史(Chiga Kenji)
――新しいアルバムはどんな感じになるのでしょうか?
「ピアノ・ソロのアルバムです。僕の頭の中では常に音楽が鳴り響いているんですが、最近はオーケストラとの仕事が多かったせいか、オーケストラの響きがずっと鳴っているんです。その影響かもしれませんが、従来よりも一曲一曲が長くなり、その分、収録曲数は少なくなると思います」
――作品はもう完成しているのですか?
「僕の頭の中ではでき上がっていますが、譜面にするには1週間から10日間程度かかりそうです。今までは頭の中にピアノの響きが鳴っていたので、そのまま書き留めていけばよかったのですが、今回はオーケストラの響きとして鳴っているので、それをうまくピアノ譜の形に落とし込めるかどうか、ちょっと心配なんですけどね」
――次回の来日公演はいつ頃になりそうですか?
「11月に再び日本に来ますよ! 現在のところ、東京と大阪でコンサートを行なう予定です。じつは、僕が17歳の時に初めて書いた作品は“Japan”というタイトルなんです。10代の頃から僕にとって日本は憧れの国だったのですが、一昨年、日本で初めて公演を行なった際に、日本の聴衆の皆さんのあたたかさに感激しました。今度は“自分がどれだけ日本の皆さんに与えることができるか?”が課題です。秋にまた、皆さんにお目にかかれることを本当に楽しみにしています」
――今年の11月には、ニュー・アルバムの収録曲も聴かせていただけるかもしれませんね。とても楽しみです。どうもありがとうございました。
取材・文/大津直子(2010年6月)