ジョヴァンニ・アレヴィ ポップからクラシックまでジャンルを横断するイタリア出身のピアニストの“愛のアルバム”

ジョヴァンニ・アレヴィ   2019/10/16掲載
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 現代イタリアで“天才”と誉れ高い作曲家/ピアニストのジョヴァンニ・アレヴィは1969年、マルケ州生まれ。ミラノの名門ヴェルディ音楽院でピアノと作曲を学びながらマチェラータ大学では哲学を専攻したというインテリ。15万枚を売り上げた2006年のアルバム『Joy』で、オリジナルのピアノ曲としてイタリア音楽史上初のクラシック・チャート第1位を獲得し、2010年の『Alien』では総合チャートで第2位という快挙を達成した。若者世代からの人気も厚く、屋外オペラ公演で世界的に有名なアレーナ・ディ・ヴェローナにおいて12,000人もの観客を動員。イタリア・プロサッカーリーグのファンファーレ曲「O Generosa!」(2015年)はセリエAのすべての試合において今日も演奏され続けているという。
 2015年に全国6都市でピアノ・ソロの来日コンサート・ツアーを実施。日本限定のベスト盤『THE PIANO OF GIOVANNI ALLEVI His Best 1997-2015』をリリースして好評を博す。以来、ほぼ毎年のようにツアーで日本を訪れ、2019年も6月から7月にかけて大阪・京都など全国7ヵ所を巡った。そのツアーを締めくくる東京公演を10月29日に音楽の友ホールで開催。あわせて本国で2015年1月に発売した最新ピアノ・ソロ・アルバム『LOVE』にボーナストラックを追加した国内盤を10月23日にリリースする。
New Album
『LOVE』

(YCCS-10082)
2019.10.23 On Sale
――6月〜7月にかけてのツアーは各地で大盛況だったそうですね。京都では大学生との交流イベントも実施されたとか。
 「京都市立芸術大学で、美術学部と音楽学部あわせて80人くらいが参加してくれました。今の若い人たちが何を考え悩み、どういう問題を抱えて生きているのかがわかって、私もすごく勉強になりました。とくに音楽学部の学生さんにはそれぞれが向き合う楽器を演奏するうえでの、プレッシャーやスランプを克服する方法について助言を求められたのが印象的でした。デビューして30年近くになりますが、いまだにピアノの前に座ると不安を感じることがあります。そんな私がひとつアドバイスできるとしたら、音楽とは内なるものなので、それをどうやって自分の中で作りだし外に伝えていくか、じっくり考えることで恐れに打ち克つことができる。そのためにはあまり他人と比較したりせず、自分が持っているものを大切にすることですね。私がそう言うと、彼らの顔が少し晴れたような気がしました。とにかく私は不安定な人間の典型でかなりの心配性。でもその不安を音楽にして発信していくことで前に進むことができた。とにかく暗闇の中から光を目指すことです」
――あなたは人の痛みがわかる人間なんだと音楽を聴いて思いました。
 「2005年頃、ニューヨークでのコンサートの後、アジアで小さなツアーを行ない、その帰りのミラノで激しいパニック障害に陥りました。でも総合病院に連れていかれる救急車の中で、後のアルバム『Joy』(2006年)に収録される〈Panic〉という曲のメロディが浮かびました。私が“人生の応援歌”と呼ぶ曲です。不安が大きければ大きいほど、人って強くなれるのかもしれません」
ジョヴァンニ・アレヴィ
――クラシックでもジャズでもポップスでもあるユニークな音楽。あなたの音楽を聴いていると、まるで映画のサントラを聴いているみたいに、いろんなシーンが見えます。
 「私にとってクラシック音楽とは、書かれた時代ではなくて、各楽章の構成やソナタ形式、構造が重要。ずっとクラシックを学んでいたので崩してはいけない部分があるのはよくわかる。でも自分のオリジナル曲を書くにあたっては、今までにない斬新さも必要。古典的な様式や構造に敬意を払いつつ、時代の空気をどんどん取り込んで、現代の聴衆に響くような音楽を作りたい。その姿勢を今までのキャリアで貫いてきました。伝統を重んじつつもテクノロジーなど新しいものを求める力が強い日本人には、この気持ちをよく理解してもらえるのではないでしょうか」
――本国で2017年にリリースされた2枚組『EQUILIBRIUM(エクリブリウム)』はとてもユニークなアルバムでした。Disc1が自作自演のピアノ・ソロ集で、Disc2には米国人ピアニストのジェフリー・ビーゲルに演奏を委ねた自作の「ピアノ協奏曲第1番」が収録されていました。
 「ジェフリーはブルックリンのアカデミーでピアノを教えている人なのですが、ある時彼の生徒が私の曲の楽譜を演奏しているのを聴いて興味を持ってくれて“あなたの作品を弾きたい”っていうメールをくれました。それで彼のためにピアノ協奏曲を書いてみようかなと思ったのです」
――あなたの作曲した「ピアノ協奏曲第1番」はとてもリズムが印象的な作品ですね。とくに彼の演奏はピアノという楽器が持っているリズム楽器的な側面を際立たせてくれている気がします。
 「自作曲ではいつもリズムにこだわりがあります。この作品ではとくに第1楽章のカデンツァとか第3楽章が難曲で、書きながらやはりこれを自分で弾くのは無理だなと思いました(笑)。ジェフリーはとても優れたテクニックを持つピアニストなので、手加減することなく存分に作曲に集中できました」
――作曲家のあなたとピアニストとしてのあなたは別なのですね。つまり自分で書いた曲であっても、演奏する時はピアニストとして作品に向き合っているというか……。
 「まさにそうですね。人格が分裂しているのではなく、たんに“コンポーズ”する力と“プレイ”する力が違うんです。もっともピアニストとしては、いつも自分はたいしたことなくてホントごめんなさいって感じでステージに出ているんですよ(笑)」
――そんな(笑)。では、ピアニストとして好きな作曲家は?
 「うまく弾けるかどうかは別として、やっぱり最終的に心を持って行かれるのはショパンですね。2つの協奏曲がとくに。協奏曲といえばラフマニノフの2番も好きです。初めて2番を知った時、あまりの素晴らしさに、きっとこの作曲家はこれ以上協奏曲を書かなかっただろうな……と勝手に思いこんでいたら3番があってびっくりしました(笑)。ラフマニノフの流れで言うと、プロコフィエフやガーシュウィンの作品も好きです。このあたりはみんな繋がっている気がします」
ジョヴァンニ・アレヴィ
ジョヴァンニ・アレヴィ
――ではピアノ曲から離れて、憧れの作曲家は?
 「家にはオペラのレコードがたくさんあって物心付いた頃からいつも耳にしていました。6歳の頃でしょうか、プッチーニの『トゥーランドット』に夢中になって、毎日そればかり聴いていました。それと生家のあるペーザロの街が近いのでロッシーニも好んでよく聴きました。彼の音楽からは生きる喜びを学びました。ただ昔から、あまり歌手には興味を示しませんでしたね……。母がオペラ歌手だったからでしょうか」
――やはりピアノに向かって作曲することが多いのですか?
 「作曲を学んだのは20歳を過ぎてから。師事していた教授からはできるだけピアノや楽器を使わず、浮かんだ音をそのままどんどん譜面に書き込んでいきなさいと教わったので、それを今も実践しています。なので私の作品でピアノを弾きながら作曲したものはありません。だから完成した曲を実際に弾いてみると、かなり難しかったりして、いったい誰が書いたのこの曲? って思うこともあります(笑)。ある時、テレビで尊敬する宮崎駿監督のドキュメンタリー番組を見ていたら、監督も作品を作るにあたって、まずは自分の中に降りてくるキャラクターのイメージをひたすら書いてばかりで、最初はストーリーのことなどは一切考えないそうです。それに共感しました」
――10月の東京公演にあわせて、日本語ライナー付きの国内盤としてリリースする『LOVE』について教えてください。
 「イタリアでは2015年に発売したアルバムで“愛”をテーマに描いた13作品を収録したピアノ・ソロ作です。ロマンチックな愛を歌った〈Loving You〉、日常的な愛の〈Come with me〉、肉体的な〈Lovers〉、身を焦がすような〈Asian Eyes〉、崇高なる〈Amor sacro〉、大切な人に対する〈My family〉……とさまざまな愛のかたちを曲にしたもの。作曲家って音楽を通していろんな想いを伝えるのが仕事だと思うのですが、詰まるところほかのどんなものより“愛”を伝えられないと無意味なのでは、とふと気がついたことがきっかけで生まれたアルバムです」
ジョヴァンニ・アレヴィ
――中には「Yuzen」(友禅?)とか「Asteroid 111561」(小惑星の番号?)のような気になるタイトルの曲もあります。
 「まさにYuzen=友禅です。2013年に金沢を訪れた時、1週間ほど39度の熱を出して寝込んでしまい、友禅の展示会にでかけることも叶わず、高熱のために動けず錯乱した状態の自分に降ってきた音楽を集めたものです。そして〈Asteroid 111561〉は宇宙で悠然と遊泳する自分の姿を想像しながら書きました。じつはNASA(アメリカ航空宇宙局)は数年前にあるひとつの小惑星に“Giovanniallevi 11561”と私の名前を付けてくれたのです!」
――そして日本盤ボーナストラックである「Japan」という曲は17歳の時に書いたあなたの処女作だそうですね。
 「はい。17歳の私は周りの仲間たちと交流するのが苦手で、いつも自分の殻に閉じこもってピアノばっかり弾いている孤独な少年でした。幼い頃から日本に憧れていて、明るく外交的なイタリア人よりは、一般的にシャイな人が多いといわれている日本人のほうにずっと親近感を抱いていたのです。今も自分の前世は日本人だったかもしれないって信じています。初めて鹿児島で桜島の前に立った時に、絶対この風景を以前この目で見た覚えがあると思ったし、うどんを食べる度に、日本人だと実感します(笑)。10月にまた日本に帰ることができて嬉しい。コンサートで皆さんにお会いするのを楽しみにしています!」
ジョヴァンニ・アレヴィ
取材・文/東端哲也
撮影/西田周平
Concert Information
ジョバンニ・アレヴィ
〈ジョヴァンニ・アレヴィ ジャパンツアー2019〉
2019年10月29日(火)
会場:音楽の友ホール(東京都新宿区神楽坂6-30)
開場 18:30 / 開演 19:00
チケット料金:前売 10,000 円 / 当日10,500 円(全席自由 / 税込み)
*未就学児の入場はご遠慮下さい。
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