――まず、ゴッド・ヘルプ・ザ・ガールを始動させた経緯を教えてください。
(スチュワート・マードック/以下同) 「ある曲のアイディアがわきあがってきて書き上げたんだけど、出来上がった曲を聴いて、その曲はベル・アンド・セバスチャンではなく、女性ヴォーカル用の曲だって思ったんだ。そこで、女性ヴォーカルのアルバムを作ろうと思い立ったのさ」
――アルバムはミュージカル映画の要素を含んでいるとか。
「出来上がった曲と関連付けて、ストーリーも書くべきだって思ったんだよね。だからまず曲が先にあって、そこから映画のアイディアが出てきたってわけ。ミュージカル映画のストーリーは……ある女性が主人公でイヴっていう名前なんだ。彼女はボロボロな状態で精神病院にいて、そこで曲を書き始めるんだ。そうすることで少しずつ回復していくんだけど、そんな時にジェイムスとキャシーに出会って、3人で一緒に音楽を作るようになる。じつはいま映画化の準備中で、脚本の第二稿に取り掛かってるところだよ」
――イヴ役のキャサリン・アイアトンはオーディションで選んだそうですね。
「うん、かなりの回数オーディションをやったよ。力強いと同時に繊細なヴォーカルもできる女性。そして明るい声の持ち主を探してたんだ。最初にキャサリンに出会った時、ちょっと
ジュリー・アンドリュースみたいだなって思った。彼女は女優としても優れていて、自分の歌声を変化させるってこともできるんだ。そうやって出した声は元の声より滑らかで、その声がすごくイヴにはまってた」
――レコーディングは、ベル・アンド・セバスチャンの場合とは、また違ったアプローチだったのですか?
「ベル・アンド・セバスチャンほど張り詰めた感じではなかったね。それは単に僕が今回のプロジェクトを仕切っていたからなんだけど、僕はあんまり一生懸命やりすぎるのが好きじゃないから(笑)。リラックスした感じでやるのが好きなんだ。みんなにも楽しい時間を過ごしてほしいしね。だからまず5日間、シンガーと一緒にレコーディングをして、そのあと1週間休みを取るんだ。そして、その後、また別のシンガーと5日間作業して1週間休んで……っていうふうにやったんだ。今回はいろんなアーティストが参加しているし、レコーディングはすごく楽しかったよ」
――今回のアルバムはバラエティに富んでいて、とてもポップに仕上がっています。ミュージカルということで、曲作りの面で何か方向性のようなものを意識しましたか?
「最初、曲を書き始めたときは、このアルバムは60年代風のガールズ・グループっぽいアルバムになるだろうと思ってたんだ。60年代的なフィーリングをもった、女の子が3人くらいで歌ってるようなね。でもそれは最初に書いた曲だけで、曲を書き進めていくにつれて、音楽のスタイルはあんまり関係ないって思い始めた。今回作った曲にはジャジィな曲もあるし、フォークっぽい曲もある。結局、それぞれの曲のスタイルに従うしかなかったね」
――メロディもさることながら、ストリングスやホーンのアレンジも美しいですね。
「ヴォーカルがちゃんといい感じにおさまるように、ヴォーカルを取り巻く形でストリングスやホーンをアレンジするように心掛けたよ。実際にアレンジを担当してくれたのは、ベル・アンド・セバスチャンでトランペットを吹いているミック・クックだ」
――歌詞の面ではどうですか? ミュージカルということで、いつもの歌詞とは違ったと思うのですが。
「うん、ベル・アンド・セバスチャンのアルバムとは違ったね。まず、本作ではいろんなシンガーが歌っているし、歌のテーマはよりシンプルだと思う。なぜなら今回の場合、基本的に曲でストーリーを語る形になっていて、それを曲ごとにキャラクターを通じて行なってるからね。もともと僕自身は複雑な性格の人間なんだ。それがベル・アンド・セバスチャンの歌詞には反映されているけど、今回はキャラクターにあわせて歌詞を書けばいいんだって気付いたら、すんなり書くことができたよ」
――では、あなたにとってミュージカル映画の面白さとは?
「ミュージカル映画っていうのは、ちゃんとしたものに仕上がった場合、何ものにも勝るものだと思うんだよね。ミュージカル映画はオペラにもなりうると思うんだ。昔、オペラっていうのは芸術の最高峰だったからね。人間ドラマに美しい音楽が盛り込まれていて、多くの人々を惹きつけた。優れたミュージカル映画は、そういうことが可能だと思うんだ」
――本作の映画化が楽しみですね。では最後に、今後、ゴッド・ヘルプ・ザ・ガールを継続的にやっていく予定はありますか?
「うん。いろいろヴォーカリストを変えてやっていくことになると思うよ。ほかの人のために書いた曲や、ベル・アンド・セバスチャンには合わないような曲を作品にできるっていう意味でも、このユニットは僕にとって良い機会を与えてくれるだろうし。それに“ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール”って良い名前だと思ってて、けっこう気に入ってるからね(笑)」
取材・文/村尾泰郎(2009年6月)