前作
『グッド・モーニング・リバイバル』から2年半の時を経て、グッド・シャーロットは“イイ大人”になって我々の前に帰ってきた。それはもちろん、物分かりがよく、眉間に皺を寄せた真面目ぶった大人でなく、自分の楽しみを見つけとことん追求している、キラキラとした姿だ。ニュー・アルバム
『カーディオロジー』には、そのバンドの“今”が詰まっている。ポップ・パンクの旗手として10年にわたり深化を続け、より壮大に、より重厚にアプローチしてきた彼らだが、今作では初期衝動にも似たラフなポップさと柔軟な空気感がアンサンブルに生きている。この開放感の理由は何か、ベンジー&ジョエルのマッデン兄弟に訊いた。
(C)Ville Akseli Juurikkala
――ニュー・アルバム『カーディオロジー』の先行シングル「ライク・イッツ・ハー・バースデイ」にまず驚かされました。パンキッシュな昂揚感というよりも、心地好いポップさや、ほどよくユルいヴァイブに満ちていて、バンドの新たな感覚が伝わってきます。
ベンジー・マッデン(g、vo)「深く考えて選んだ曲というよりも、自分が今思っている楽しい感覚を伝える曲にしたかったんだ。それにはあの曲がいちばんだと思ったんだ。もちろん、人を驚かすことは好きなんだけど、今回はフィール・グッドな楽しい曲、それだけだね」
――その“楽しさ”が、今回のアルバムを作る上でのキーですか?
ベンジー「そうだね。今、世の中は経済的にもそうだし、とくにここ数年は――」
ジョエル・マッデン(vo)「戦争があったり」
ベンジー「そう。世の中を見まわしても、バッド・ニュースばかりで。ツアーで世界をまわっていて気がつくのは、どの国も今はすごく状況がよくないってことなんだよ。だから、今のこういう世界に送り出すアルバムとして、“ポジティヴで、楽しいものを”って思った。グッド・シャーロットはダークで、怒りのこもったアルバムを作ってきたし、そういう怒りは今作にもあるけど、とくに打ち出したかったのは気分のよさや楽しさだったんだよね」
ジョエル「この数年の間に、僕は子どもを二人もうけたんだけど。子どもを持つと、自分が世の中に何を送り出すのか、歌詞の面でも、表現したい気持ちの面でも考えるようになるよね。自分の幸福感とか、あとはもちろん責任感とか。そういうことが表われた作風なのかなって気がする。それはベンジーにとっても同じだよ思うよ」
(C)Myriam Santos
――プロデュースを手掛けたドン・ギルモアは、デビュー時からあなたたちを知る人ですね。バンドがやらんとしていることを汲みとってもらえて、やりやすさはありましたか?
ベンジー「もちろん! 僕らがまだメリーランドにいた頃に、実家に遊びにも来てくれたり、ほんっとに僕らのことを最初から知っている人だからね」
――どんどん面白いものを作ろうというノリがスタジオに流れていた感じでしょうか?
ジョエル「じつは、ドンは最初からこのアルバムに関わっていたわけじゃなくて、半分くらいまで別のプロデューサーと作業していたんだよね。ただ、進めていくうちに何か違うなっていう感覚が出てきて。それで一回、ドンに相談をしたんだ。そのときドンは、ヨーロッパでブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインのレコーディングに関わっていて、それがそろそろ終わるっていうタイミングだった。で、何か違うんだよっていうことを――その“何か”をうまく説明するのは難しいけど――電話で話したら、あと一週間くらいでアメリカに戻れるから、そのときにあらためて話をしようと、一緒に仕事をするかどうかは別として、話をしながらどうしたらいいか考えてみようって言ってくれて。それで、実際に話をしたときに、“難しいことを考えずにやりたいようにやってみれば、レコードは自ずとできあがるものだよ”って言ってくれたんだ。そこからだよね、動き出したのは」
――そこで気持ちが吹っ切れたことが、作品の抜けのよさに繋がったのだと思いますが、プレイヤーとしても新たな角度で曲に向かえたところはありますか?
ベンジー「余計なことをごたごた考えずに演奏しろ、ってことだよね。考えてみると、最もソウルフルとされるギター・プレイヤー、たとえばカート・コバーンやジミ・ヘンドリックスは、すごくテクニカルなことをしているわけではないけれど、そこから感じられるものが強いと思うんだ。僕が今回目指したのも、それなのかな。頭で考えず、どんどん演奏するっていう。そういうことで、なぜ音楽をやりたかったのか、バンドをやりたかったのかっていう原点に立ちかえることができたと思うよ」
(C)Myriam Santos
取材・文/吉羽さおり(2010年8月)
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