世界を舞台に活動を続けているヴァイオリニスト、五嶋みどり。昨年12月にリリースされた、前作から4年半ぶりとなる新作は、彼女自身初めてとなる待望のバッハ録音(「バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番」)。そして、カップリングには難曲の「バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第1番」が収録されている。そんな彼女が年末年始に行なわれたコンサート「ASAHIネット presents 五嶋みどり・沢井一恵Special Project 2008 弦×弦 音をつむぐ@浜離宮朝日ホール」のために来日、その公演で繊細で魂のこもった演奏を披露してくれた。そこで、新作の話とともに、近況を聞いた。 ヤンソンス指揮ベルリン・フィルとの顔合わせで
メンデルスゾーンの協奏曲のアルバムを発表してから、4年半が経った。録音に対して慎重に見える彼女だ。
「録音は、私が取り組んでいるさまざまなプロジェクトの一つ。そこにかけられる時間が限られているために、頻繁には行なえないのです。また、私自身の考えや思いだけで実現するものではなく、レコード会社やマネージャー、共演者との連携のなかで、条件が整ったときに制作が可能になるもの。ひと昔前まではアーティストが好きなときに好きな作品を録音できましたが、そういう時代ではなくなったのです。今、演奏活動のスケジュールは2年先まで決まっていますので、録音の予定を入れるとなるとそれよりもさらに前倒ししなければならないんです。今回のアルバムは1999年9月と2005年8月に録音したものなんですよ」
バッハの無伴奏ソナタとバルトークのソナタという組み合わせだ。
「先にバルトークを入れていたのですが、コンテンポラリーなバルトークにバロックの傑作であるバッハを組み合わせるのは面白いのではないかと思いました。バッハの音楽は、他のどんな作曲家の作品とも組み合わせが可能だと思っています」
次回の録音については未定だ。
「ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を近い将来に録音したい。ベルクやブリテンの作品も頭にあります。現代作品も積極的に録音したいと考えています。いつになるかは申し上げられませんけれど」
リサイタルでもオーケストラとの共演でも多彩なプログラムを常に持っている彼女だから、ライヴ録音なら、もっと頻繁に発表できるかもしれない。
「ライヴでも録音セッションでも私のアプローチが変わることはありませんが、ライヴの方が好きです。聴衆の前で演奏することが、本来的に自然なことだから」
忙しい彼女。アメリカでの後進の指導に加え、国連平和大使を務めるなどコミュニティ・エンゲージメント活動にも力を入れている。
「音楽活動で空腹を満たすことはできません。でも音楽を聴くという幸せな時間を得ることで学び働く意欲が生まれ、それが貧困から脱出するきっかけになり、文化を育て国を発展させる可能性が生じると信じています。私自身にとっては体力的にきついときもありますが、すべての活動が演奏活動の糧になっているんです。友人に“もっとプライベートな時間を作らないとストレスがたまってしまう”とよく忠告されますが、音楽を演奏することがとてもプライベートなことだと思っているので、ストレスは感じてないんですよ」
インタビューは1月に箏の沢井一恵と連続ジョイント・コンサートを開いた折にさせていただいた。この5月には再来日してエッシェンバッハ指揮フィラデルフィア管弦楽団とツアーを行なう。
「彼とは互いに演奏を楽しみ合えるような関係。フィラデルフィア管は音の感触が何とも言えずに素晴らしい。楽しみにしています」
取材・文/堀江昭朗
【五嶋みどり来日コンサート】
2008年5月23日(金)24日(土)フィラデルフィア管弦楽団公演@サントリーホール
【曲目】チャイコフスキー作曲「ヴァイオリン協奏曲」
2008年5月25日(日)フィラデルフィア管弦楽団公演@兵庫県立芸術文化センター
【曲目】ブリテン作曲「ヴァイオリン協奏曲」
2008年5月27日(火)フィラデルフィア管弦楽団公演@サントリーホール
【曲目】ブリテン作曲「ヴァイオリン協奏曲」
2008年6月1日(日)〜6月11日(水)ミュージック・シェアリング
【活動内容】小学校、養護学校、施設などでのレクチャー・コンサート等
2008年6月3日(火)ミュージック・シェアリング インターナショナル・コミュニティー・エンゲージメント・プログラム カンボジア2007年報告会コンサート@フェニックスホール(大阪)
2008年6月4日(水)ミュージック・シェアリング インターナショナル・コミュニティー・エンゲージメント・プログラム カンボジア2007年報告会コンサート@浜離宮朝日ホール(東京)
*フィラデルフィア管弦楽団のサントリー公演についてのお問い合わせは、
カジモト・イープラス 電話: 0570-06-9960まで。
兵庫県立芸術文化センターの公演についてのお問い合わせは、
芸術文化センターチケットオフィス 電話:0798-68-0255まで。
**ミュージック・シェアリングの報告会コンサートについてのお問い合わせは、
電話:03-3261-1855まで。