“大人のための夏フェス”としてすっかり定着した<情熱大陸 SPECIAL LIVE SUMER TIME BONANZA'11>が今年も、東京、大阪、札幌の三都市で開催される。
そこで今回は、今年で10回目を数える夏の風物詩となったこのイベントのオーガナイザーをつとめる
葉加瀬太郎さんに、今年の見どころやフェスの楽しみ方、そしてあっと驚く裏舞台エピソードを語ってもらった。
――今年で10周年ですが、心に期すものがあるのではないでしょうか。
葉加瀬太郎(以下、同) 「やはり継続は力なりってことでしょうね。基本的にぼくが“夏祭りをやりたい!”というスタンスから始まって、よくあるリゾート型やジャンル別のフェスではなく、もうちょっとフレンドリーでジャンルに分け隔てなくミュージシャンが集まり、クオリティの高い音楽を提供することを第一に考えてきました。お客さんは家族連れや恋人同士、仲間同士で来る人たちがターゲット。フェスで一番の楽しみは、目当てのアーティスト以外の音楽を聴く機会を得ることができること。そこで音楽の幅が広がれば、人生はより豊かになっていきますからね。それを念頭に旗振り役として、ぼくはこの10年続けてきたわけです」
――一口に10年と言っても、山あり谷ありだったのでは?
「いや、同じことを続けているだけですよ。ただ一番最初に宣言したのは、これがたとえ10年、20年かかっても大阪ならば御堂筋、東京ならば表参道をぶち抜く、リオのカーニバルのような音楽祭にしたいということなんです。まだそれに向かう夢の途中ですから、充実していくばかりですよ」
――昨年は初めて札幌に進出しましたが、手応えがいかがでしたか?
「やり終えて感じたのは、また来年、つまり今年ですけど、またやれるって予感があったし、もっと規模を大きくしていけるんじゃないかと“明日”が見えたことです。それが第一でした」
――実際、今年も開催されますね。
「嬉しいことですよ。あとやってみて分かったんですけど札幌は条件がいいんですよ」
――というと?
「気温とかですね。えーと、あと気温とか(笑)」
――なるほど、涼しいわけですね。
「とにかく東京と大阪は暑くて暑くて。お客さんも大変でしょうけど、ステージには照明とかありますから舞台の上は平気で40℃を超えてくるんです。出演者もバンドのメンバーも平均年齢が高くなりつつあるので、いよいよ倒れる人が出てくるんじゃないかと(笑)。昨年札幌でやった率直な感想は、なんとまあ素晴らしい環境なのかと」
――夏フェスはやはり過酷なんですね。
「このイベントでは、それぞれのアーティストの持ち時間が1組だいたい20〜30分なんですが、ぼくはほとんどの人とコラボレーションするので最初から最後まで出ずっぱりなんですよ。どのアーティストもフルスロットルで仕掛けてくるので、毎年終わった後ぼくは『あしたのジョー』のラストシーンみたいに真っ白になってしまう(笑)。まあ年に数回のことですから、頑張りますよ。少しでも上手に弾けるようになることが、ぼく自身の毎年のテーマです」
――このフェスの魅力は、葉加瀬さんも仰られたようにジャンルの壁を越え、ポップスやクラシックがひとつの舞台で自然と観られるところです。それにはやはりオーガナイザーとしての葉加瀬さんの存在がすごく大きいと思うのですが。
「いや、たいしたことはしていないですよ。ただ、ぼくが好きなミュージシャンたち、つまり音楽に人生を賭けている人たちに集まってもらっているので、同じ志をもった者同士、自然といい熱気が生まれてくるんですよ。だからすごく家族的なところがあって、バックステージの雰囲気もいい。普通、この手のイベントって自分の出番が終わると帰ってしまうものですけど、みんな最後まで残っているんですよ。袖からステージを観ていたり、早くも裏で宴会が始まっていたり。もう大変ですよ(笑)。ぼくも気づけば中堅ミュージシャンなので、若手とベテランをつなぎたいって意識は強くて、ぼくだからこそジャンルを超えた関係を作ることもできるんじゃないかと。結果的にあの場で生まれたプロジェクトなんかも結構ありますからね」
「ええ。年代やジャンルはもとより、プロダクションやレコード会社の枠を超え、高い志を持ったミュージシャン同士が“あれ、やろうよ”なんて語りあっているのは、すごく健全なことだと思うし、そういった素晴らしいピュアなエネルギーがお客さんにも直に伝わっているような気がするんですよね。そういった場にぼくが立ち会えているのはすごく誇りに思うし、これが10年積み重ねてきた結果なのかなって。毎年のようにこの日を楽しみにしているお客さん、そしてミュージシャンたちがいるのは、このフェスにとってこれ以上ない強みなんです」
――じゃあ今年も見どころ満載ですね。
「ラインナップを見てわかるように今年も最高のクオリティ・ミュージックをお届けすることができるので楽しみにしてください。ぼくが出演者たちにいつも言うのは、とにかく今日は、芝生に座って観てくれている家族連れや恋人同士、友だち同士が主役なんだ、と。だからみんな、いい意味で究極のBGMをやってくださいねって。美味しいフードを食べて、ふと耳を澄ませば、ピカイチの音楽が鳴り響いている。こんな贅沢なことってないじゃないですか。日をたっぷり浴びて、音楽を満喫して帰路についた時に、幼少時代の遠足帰りに感じた、あのほっこりとした疲れを体感してくれたらなって」
――家に帰るまでがフェスだよと。
「ええ。あと、これはぼくの持論なんですが、音楽を聴いている瞬間が音楽を体感しているわけではなく、その後が大切なんだよってこと。一人になったとき、頭の中で鳴り響くのが、その人にとって大切な音楽になるんです。ぼくらはミュージシャンとしてそれをみなさんに与えたい。だから誰と一緒に来るかが肝心ですよ。ぜひ、大事な人を連れてこのフェスに来ていただきたいですね」
取材・文/石塚 隆(2011年4月)