尺八と中棹三味線で西洋のクラシック、映画音楽、オリジナル曲などを演奏するユニット、
HIDE-HIDE。全曲クラシックの名曲でまとめた最新作
『音呼知新』は、邦楽器と“五線譜に書かれた音楽”の融合にとどまらない、エモーショナルな音楽性とオリジナリティが印象的だ。昨年3月、ロシアのサンプトペテルブルクで開催された“TEREM CROSSOVER first international music competition”において優勝し、今年4月にはロシア8都市を回る単独ツアーを成功させた注目の存在である。
――新作『音呼知新』は、クラシックの美しいメロディ、キャッチーなメロディを生かしながら、HIDE-HIDEのオリジナリティが前面に出ています。原曲は古典、響きも伝統楽器のものなのに、現代的な音楽となっているところが印象に残りました。HIDE-HIDEの活動を始めたとき、どんな方向性を考えていたのですか?
尾上秀樹(以下、尾上)「僕はもともと、三味線で日本の伝統的な音楽をやりつつ、自分で曲をつくったり、琴やピアノと演奏したりしていました。石垣君とは出会ってすぐに意気投合して、自分でつくった三味線のカラオケ演奏に、“うまいこと尺八を乗っけて”みたいな感じで活動が始まりました。古典を変えようとかいう発想ではなく、古典を織り交ぜようという意思はもちろんありますが、僕たち二人で今までになかったものができないかというところが原点です」
――和楽器によるクラシックの演奏は、聴き慣れたメロディが新鮮に聞こえます。ラフマニノフの交響曲第2番は情感に満ちて、美しいですね。
石垣秀基(以下、石垣)「西洋の楽器と同じような意識でクラシックを演奏しても、意味はないと思っています。僕が思う尺八のいちばん生きるところは、歌心です。単音楽器なので、どうやっていいところを出すかというと、歌心なんですね。クラシックのメロディも、原曲のイメージに沿って吹くというよりは、歌うとしたらどうするだろうということを意識しています」
――尾上さんは、一時期、ビジュアル系のバンドでベースを弾いていたそうですね。HIDE-HIDEの音楽に影響しているところはありますか?
尾上「演奏していてうれしいのは、お客さんやミュージシャン仲間に“三味線にベースのフレーズが出てくるところがあるよね”とか言われることです。意図的にやっているところもあるし、ベースを弾いていたことで自然と醸し出されている部分もあるようですね。
ヴィヴァルディの〈冬〉では、三味線用語で“スリ”というスライド奏法を使っています。ふつうは繊細な感じの響きを伸ばす弾き方ですが、あえて太い糸で、ベースでいうスライド、ギターでいうグリッサンドのように激しく擦ることによって、アグレッシヴな表現にしています」
――
チャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」など4曲は、モスクワでオーケストラと録音していますね。
石垣「オーケストラとコンサートで演奏することや、オーケストラに後から乗せる録音はありましたが、一緒に録音したのは初めてです。ブースがあって、生のオーケストラがいて、指揮者が振ってというところで録音できるということに興奮しました。尺八って気持ちが前に出る楽器だと思うんで、自分の興奮している気持ちも録音に乗ったと思いますし、いい経験ができました。ほかの曲も、その後に日本に帰って来てから録音したので、気持ちが乗ったと思います」
――初のロシア・ツアーは大きな反響があったそうですね。
尾上「アレンジャーの
かみむら周平さんと3人での、まさかの単独ツアーで、ほとんどの会場が、歴史と格式のあるクラシックのホールなんですよ。大盛況でした。会場によっては“クラシックのホールに初めて来たんじゃないか?”というような若い方が過半数で、CDを買ってくれて、サイン会に並んでくれました」
――どういった点がロシアで支持されている理由だと思いますか?
石垣「2ndアルバム(前作)の
『nostalgia』はロシアの作曲家、ミカエル・タリヴェルディエフの作品集です。ロシアでは有名な映画音楽の巨匠で、大人から子どもまで知っているんですね。コンクールでもコンサートでも、クラシックの曲とともにタリヴェルディエフの曲をやったことで、親近感を覚えてもらえたと思います。ロシアのコンクールで優勝しているということで、安心感もあったのではないでしょうか。それに、ロシアの人は日本の文化、音楽、さまざまなものに興味があるんです」
――ロシアでのコンサートはどのような内容だったのですか?
尾上「16曲のプログラムで、8曲が新作『音呼知新』から。3曲くらいが2ndの『nostalgia』からで、オリジナルや〈ソーラン節〉、楽器紹介の時間もとり、2時間くらいやりました。日本でやっているのと同じように手拍子をあおったら、すごいグルーヴでしたね」
――来年もロシア・ツアーが予定されているそうですね。
石垣「今回は、そもそもお客さんが集まるかどうかもわからない状態で行きましたが、温かく迎えてくれました。僕たちの音楽や、大切にしている歌心が、ロシアの人にも通じたんだと思います」
取材・文/浅羽 晃(2011年4月)