2009年のデビュー以来10年にわたって地下アイドルを標榜し、アンバサダー的な立場で著書も残してきた
姫乃たまが、4月30日のワンマン・ライヴ〈パノラマ街道まっしぐら〉をもってついに地下アイドルを卒業する。正直そのことには驚かなかったが、同題の
アルバムでのメジャー・デビューには驚いた。「えっ、卒業するんじゃないの?」というのは当然の疑問だが(笑)、その意外性は彼女らしい気もする。
入江 陽、
君島大空、
長谷川白紙、
宮崎貴士、川辺 素(
ミツメ)、
直枝政広(
カーネーション)、鳥居真道(
トリプルファイヤー)、佐藤あんこといったソングライター陣が書き下ろし曲を提供し、
町あかりと
チャクラのカヴァーも収録。卒業をめぐる随想をとびきりのポップソングに託したアルバムは、過去最高の内容と言っていい。
インタビューにはビクターの担当ディレクター川口法博氏も同席。メジャー・デビューの経緯、苦労の多かったアルバム制作から、卒業公演直前の思いまで語ってくれた。
――どうして地下アイドル卒業のタイミングでメジャー・デビューすることになったんでしょうか。
「2009年4月30日に地下アイドルを始めて今年で10周年なので、去年の夏に“4月30日をもって卒業します”と発表したんですけど、そのときにはメジャー・デビューの話は一切なかったんです。当初は2月にディスクユニオンからリリースして4月で終わりにしようと思ってて、以降は文筆活動にシフトしようかと思ってたんですけど……。発表した後にメジャーが決まって、しかも発売はワンマン・ライヴの1週間前。なのでかなり今後の活動が変わりましたね。リリースしてすぐに“卒業したから、では!”とは言えないので(笑)」
川口 「ある日たまちゃんから電話がかかってきて、“いいかげんにしろよ”“えっ?”“そろそろメジャー・デビューさせるんじゃねえのかよ! わたしから言わせるんじゃねえよ!”って。それで僕としてはわけもわからずデビューさせることになりました、というのが公式ストーリーです」
――全曲町あかりさん書き下ろしのアルバム『
もしもし、今日はどうだった』(2017年)も出しているし、
近田春夫さんの『
超冗談だから』(2018年)にも参加していたから、川口さんのディレクションでデビューすることには納得がいきますね。
「以前から『ビクターの“こぶし”』という公式のLINE LIVEにも出させていただいてますし、父親(
ASYLUMのベーシスト、有賀正幸氏)もかつてビクターからデビューしてるので……ってこれ、言えば言うほど縁故採用っぽくて(笑)。縁故採用じゃないのよ(笑)」
――お父さんはなんと?
「10年間ほとんど何も言われたことなかったんですけど、初めて“フフッ”みたいな。すぐ背中を向けてましたけど」
――ちょっとうれしそうではあったんですね。
「うちの父親は自分が同じことをしてたからだいたいわたしの活動がわかるんで、いつもそんなに喜ばないんです(笑)。母方の田舎の実家では、NHKに出たときと本を出したときだけ“仕事してるんだね!”って連絡が……毎日してるよ!(笑)」
――親戚に顔向けもできると。
「制作はたいっへんでしたけどね」
――どのへんが大変でしたか?
「川口さんが大変でしたね……すいません」
川口 「ディスクユニオンの金野 篤さんの采配で途中まで作った状態で頓挫したプロジェクトを引き継いだので、むしろゼロから作るよりも大変でしたね。本人の歌唱とかにはまったく関係のない事務作業的な部分でしたけど」
「わたし、もともとやりたいことがなくて。金野さんとずっと仲よくやってこれたのは、金野さんにやりたいことがあって、わたしにはなかったからだと思うんです。だから引き継ぐにもわたしから川口さんに言えることがあんまりなくて。だからトラブルは佃煮にするくらいありましたけど、もう食べたんで(笑)。とにかく完成してよかったです、ほんとに」
――
noteの日記を拝見すると、ギリギリまですったもんだ続きだったことがわかります。
「それでもこの日程でリリースできることになったのは本当にまわりのみなさんのおかげです。わたしのCDを出すためにこんなに迷惑をかけていいんだろうか、っていう葛藤はずっとありました」
――そこに関しては一貫して謙虚ですよね。
「あー、音楽と文章で違いますね。文章ってわたしにとってはすごく個人的なもので、過去から未来まで脈々と続く文字の体系のなかに入って、自分しかいない空間で書いているようなものなんです。だから一見世界に語りかけているようで実際はすごく孤独なんですけど、音楽は人とコミュニケーションをとるために作っているので、対人トラブルがあったりすると、本当にやる意味がなくなっちゃうんですよね。まわりの人とどうつながれるか、世間にどうアプローチできるかってことを考えてやってることなので」
――文章は書けと言われなくても書くもので、歌はあくまで他者ありきだと。
「そうですね。譲れないのは文章のほうです。音楽はコミュニケーションなので、わたしは絶対にこの歌が歌いたい! とか言ってるとコミュニケーションにならないんですよ(笑)。だから自分で曲が作れないんだと思うんですけど」
――“やりたいことがない”と言いましたけど、楽曲提供者の選び方とかにはご自身の意向も反映されているのでは?
「やりたいことはないけど、やりたくないことはあるんです。直枝政広さんから佐藤あんこさんまで、こんな作家陣でアルバムを作れるなんて、すごく幸せなことだと思ってます。その中であんこさんはこれまで商業流通されたことのないシンガー・ソングライターでもあって、それくらい幅があるのはいいなと」
――僕も検索してみましたけど佐藤あんこさんだけわからなくて、
ツイッターのプロフィールにも“自称SSW”って書いてありました。
「スタジオのエンジニアさんが唯一、言及してきたのがあんこさんだったんですよね。“佐藤あんこさんって何者?”みたいな。たぶんバンドとかやられてなくて、ずっと宅録でひとりで音楽を作ってきた方なので、基本的にはポップスなんですけど、どこか変なんですよね」
――変といえばわりとどの曲も変なような……。
「あ、たしかに……」
――町あかりさんの「長所はスーパーネガティブ!」は明るいけど、それ以外はポップななかにも陰翳がありますね。
「これと〈まだ〉がカヴァーで、オリジナルの曲は基本的に……どうしても暗くなるのはユニオン時代から引きずっている気がします(笑)。わりとアップテンポの曲が多いけど、やっぱりちょっと病気っぽいと思うんです」
――(笑)。
「陽気な明るさじゃなくて、若干躁病入ってる感じ。10年地下アイドルやってきましたから……深海魚を釣り上げると水圧が変わって目が飛び出したりするじゃないですか。それと同じで人にも棲息するべき場所があると思うので、“水圧、大丈夫かな”って、いまはかなりドキドキしてます。でもインディー魂を守り抜くとか、メジャーだから弾けなきゃとか、どちらも変なのであまり構えないようにしようとは思ってます。人として成長していけば、どこへ行っても大丈夫かなと。あとは会社に迷惑をかけないように、人の悪口はなるべく言わないでおこう、とか(笑)」
――たまさんが自分で作詞した曲が大部分を占めていますが、どれも地下アイドル卒業という大きなテーマのまわりで展開されているシーンという印象があります。
「“卒業”と“先に行く”ということが2大テーマですね。『まっしぐら』と言いつつ、もともと憂鬱さみたいなものをテーマに制作しようとは思っていたので、町さんの〈長所はスーパーネガティブ!〉はちょうどよかったんですよね。『内回りの二人』(2018年)っていう映画の主題歌として町さんが作った曲で、劇中で“後ろ向きアイドル”の女の子が歌ってるんです。たまたま見てすごく気に入って、町さんと飲んだときに“あれ歌いたいよ”って言ったら“いいよー”って。あの人明るいから、ネガティヴな人の感情が全然わかんなくて“ネガティヴ 性格 考え方”とかで検索して書いたそうです(笑)」
――飲み友達ですもんね。
「わたしがグチャグチャ考えながら書いた歌詞よりも、町さんとか入江 陽さんとか佐藤あんこさんとかが提供してくれた歌詞のほうが、わたしのパブリック・イメージに近いと思います。わたしのなかでパブリック・イメージと自己像がずれているんですね、きっと。だから〈猫の世界はミラーボール〉とかがいちばんファンの方からしたら姫乃たまっぽいけど、歌詞を書いてるのは入江 陽っていう。“ろっ ろっ ろろろろ”ってありますけど、わたし酔っぱらうと“ろ”ってツイートするんですよ。一回、酔っ払った翌朝に“やばい、変なことツイートしてないかな”と思って見たら“ろ”とだけ書いてあって、100以上いいねがついてて(笑)。それから酔っ払ったら“ろ”って書くことにするね、って一回ツイートして、以来ずっと“ろ”って書いてるんです」
――“卒業”“先に行く”ってテーマでいうと「あべこべでさかさま」は典型的ですね。
「地下アイドルをやめるって言ったことによって、ファンの人にかかっていた魔法を解いちゃうみたいな意識がすごくあったんです。アイドルっていろんな暗黙のルールがあるじゃないですか。愛想がいいとか、彼氏を作らないとか。それが一気になくなるわけだから、悪いなと思うんですけど、それを文章にすると角が立つので(笑)、歌詞にするとちょうどいいんです。
ポール・マッカートニーが好きな宮崎貴士さんに〈ハロー・グッドバイ〉の感じで作ってほしいなって言って作ってもらったので、歌詞もちょっと〈ハロー・グッドバイ〉っぽく、すれ違ってるけど結局同じ場所に向かってるっていう感じにしてます」
――アルバムの終盤は、9曲めの「卒業式では泣かなかった」に向けて「大人になっても恋をする」「パノラマ街道まっしぐら」と怒濤の展開ですね。
「〈卒業式では泣かなかった〉は地下アイドルから卒業して大人になりますよって意味合いですけど、曲調は80年代の王道のアイドルソングみたいなのを意識してますね。アイドルのうちに卒業ソングをやりたかったんですよ(笑)。〈あべこべでさかさま〉や〈パノラマ街道まっしぐら〉は一方的に“起きてくれ!”ってわたしが先に進んで引っ張っていく感じですけど、この曲だけは違って、ファンの人もわたしも同じ目線で卒業していくっていうイメージ。地下アイドルって、ずっと夢を見て楽しいっていう意味合いで“学園祭前夜”に喩えられることが多いから、この後に“私達まだ未完成”って歌う〈まだ〉がくるのがすごくいいんですよね。〈まだ〉のカヴァーは川口さんからわたしへのプレゼントなんですけど、歌詞的に佐藤あんこさんの〈有機体(フルキャスト)〉とつながっていて。あんこさんも前から〈まだ〉が好きで、ライヴでカヴァーしてたんですって。もともとスカートにいた清水瑶志郎さんが、大学で同じサークルにいたあんこさんに“〈まだ〉めっちゃいいよ!”って教えて、カヴァーして、スカートの澤部 渡さんも気に入ってカヴァーして。で、わたしも。現代の口伝ですね」
川口 「もともと何かカヴァーを入れようって話をしていたんですよ。ぶっちゃけたまちゃんのことを深く知ってるわけじゃないんですけど、“何もかもがいつもきせきのように うまくめぐることはないのね ただみんなが笑ったり 悲しんだり 何度も 何度も くりかえす”とか“私達まだ未完成”っていう歌詞が、彼女の10年間の紆余曲折に寄り添ってるような気がしたんですよ」
「〈有機体(フルキャスト)〉は提供してくれる前からあった曲で、友達の婚姻届の保証人欄に判を押すっていう会で何年かぶりに会って、その翌日に曲ができたそうなんですよ。オファーしたときに“実は姫乃さんに会った次の日に急に思い浮かんでできた曲があって”って言われて。しかも、当時は収録曲のタイトルを11文字で全部揃えようとしていたのでその話をしたら、〈有機体(フルキャスト)〉もカッコを含めてちょうど11文字で。そのエピソードにすべてが集約されてる気がします。〈まだ〉の“私達”と〈有機体(フルキャスト)〉の“僕ら”が通じるのは、人と人は有機体レベルでつながってるっていう……だんだん話がスピってきましたけど(笑)、わたしたちが動いたり生きてるだけでひとにすごく影響を与えるっていうことなんです。レンタルなんもしない人さんって知ってます?」
――ごめんなさい、知らないです。
「ツイッターで何もしない人を無料でレンタルできるっていう、個人が趣味で始めた
アカウントなんですけど、フォロワーが10万以上いるんです。最初は場所取りとか、自分の代わりに店に並んでもらうとかの話が多かったんですけど、だんだんと“ただ話を聞いてほしい”とか“離婚したので、けじめをつけるために妻と行った思い出の店に一緒に行ってほしい”といった依頼が増えて、彼がそこにいるだけで何かが起きて変化が生まれていくんです」
――彼がみんなの触媒とか入れ物になっちゃうんですね。面白い。
「そうなんですよ。でも彼が特別な人ってわけじゃなくて、いやそういう活動ができる時点で特別なんですけど、そういう素質は誰もが持ってるんですよね。こないだレンタルさんが書籍を出されたとき(『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』晶文社)、帯文を頼まれて“生きてるだけで世界に響いてる”って書いたんですけど、まさにわたしたちが生きてるだけで世界は動いてるんですよ。何かを動かしてるというよりは、ひとりひとりが動くことによってまわりの人になにがしかの影響を与えちゃうので、その与え合いみたいなものの集積として。ひとつの有機体としてわたしたちはつながってるから、いつまでも進化していくし未完成なんだ、っていう世界観が、〈まだ〉と〈有機体(フルキャスト)〉は一緒なんです。わたしたちはずっとここにはいられないし、進んでいかないといけない、だったら自分のことを未完成だと思って、先に進む意志があったほうが……っていうのは、アルバム全体のコンセプトでもあるので」
――人類全体を“わたしたち”というひとつの有機体として見た話ですね。
「そうですそうです。“私は常に最新 常に最新が私”で、“あなたも常に最新 常に最新があなた”っていうのは、響き合ってるからなんですよ。あんこさんがすごいのは、これを家でひとりで考えてることですね(笑)」
――震災の後に
斉藤和義さんの「ずっとウソだった」が出たとき、
菊地成孔さんが「歩いて帰ろう」を歌ったほうが“現状に対する、痛烈な批評として、「ずっとウソだった」より、遥かに強い力を発揮したのに”と書いていたんです。“直喩と暗喩では暗喩の方が、意識と無意識では無意識の方がよく効く”と。
「ほんとにその通りだと思います」
――その話を強引に当てはめると、他の人がそれぞれ勝手に作った曲だからこそ、並べたときに狙いを超える効果が生まれるということですね。
「“やりたいことがないんです”って言って……まぁ実際、めっちゃやりたいことがあるわけではないんですけど、何かに固執しないことで、空いた部分にいいものが入ってくるんですよね。いいものっていうか、いまの自分に必要で、相手にとってもわたしが必要、っていう人がふと現れる。だからあんまり固執しないほうが絶対にいいんですよ」
――ある意味で、たまさん自身がなんもしない人みたいな。
「レンタルできないなんもしない人です。それ、ただのなんもできない人じゃん!」
――ディスるつもりではなかったんですけど(笑)、レンタルなんもしない人さんには共感に近い気持ちを抱いているのかなと。姫乃たまという触媒として使ってもらおう、と。
「ほんとにそれです。わたし何もできないんですけど、祭り上げられやすいタイプなんで。かつ強烈なエネルギーに対して抵抗感がないんですよね。まわりに90年代サブカルの人とかがわーっと集まってきても全然大丈夫だし。“やりたい人vsやりたい人”で本来一緒にやるべき人同士がぶつかっちゃうことって多いじゃないですか。その間にわたしが入ると、別に何をしてるわけでもないんだけど、パワーが全体的に中和されたりするっていう(笑)。もともと雑誌の編集者になりたかったので、雑誌そのものに自分がなるというか“どうぞ”っていう感じではあります」
――そういう意味ではアイドルは天職なのかも。みんなの妄想の入れ物という意味でね。
「まさにそうですね」
――そこからあえて卒業するというのは……。
「アイドルってどうしても幼児性を孕むんですよね。“ナントカでーす!”“ナントカでーす!”“ナントカでーす!”“3人合わせて、せーの、ナントカ隊!”みたいな自己紹介ってあるじゃないですか。あれってすごく楽しいんですよ(笑)。赤ちゃん返りできるから。誰かを応援するという使命感のもと、みんなと一緒に大きな声を出してヲタ芸で体を動かすことには爽快感があるし、幼児退行の喜びもあるんです。もっと言うと、アイドルのライヴって一回始まるとお客さん同士が言語でコミュニケーションがとれなくなるんですよ。バンドと違って、転換なしでずっとショーが展開され続けるから。そうすると“ヤッター!”みたいなごく短い言葉とか、動きで互いの感情を読み合うとか、もはやヒトを超えた動物的なコミュニケーションにならざるを得ない。いつまで経っても大人になれないっていう、喜びと枷の両方があるんですよね。わたしはこれまで、ファンの人たちを幼児退行させて喜んでもらうことに自分も喜びを感じていたんですけど、人はそういう野性的な喜びを味わってばかりいると大人にはなれないなと。わたしたちは否応なく大人になっていくわけだし、そうするとみんなそれぞれ世界に対して自分が何をしていくかってことを考えていかないといけない。〈有機体(フルキャスト)〉とか〈まだ〉で歌っているように、ちゃんと世界に響いていくために、もう卒業しようね、っていう」
――noteの日記に書いてありましたね。“サブカルチャー保守にはなりたくない”って。
「ほんとにイヤです。わたしもオタク趣味の人たちも“大人はわかってくれない!”という肩身の狭い思いや感傷的な気持ちを癒してくれるからオタクカルチャーを好きになるんだけど、いつまでもそれに固執して“ここは僕たちの居場所だから”って言い張ると保守化しちゃうんですよね。それはかつて自分たちがやられて嫌だったことを誰かにやり返すことになってしまうと思うんです」
――SNSで顕著ですが、オタクの“もの言う女性”への嫌悪に違和感があるんですよ。リアルでは男性は女性に対して強者なのに、いつまで弱者を気取っているのかと。
「あー、彼らほど女の子を崇拝してる人っていないと思います。でも同時に、恋愛経験の乏しさから、コンテンツとしてしか見れないっていう面もあるんですよね。女の子を“尊い”“こんなにすばらしい子いない”って思ってるんだけど、一方で生身の人間だと思ってない側面もある。だから“なんでこんなに女の子を愛でてる僕たちがこんな思いをしなくちゃいけないんだ!”ってなっちゃうのは理屈としてわかります」
――オタクに限らないけど、そこから脱却しないとね。
「そこから抜け出せないようにしていたのは、わたしですからね……」
――(笑)地下アイドルは罪深いんですね。
「このカルマを背負ったまま死んだらろくな輪廻転生ができないですよ……。今世の罪は今世で贖って、来世の自分には自由に生きてほしいですね(笑)」
――たまさんの地下アイドルとしての10年間をすごく大ざっぱに捉えると、まわりの人から期待される自分を演じてサービスをすることから、行きつ戻りつしながら少しずつ脱却していく日々だったんですかね。
「そうですね。脱却するにあたって自分がどうしていくかっていうことを考えないといけないので、それを見つめ直す過程で音源を作る作業は必須でした。明確に意志をもってコンセプトまで決めてアルバムを作ったのは初めてで、全曲、大好きなんです。このメンバーでアルバムを作ったらいいものになるに決まってるので、今後はわたし自身もうちょっと踏み込んで、ゼロの段階から“こういう方向性で行こう”っていうイメージを持って、作家さんたちともうちょっとキャッチボールしながらできたらな、とは思いますね。今まではそんなこと考えたこともなかったんですけど」
――4月30日の卒業ワンマン・ライヴも迫ってきましたね。
「駆け込み大歓迎です! この記事を読んでご興味を持たれた方はぜひ見にきてください。演奏者も豪華ですし、実はシークレット・ゲストもいるんです。
劇団ゴキブリコンビナートが舞台装飾と舞踏をやってくれるというメジャーとアンダーグラウンドの間の子的な一夜です(笑)。ひと言で説明できないものがずっと好きなので、自分の公演もいろんな文脈があって、パッとどう説明したらいいのかわからないんですけど、とにかくいい夜になると思います。なんかほんの少しですけど、世界が変わる気がしてるんですよね。元号も変わるので、みんなの気持ちが前向きになることにも後押しされてるし、わたしの公演もみんなを後押しするという、響き合いができたらいいなと思っています」
取材・文 / 高岡洋詞(2019年3月)
姫乃たま活動10周年記念公演
パノラマ街道まっしぐらhimenotama.com/10th.html2019年4月30日(火)東京 渋谷区文化総合センター さくらホール
出演: 姫乃たま(vo)
演奏: 澤部 渡(g) / 清水瑶志郎(b) / 佐藤優介(key) / 佐久間裕太(ds) / シマダボーイ(perc)17:00 〜 20:30
前売 4,000円 / 当日 4,500円(指定席 / A席 / 税込)※お問い合わせ: チッタワークス 044-276-8841(平日12:00〜19:00)