――今回のアルバムは、どの曲がシングル・カットされてもよかったくらいの渾身の曲が揃ってますが、捉えかたといえば、シングル「今、風の中へ」のリリースから約1年くらいの集大成のような感じですね。
平原 「そうですね。今年はいろいろなことが起こった年ですね。とくに夏が一番忙しかったです。〈星つむぎの歌〉のCDが宇宙に行ったり、キリバス共和国にもその曲を歌いにテレビの取材で行ったり……。実際にスペースシャトルの打ち上げも観にいったりもしました。あと、〈さよなら 私の夏〉ではモータウンにもチャレンジしてみて、そのカップリングで財津和夫さんの曲(「空に涙を返したら」)も歌ったり。いろいろなチャレンジがあった曲が集まったアルバムですね。思い入れのある曲ばかりです」
――アルバム全体的に聴きどころがたくさんありますよね。曲の背景にもいろいろな出来事があったり。そんななかでも一番印象深かったのは、スペースシャトル打ち上げのときに、宇宙飛行士の土井隆雄さんに応援歌として贈った「星つむぎの歌」ですか? それともドラマに初出演したときに作った「ノクターン」と「カンパニュラの恋」ですか?
平原 「〈星つむぎの歌〉は歌うことによって、いろんなことがありましたからね。(打ち上げの地)フロリダにも行ったし、(土井さんの出身地の)山梨にも行ったし。でも、〈ノクターン〉と〈カンパニュラの恋〉は、ドラマの出演が想定外でしたけど、それが作るきっかけとなった曲ですしね。ドラマの中でとても重要な役割を果たす曲でもあるので制作時間もかなりかけました。アルバムの曲のなかで一番時間をかけたのは〈カンパニュラの恋〉だと思います。あと印象深かったのは〈To be free〉です。初めてスケートリンクの上で歌ったんですよ。新横浜のスケートリングだったかな。しかもこの曲に合わせて、選手が振り付けをして踊ってくれて。フィギュア・スケートがすごい好きで、小さい頃にスケート選手になりたかったくらいなので嬉しかったです」
――「今、風の中へ」の制作をしていた頃は、“アルバムはこうしよう”という構想はあったんですか?
平原 「そのときはシングルの制作に専念してたので考えてなかったですね。でも、いろいろ作っていくうちに、“アップ・テンポの曲もほしいな”とか、アルバムを意識するようになりました。しかも、いろんな方面から私が思ってもいなかった新しいチャレンジの機会がやってきて。〈ノクターン〉はドラマ『風のガーデン』の主題歌で、〈カンパニュラの恋〉は同じドラマの関連曲で、「今、風の中で」も映画『マリと子犬の物語』の主題歌で、「孤独の向こう」もドラマ『トップ・セールス』の主題歌……。あと、〈朱音
あかね〉は
谷村新司さんに作っていただいたんですけど、今まで歌ったことのないメロディだし。そういうことも含めて、アルバムのために“作らなきゃ”と思わなくても出来てきた曲が揃った感じですね」
――「朱音
あかね」はNHKの番組『にっぽん巡礼』のテーマ曲で、いままでの平原さんの曲にはなかったメロディですよね。
平原 「そうですね。“和”のテイストなんだけど“中国”のテイストもあるような、なにか大陸のように大きな空間を感じさせる壮大なメロディですよね。ドラマ『風のガーデン』の役名も茜(あかね)だったんですけど、谷村さんはそれを知らないで思いついたと言ってましたね。すごい偶然で驚きました」
――「雨のささやき」も日本テレビ系番組『女たちの中国』のテーマ曲でしたが、この曲は作詞はご自身で、作曲は
宮川彬良さん。悲しい歌詞とメロディですが、深い情感のある曲ですね。
平原 「この曲は、15年前くらいに宮川さんが『雨月物語』という舞台のために作っていた曲です。私もいいメロディだなって思いました。歌詞は、まずは“雨”について考えてたんですけど、戦争が起きて血が流れても、雨は悲しみも流してくれて、浄化もしてくれるようなものに思えたんです。そこからいろいろ考えていきました」
――時間が経っても雨が振るとそのときの過ちを思い出す――。ゆったりと流れるメロディが時間の流れのようにも感じます。そして、アルバムのタイトルにもなっていて、1曲目を飾るのは「Path of Independence」ですが、この曲はどんなきっかけで生まれたものですか?
平原 「〈Path of Independence〉は、もともとファミリー・コンサート“平原さんちのコンサート”のときに、姉のaikaが作ってくれたのを歌ったのがきっかけです。そのときは英語詞だったんですけど、それを日本語で歌ってレコーディングしてみたいなと思っていたんです。今回のアルバムの中で一番最後にレコーディングした曲ですね。タイトルに“自立”という言葉があるので、“自立したい”と思っている今の私には合っていると思って」
――すでに“自立”されているように見えますが……。
平原 「学校を卒業したことも自立したというか。でも、これからもしなくてはいけないってこともあって。どんな悲しいことがあってもそれを乗り越えていかなければならないという、そういう“心の自立”。いまは甘えられる家族がいて、幸せな気持ちがあるからこそ、恩返しができるように自立しないといけないなと。歌でいうところの自分の個性を見つけることも“自立”かもしれないですけど、まだそれを決めるのは早いと思うので。いろいろチャレンジしてみて、しっかりと音楽で自分の使命を果たしていくっていう、そんなふうに“自立”を考えてます」
――“寂しさ 悔しさ 哀しさ いとしさ それは自分で選ぶもの”と歌われる、川江美奈子さんが作詞作曲した「孤独の向こう」の主人公の“強さ”とも通じるところもあります。「Path of Independence」でも主人公の心の強さを感じます。
平原 「どんなことがあっても、心がぶれない自分になりたいなといつも思っていて。それができてさらに、自分らしく生きることを楽しむというのかな。自分の心がぶれなくなったら、何もこわくないって言えるんだと思うし。歌っていてそう思いました。ちょうど私も不安があったり、先が見えないようなときもあったりして、そういうときにこの曲を歌うっていうのも自然な流れなのかもしれないですね。私よりももっと辛い思いをされている人もたくさんいると思うから、そういう人たちにも聴いてほしいと思ってます」
――最後に、アルバムのリリース後の12月17日にはデビューから5周年ですけど、振り返るとどんなことが印象に残ってますか?
平原 「昔は学校があったので、風邪とかひいても治す時間がなかったり大変でしたね。でも、いまは音楽だけに専念できる生活をしてるので、少し空いてる時間があってもいろいろ音楽のことを考えてしまうところもあって。いままでは、常に細かいところにこだわりすぎていたかもしれませんね。だけど、音楽って心とか体で感じるもので、まずは“楽しむこと”が音楽なんだなっていまはあらためて思ってます。だから、もっと肩の力を抜いて作ったり、レコーディングしたり……、それが歌い続けていくコツなのかなと。ここは外せないというところはこれからもこだわっていきますけどね」
取材・文/清水 隆
撮影/高木あつ子(2008年10月)
撮影協力/ロザンジュイア 広尾迎賓館
(
http://www.losangeia.com/)
※本誌『CDJournal』12月号にて巻頭インタビューも掲載中。
【平原綾香 Concert Tour 2009〜Path of Independence〜】
2/7(土)秦野市文化会館
2/10(火)那須町文化センター
2/11(水)裾野市民文化センター
2/15(日)宮崎市民文化ホール
2/16(月)崇城大学市民ホール(熊本市民会館)
2/20(金)高知県民文化ホール
2/22(日)愛媛県民文化会館
2/27(金)大阪NHKホール
2/28(土)大阪NHKホール
3/13(金)岡山市民会館
3/15(日)広島ALSOKホール
3/21(土)郡山市民文化センター
3/22(日)仙台電力ホール
3/26(木)まつもと市民芸術館
3/28(土)新潟県民会館
4/2(木)奈良県文化会館
4/4(土)神戸国際会館
4/5日)福岡市民会館
4/10(金)グリーンホール相模大野
4/18(土)帯広市民文化ホール
4/19(日)札幌市民ホール
4/24(金)四日市市文化会館
4/25(土)愛知芸術劇場
4/29(水・祝)東京NHKホール
※詳しくはオフィシャル・サイト(
http://www.ayaka-hirahara.com/)まで。
ライヴ・ハウス・ツアー
“camp A-ya! Angel Premium Live”
【東京公演 LIVE Report/@赤坂ブリッツ】
平原綾香初のライヴ・ハウス・ツアー“camp A-ya! Angel Premium Live”。このツアーが全国4ヵ所で行なわれました。ここでは11月18日に赤坂ブリッツで行なわれた東京公演の模様をレポートします。本公演は、いつもとは違う演出で行なわれたプレミア・ライヴでした。
別ページに、平原綾香がツアーで訪れた地を紹介する「ご当地日記」と、名古屋、仙台、東京、大阪でのライヴ直前とライヴ直後の秘蔵映像も掲載しています。そちらもお楽しみに!
シックに抑制されたブルース・ロック風のイントロから一転、バンドは切なくも華やかなラテンのリズムを描き出す。そしてステージに登場した平原綾香は開口一番「立ってください!」とオーディエンスを楽しげに誘い、「Re:PEPPER」を力強く歌いはじめる。さらに3曲目の「空に涙を返したら」からは、モータウン調の軽快なビートを取り入れたナンバーを続けざまに披露。彼女にとって初のライヴ・ハウス・ツアー“camp A-ya! Angel Premium Live”のオープニングは、アップ・チューンを中心に構成されていた。「ふだんのライヴは、最初はしっとり、真ん中で盛り上がって、最後もしっとりと終わっていくパターンなんですけど、今回はがんばって、前半からアップ・テンポの曲をやってみました」というMCからも、新しいトライに臨む彼女の強い意志が伝わってくる。
その後も、さまざまな音楽的意匠を凝らしたステージが展開されていく。「2008年版“いい日旅立ち”とも言える仕上がりになっています」と言う楽曲「朱音
あかね」(作詞・作曲/谷村新司)ではノスタルジックな空気をたたえた声を響かせ、「この曲で歌われているのは、私にとっての理想の女性像なんです」と言う「ひまわり」(さだまさしの楽曲のカヴァー)では繊細なファルセットを効果的に使いながら、美しくもダイナミックなヴォーカルを聴かせる(楽曲の後半では、アルト・サックスのソロも決めた!)。また、ドラマ『風のガーデン』のなかでも歌っていたララ・ファビアンの「BAMBINA」は、アコーディオンとアコースティック・ギターによるオーガニックなアレンジで。きわめて高度なテクニックと豊かな情感をバランスよく備えたヴォーカリゼーションはもちろん、Dr.Kyon(鍵盤)、佐野康夫(ds)など、超一流のミュージシャンが揃ったバック・バンドによる滋味に満ちた演奏も本当に素晴らしい。
圧巻は観客と一緒になって歌った「星つむぎの歌」からはじまる後半。“願いは必ず届く”と鼓舞する「はじまりの風」、歌に対する真摯な姿勢が感じられる「今・ここ・私」、迷うことなく、自分の道を歩いていこうとする意志が広がっていく「孤独の向こう」、そして、夢に向かってどこまでも自由に羽ばたいていく「To be Free」。あふれんばかりのエモーションを宿したヴォーカルにより、それぞれの楽曲が持つ物語とメッセージが真っ直ぐに伝わってくる――それは彼女自らが「2008年の集大成」と位置づけたこのツアーを象徴するシーンだったのではないか。
アンコールは、Dr.Kyonの豪快なオルガンを活かしたロック・テイストのアレンジが印象的だった「Jupiter」、真っ赤なライティングとピアノ1本のシンプルなサウンドのなか、凄みにも似た美しさを持った旋律を歌い上げた「ノクターン」。デビューから5年目を迎え、アーティストとして成熟の時期にさしかかろうとしている彼女の奥深い才能がたっぷりと感じられる、とても意義のあるライヴだったと思う。
取材・文/森 朋之
撮影/増田 慶(2008年11月18日)