『コーリング・ユー』(92年)のヒットで一躍有名になったジャズ・シンガー、
ホリー・コール。つい先日の出来事のようにも思えるが、実は20年も前の話だ。最初にインタビューした92年のホリーは初々しさが印象的だった。今回で3回目。成熟した大人の女性へと見事に変身していた。そうした彼女のキャリアを凝縮したベスト盤
『私の時間〜ベスト・オブ・ホリー・コール〜』がツアーの来日記念盤として発売された。その中には新録音となる
森山直太朗「さくら(独唱)」のカヴァーがボーナス・トラックとして加えられている。
――森山直太朗のヒット曲「さくら(独唱)」を歌うことになった経緯を教えてください。
「日本との付き合いも20年近くになるので、日本のファンのためになにか日本の曲を歌いたいと思いました。それで日本のEMIに話をして、何曲か日本の曲を送ってもらい、これを歌うことに決めたんです。歌詞もメロディも気に入ったから。そして、サクラに対する日本人独特の心情もだんだん理解できるようになりました。今回のツアーではかならず歌っています」
――ツアーといえば、あなたへの過去のインタビューで「レコード・セールスのためにライヴやツアーをする人もいるけど、私はツアーに出たいからレコードを作っている」とおっしゃってましたね。
「そうなの。日本のツアーは特に好きだから、今回も存分に楽しんでいます。新作も録り終えたところだし、日本の曲を取り上げたこともあって、今回のツアーはとても感慨深いものになりました。日本のファンは静かだけど、とても熱心に聴いてくれる。日本食も大好き。納豆以外はなんでも食べます。家で寿司を握ることだってあるんですよ」
――今回のツアーを観ると、表情も明るいし、体調はすこぶるいいようですね。歌手生命を危ぶまれたところから奇跡的な復活を遂げた(デビュー前、交通事故でアゴの骨を骨折している)あなたですが、何か健康に気をつけたりしていますか。
「健康に関しては、できるだけ泳ぐようにしています。泳ぎたいから、プールのあるホテルをリクエストしているほど(笑)。泳げばよく眠れますしね。今はとても体調がいいですよ」
――さて、今回のベスト盤は日本編集ですが、自分で選曲しても同じような内容になりますか。
「違った内容になるでしょうね。なにしろ本人もびっくりの意外な選曲もあるから(笑)。たとえば〈ダウンタウン〉(
『ガール・トーク』収録)とか、〈アリソン〉(
『イエスタデイ&トゥデイ』収録)が入っているのは驚き。あらためて聴いて新鮮な気がしていますね」
――さきほど「新作を録り終えた」とおっしゃいましたが、どんな内容に?
「タイトルは『Steal The Night』。夜を意識して選曲したわけではないけど、結果的に夜のムードが漂う作品になっていると思います。ふだん曲を作るのは夜が多いし、仕事も夜が多い。最初、夜に惹かれたのは子供の頃。夜中に咳き込むことがよくあって、そんな時、母親がアスピリンを飲ませてくれたり、父親が私を肩車して一晩中歩き回ってくれたりしたんです。そんなこともあって、小さい頃から“夜の魔法”に魅了されてきました。曲はオリジナルとカヴァーが交じっていて、たとえば
エルヴィス・プレスリーの〈Viva Las Vegas(ラスヴェガス万才)〉や、シャンソンの〈イフ・ユー・ゴー・アウェイ(行かないで)〉なんかも歌っています。編成はピアノ、ベース、ドラムス、それにホーン・セクション。何曲かにストリングスを入れるかもしれないけど、まだわかりませんね。ベーシックな録音は終わっていますが、完成はこれから。発売は夏あたりでしょうか」
――現在アルバム制作以外で取り組んでることなどありますか。
「デビュー前、
エリック・ドルフィーに共感してアルト・サックスを吹いたこともありますが、近年はドラムをやっています。好きなドラマーは
カレン・カーペンター、それに
マックス・ローチ。
スティーヴィー・ワンダーは私にとってオールタイム・フェイヴァリット・ミュージシャン。彼はドラムも巧い。たとえば突然、無人島に流されたとする。そこにはなにもないわけだから、サックスやギターを弾くのは無理。でも、歌うことと叩くことはできますからね」
取材・文/市川正二