――『100万ドルのキッス』リリースおめでとうございます。この音源の制作には2年ほどかかったということですが、どんな経緯で進んできたんでしょうか。
ヒーコ 「基本、アドリブだねえ……アドリブかなあ(笑)。トランペットのみさきちゃん(石渡 岬)が参加してからのアントンさん(ANTONIO THREE)のライヴでびっくりしてしもうて。一緒にスプリットを出したいと思ったのが最初。でも、周りの“売れる見込みがない”という意見に従って(笑)、あと二つ、僕の好きなバンドに参加してもらいました」
RK2 「かといって、俺ら(WAG PLATY)とDERIDEが増えたところで売れるかはわからないけど(笑)」
ヒーコ 「アントンさんは、ちゃんとジャンルとしてガレージ・パンクってバックボーンがあるんだけど、いろんなものの影響を受けて辿り着いた音を出してる。ルーツが丸見えのバンドではないところが、とても面白い。そういうバンドを集めてやってみようというのが、この『100万ドルのキッス』です」
4WAY SPLIT/100万ドルのキッス
――DERIDEは、音源を聴いて反省しました。これまでちゃんと彼らの音を聴いていなかったんだなと。
RK2 「今回、DERIDEは、H.M.V.や俺らがやってることを“どう解釈してくれますか?”っていう問いかけに、きっちり答えてくれています。彼らは核は不変なのに、さまざまなものを吸収して、25年以上同じメンバーで、ずっと活動をしていることが、すごい。バンドの理想形のひとつだなと思ってます。解釈の正誤は重要じゃなくて、結果“カッチョE”ってことだけで十分なんです」
――『100万ドルのキッス』は、そもそもH.M.V.のライヴ企画のタイトルですよね。
ヒーコ 「スプリットのタイトルについては“ライヴ企画の趣旨を音源にしたい”というコンセプトがあったというよりも、ジャケット・デザインを頼んだYOSSIEに“タイトルをくれ”って言われたんだけど、思いつかなくて。ちなみにあの絵、実は原画だと下の骸骨までパーフェクトに描かれていて、ベタに見えるところも描画になってます。この絵には全部意味があるらしいんだけどね。……猿はH.M.V.なんやって。YOSSIEが描く俺らの絵には必ず猿がいて、あいつの目には俺が猿に見えてるんだろうね(笑)。もともとモノクロだったんだけど(イメージが)白黒のバンドひとつもおらへんし、どうしようって。YOSSIEはいつも本気で描いてるし、でも違うし。じゃあ塗るか!って、バンバン勝手に塗り絵して。失礼な話やけど(笑)。で、(塗ったものを)送ってみたら、改めてちゃんと塗り直されて送り返されてきた。怒ったみたいやなあ(笑)」
RK2 「今後、東京でも、『100万ドルのキッス』のライヴをやる準備を進めてますよ。バンド以外にも、関わった人みんながクルーでメンバーみたいな音源で、企画ですからね」
ヒーコ 「RK2はH.M.V.のメンバーだしな(笑)。そもそもレコーディングの2週間前にH.M.V.はギターが抜けてしまって、収録曲は全部違うゲストがギターを弾いています。モツ(
ゑでぃまぁこん)に頼んだ曲なんて“勝手に作っていい?”っていうから“いいよ”って言ったら、びっくりしたもん(笑)。プリプロの時と全然違う曲になってるんだけど、誤解しあって別の方向に転がっていく、アドリブの面白さがある」
――神戸で10月に開催されたリリース・イベントについて教えて下さい。
ヒーコ 「HARDCORE KITCHENは神戸のレーベルだから、神戸でやろうと。あの日、出演したバンドは、みんなこの音源に収録されて当然の、好きなバンドだけで完全に固めてみました」
RK2 「レーベル、音源、企画、さらにはそれぞれ関わった全てのバンドの立ち位置としても、普通とちょっと違うというか……。これまでの自分たちのバックボーンになっているものが、はっきりと見えたライヴでしたね。サブタイトルにある“つながった世界”っていうのは自分にとって、20年前に神戸でやったODDBALL(ヒーコが在籍していた)、WAG PLATY、EARWIGでのライヴから始まっている流れを明らかにしていくってことだったのかなと。老いていく中で、やるべきことがはっきりしてきたんでしょうね。小銭を稼ぎたい人は、小銭稼ぎに集中してるのと同じようにね。僕らがカッチョEと思うバンドって、きっちりと身を削って、現行の面白い音を真剣に、必死に出していこうとしている人たちなんです。そこにスポットライトが当たってほしいと願っています。僕らはインスタントでものを作っているつもりはないから、誰かの借り物や単なる組み合わせで大手をふって歩くような真似はしたくないんです」
ヒーコ 「ライヴ企画としての『100万ドルのキッス』は、H.M.V.を介して、本来はかみ合わないであろうバンドたちを、かみ合わせるのもひとつの狙いです。
LOSTAGEと
OOZEを対バンさせたり、僕にとってこの二つは“かっこいいパンク・バンド”として繋がっているので、まったく問題ない。僕らからしたらLOSTAGEなんてごっついエリートなんですけど(笑)、根っこが同じだから、受け入れてもらえる自信があるんですよ。表面的に似たようなバンドを集めて、そんなんが好きなお客さんの前で確認作業をするよりも、受け入れてもらえないかもしれないけど、知らない人たちの前でもやれる力量があるほうが面白いでしょう」
RK2 「その時に、少しでも観た人の心を揺さぶることができたら最高ですよね。お互いに面白いものを作ろう、知りたいって本気になっている人たちで作る関係性というか、誰かがお膳立てした枠の中で収まるのではなく、自分の耳と頭で面白いことにアンテナを張り巡らせましょうってことです。僕らは心揺さぶられる、衝撃的なものをいつも欲していて、自分たちも体現したいと思っている。やる以上は一石を投じたいと思っています」
ヒーコ 「うん! そういうことだね。パンクなんて基本は“ちょっとおかしな人たち”が初期衝動でやっているわけで、それがかっこいいんですよね。未だに僕は、小学四年生で
RC(サクセション)を初めてテレビで観たときの“えらいものを観てしまった”っていう気持ちがあるんですね。そこから
アナーキーや
スターリンを観て、取り返しがつかない、後戻りが出来なくなってしまった。僕が究極に目指しているのは、
忌野清志郎さんと
ジョン・ライドンさんなんですよ。そのまま真似ても越えられないじゃないですか。その人たちのスープを自分のフィルターで料理して、自分のスープとして出すことが役目だと思っているけど、そこにはあまり理解を示してもらえていないことはジレンマですね。あと、
ダウンタウンを初めて小学生の時に観て、僕にとってはパンクと出会った時の衝撃と何ら変わりなかったんですね」
――とがったお笑いは、怒りや悪口を最終的に笑えるところまで洗練させて。お菓子に毒を入れて配っているみたいな。
ヒーコ 「そのスキルを身につけて、いろんな人に伝えたいってことなんです」