プロデューサー・インタビュー
有限会社 エヌ・アンド・エフ fine NFレーベル代表 西脇義訓氏が語る録音の舞台裏
――N&Fによる東京交響楽団(以下、東響)の録音は、今回が初めてですか? (西脇義訓、以下同) 「
秋山和慶さんの指揮で『惑星』を録音したのが最初で、今回は2回目になります」
――今回の録音はどのような経緯で決まったのでしょう?
「私自身が
ブルックナーを――とくに第7番が――とても好きでして、ある時スダーンさんと東響のブルックナーをコンサートで聴いて、機会があったら録音したいとずっと思っていたんです。そんな折、東響の方から“よいクオリティでブルックナーを録音したい”というお話をいただきまして、これは渡りに船ということで。それで、結果的に第7番を録音することに決まりましたが、私がこの曲を強く希望したことは事実ですね(笑)。スダーンさんに直接話したわけじゃありませんし、偶然だったのかもしれませんが」
――スダーンさんなら、ブルックナーの魅力を表現してくれるという確信があったのですか?
「ええ。彼は東響の音楽監督に就任してから、古典派作品でオーケストラにしっかりとした土台を築いてきました。その上でのブルックナーですので、自然にうまくいくと。突然ブルックナーをドンジャンやっても、うるさいだけだと思うんですよね。事実、今回の録音は、セッション録音でありながらテイク数がとても少ないんです。各楽章をそれぞれ通しでやって、それでほとんど問題がないという……。むしろスゴい完成度に驚かされました。もちろん人間が演奏しているわけですから、細かい部分でもっとこうした方がよかったという意見も出てはきましたよ。そういう場合は、いろいろとディスカッションをして、2回目をパーフェクトに持っていきました。
これは一般論ですが、録音に対して、その負担の大きさから抵抗感を持つオーケストラもあるんですよ。ところが東響は、指揮者とオーケストラが本当に一丸となって取り組むんです。スダーンさんも、この録音にかける意気込みが尋常じゃありませんでしたし、プレイヤーたちもプレイバック(録音したテイク)にその都度、真剣に耳を傾けていました。それから、『惑星』の時もそうでしたが、事務局側も録音に対してとても熱意が高い。そもそもオーケストラの運営サイドと演奏サイドの両方に熱意がなければ、いくら録音チームが頑張ったって、本当によいものなんてできないんですよ。そういうよく“わかってる”人たちがいるオケなんですよね」
――今回のブルックナーの聴きどころを、とくに挙げるとするならば?
「もちろん全体ですが、それと同時にこの曲に関しては、やはり第2楽章がね……魂の浄化というか。この録音でも、第2楽章に特別何か素晴らしいことが起こっているような気がします」
――録音を試聴用のCD-Rで聴かせていただきましたが、たしかに第2楽章のワーグナー・チューバのところの響きなど、見事ですよね。ほかの楽章も、演奏・録音ともにとてもクオリティが高い。
「我々は、ホールという空間の響きそのものを意識して録っているのですが、第1次編集の状態で音源を聴いた
スダーンさんが、“君たちは一体何をやったんだ? こんなに空間が出て、素晴らしいディテールもわかる録音は今まで体験したことがない”と仰ってくださったんですね。それからもうひとつ。録音が終わった時に、“東京交響楽団はこの録音でもわかるように、真の意味で世界の第1級のオーケストラになった”と。そう太鼓判を押されました」
録音したプレイバックを熱心に聴き、ディスカッションを重ねる
――今後の予定は?
「東響は、現在
シューマンの交響曲ツィクルスをやっていますが、これもリハーサルと本番の両方で録っており、シリーズ終了後に交響曲4つを2枚組で発売することになっています。また、スダーンさんはとにかくブルックナーの第7〜9番は何としてもやりたいということなので、話し合っているところです。そのためには、まずこの第7番が成功しないと(笑)」
――第8番には、2005年の東響創立60周年記念公演ライヴ盤がありますね。となると再録ですか!?
「そうですね。私は第7番ですが、スダーンさんは“私は第8番が好きだ!”と仰る(笑)」
――東響は今まさに上り調子という感じがしますし、ますます楽しみですね。
「本当によい状態になってると思いますね」
取材・文/松本 學 (2009年9月)
【コンサート・スケジュール】ユベール・スダーン指揮 東京交響楽団 ■第572回 定期演奏会
11月7日(土)18:00 東京・サントリーホール
問:Tokyo Symphony チケットセンター [Tel]044-520-1511
■第56回新潟定期演奏会
11月8日(日)17:00 新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
問:りゅーとぴあチケット専用ダイヤル [Tel]025-224-5521
※両公演ともにプログラム、共演者は以下
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調op.15
シューマン:交響曲第2番ハ長調op.61(マーラー版)
ピアノ=ゲルハルト・オピッツ
※詳細、その他の公演については、東京交響楽団のホームページ
http://www.tokyosymphony.com/ へ。