6th Album『Whistle』Special Interview
ひとつひとつの楽曲に時間をかけて向き合い、自らの音楽性を深めていく。
HYのニュー・アルバム
『Whistle』は、そんな真っ当で誠実なスタンスによって支えられている。シックに洗練されたロック・チューン、大人の恋愛観を感じさせる奥深いラブ・ソングから沖縄の歴史と平和への思いをリアルに綴ったナンバーまで。結成10周年を越えた彼らはいま、さらなる成熟の時期を迎えつつあるようだ。そんな彼らに話を訊いた。
「妥協を一切しなかったし、どの曲にも新しい挑戦があって」
――本当に丁寧に作られたアルバムだな、と。
名嘉俊(ds/rap/cho) 「そうですね。今回は曲と向き合う時間がかなりあったんですよ。メンバーともしっかりコミュニケーションが取れて、曲の方向性を話し合えたし」
許田信介(b) 「うん、制作の時間が十分にあったっていうのは大きいですね。妥協も一切なかったし、どの曲にも新しい挑戦があって」
宮里悠平(g/cho) 「そのぶん、いい緊張感もあって。すごく充実してたと思います」
――確かに音楽的なトライは多いですよね。「君のいない世界」における、ジャズ、ラテンのテイストもそうだし。
許田 「はい。難しかったですけど(笑)」
名嘉 「英之(新里英之 vo/rap/g)が“何か違う要素を加えたい”って言って、“じゃあ、ジャズはどう?”って。そこからが大変でしたけどね、ジャズなんかやったことないから(笑)」
――ヴォーカルふたり(新里、仲宗根泉)の“語り”が入ってるのもHYらしいですよね。
新里 「そうですね。まさに“僕の全ては君を通してじゃなきゃ始まらなかった”っていう……。幸せだった頃を思い出して、寂しく後悔してる感じですよね。でも、どこかで“まだ間に合うかも”っていう気持ちもあって」
名嘉 「前回のアルバム『HeartY』から約2年経ってますからね。その間の経験が活かされてると思うし、よりリアルな言葉で表現できるようになったんじゃないかなって」
――俊さんが作詞作曲した「告白」も、HYらしいピュアなラブ・ソング。
名嘉 「まさにピュアな気持ちを思い出して書いた曲なので。告白するんだったら、メールや電話じゃなくて、ちゃんと相手の目の前で自分の気持ちを話した方がいい――って、泉に教えてもらいました(笑)」
仲宗根 「(笑)」
名嘉 「あと、今回も泉が女の子に向けたラブ・ソングを書いてるんですよ。だから、男の気持ちを表現した曲をぜひ、英之に歌ってほしかったかったんですよね」
新里 「すごく感情を込めやすいんですよ、この曲は。初恋の頃の気持ち――その子に会えるだけで、学校に行くのが楽しくなったり――を思い出させてもらいました」
――泉さんのラブ・ソング「Answer」も素晴らしいですね。恋愛観がさらに大人っぽくなったというか。
仲宗根 「やっと大人の仲間入りです(笑)。前は“とにかくあなたが好き。どこまでもついていく”っていう女の人を描くことが多かったんだけど、いまは“好きだけではやっていけない”ってこともわかってるので。年齢的にも、結婚相手にふさわしいかどうかっていうことも考えるというか。〈Answer〉はまさにそうですよね。いくら好きでも価値観が違えばどうにもならないっていう……」
名嘉 「でも、最後は“もう一度会いたい”って言うんでしょ?」
仲宗根 「(笑)。ただ、ホントに“もう終わり”って決めたら会わないですけどね、女の人は」
結成10周年を過ぎたいまだからこそ、歌える歌
――音楽的な部分では、宮里さんが作詞作曲した「すてがらHOLLY」に代表される成熟したロック・チューンが印象に残りました。この曲のギターとオルガンの絡みはカッコいいですね!
宮里 「ありがとうございます。自分なりにハードな曲を作ってみたんですけど、新しいことが出来たかなって。ベースから曲が始まるっていうのも……」
許田 「初めてですね。これもアレンジをみんなで話し合って」
新里 「サビで“Oh Yeah!”ってみんなで言ってたり」
名嘉 「はやくライヴでやりたいよね」
――「少年」もライヴ向けですよね。これは英之さんの作詞・作曲ですが、こういうへヴィなナンバーって久しぶりじゃないですか?
名嘉 「
『Street Story』(2003年リリースの2ndアルバム)以来かもしれないですね、もしかしたら」
新里 「やっぱり好きですからね、最初から最後まで突っ走るタイプの曲って。これは自分が少年だったときの想いを書いてるんですよ。周りの人からいろんなことを言われて、ムシャクシャした想いを心のなかに溜めてた頃というか……。僕、ぜんぜん反抗しなかったんですよね」
名嘉 「いつも優しかったからね」
仲宗根 「うん、英之の優しさは変わらない。HYの癒しです」
名嘉 「もしかしたら60歳くらいで、いきなり反抗期になるかもしれないけど」
新里 「(笑)。でも、音楽をやりたいっていう気持ちはずっと持ってたんですよね。そのことを親に話すときはすごく怖かったけど、周りの人たちに支えられてここまで来れて」
――結成10年を過ぎたいまだからこそ、歌える曲なのかも。アルバムの最後を飾る「時をこえ」も、大事な曲ですよね。
名嘉 「そうですね。9月22日のストリート・ライヴでも演奏したんですけど、イントロを始めたとき、戦闘機がバーッと飛んでいったんです。あれ、すごい光景だったよね」
新里 「沖縄の戦争のことも歌ってる曲ですからね。この土地から生まれた曲なんだな、っていうことを象徴していたいというか」
名嘉 「泉がホントにすごい曲を作ってきてくれて。だいぶ苦労したみたいですけどね」
仲宗根 「……戦争とか平和、家族や自分の命の大切さをHYらしく表現するには? ってすごく考えたんですよ。すべてが謎だらけで、曲としてまとまるまでに2ヵ月くらいかかりましたね。普通に暮らしてると“自分ひとりで生きてきた”って思いがちじゃないですか。でも、そうじゃないんですよね。おじぃ、おばぁが“あの時代”を生き抜いてくれたからこそ、いまの私たちがいる。そう思えば、命を粗末に扱うなんてできないと思うんですよ」
――沖縄の伝統的な音楽、ゴスペルなどを融合したサウンドもグッと心に残りました。
仲宗根 「ゴスペルはどうしても入れたかったんですよね。沖縄では凄まじい地上戦があったんですけど、両方とも愛する国、家族を守ろうとして戦ったんですよね。敵、味方ってことじゃなくて、同じ人間ってことが表現したくて。ストリート・ライヴのMCでも言ったんですけど、(ゴスペルのコーラス隊と)一緒にやるっていうことに意味があると思ったんです。ここから平和が始まっていくっていう……私のおばぁがどう思うか心配だったんですけど、“良かったよ”って言ってもらえてホッとしました。やっぱり、伝わるんだなって」
名嘉 「新しいミクスチャーですよね、これは」
――うん、ホントにそうだと思います。また一歩、確実に前に進んだアルバムですね。
新里 「そうですね。どの曲にも“一歩進む”っていう気持ちが感じられて。そこから“Whistle”っていうタイトルも出てきたんですよ」
――前に進む合図、というか。3月からの全都道府県ツアーも楽しみです。
名嘉 「10周年を迎えられたのも、支えてくれたファンのみんなのおかげなので。みんなに会いに行きたいんですよね、稚内から石垣島まで」
許田 「体調面がちょっと心配ですけど(笑)、楽しみです!」
取材・文/森 朋之(2009年12月)