illiomote 新たなモードのサウンドを詰め込んだEP

illiomote   2023/03/15掲載
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 高校の軽音楽部で部長、副部長だったMAIYA(g,syn)とYOCO(vo,g)からなるユニットilliomoteが新作EP『HMN</3』(ヒューマン)をリリースする。ルーツに根ざしたギターを弾くMAIYAと、ジャズなどもバックグラウンドにあるR&B/ヒップホップ寄りのYOCOのヴォーカルは登場当初の“ハッピーポップ”なイメージを年ごとにアップデイトし、新作ではイメージを端的に伝える少ないリリックとダンス/エレクトロに振ったトラックメイキングの進化も伺える。が、コロナ禍2年目の前作『side_effects+.』に比べ、現状に対する怒りも鮮明になった印象。常に誠実で自分に正直な2人の現在地とともに話を聞いた。
――今回の楽曲はリリックも少なくなってきたし、トラック寄りに振ってきましたね。
MAIYA「最近ライヴで生ドラムを入れることが多くなってきて、そうなるとダンスすぎる曲って生ドラムのアレンジって微妙なんです。微妙っていうか、ダンスな感じで伝わらないので、中間ぐらいのできたらいいんですけど。前作の〈A.O.U〉はちょうどいいとこでできるんですけどね。だからライヴでお客さんが乗りやすいものを作ろうという意識はしました」
――その象徴的な曲というと「Violet」になるんでしょうか。
MAIYA「そうですね。〈Violet〉はライヴのとき、別の曲の前にちょっと違うアレンジで“ギターと歌で入るぞ”みたいなのをやってたんですよ。で、そこから発展したので、ライヴからできた曲なんです。そのうえで今までのilliomoteとも繋げられたらいいかなと思って」
――「Violet」は音像は今の感じですけど、リズムはマンチェっぽくて。着想はどんなところから?
MAIYA「ノイジーなのがやりたかったんです。たとえばレディオヘッドもノイジーなのやるじゃないですか。“ああいう感じがライヴでもやりたい!”っていう感じで作りました。あとはシューゲイズもやりたかったので、いろんなバンドを聴いて」
YOCO「私は聴くけど、ヴォーカリストとして通ってきてなかったから、メロを作るのには時間がかかった感じがありました。MAIYAちゃんからリファレンスになるプレイリストをもらって頭バグりながらずっと聴いて(笑)」
――YOCOさんはこの曲のどんなところからメロディを作ったんですか?
YOCO「最初はマイブラ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)っぽくしようと思ったけど、“低すぎてダメだな”と思って練り直したんです。ほかの曲聴いちゃうとそのメロになっちゃうというか、あんまりメロを作る前は聴かないようにしてるんですけど。特別な意図がなければ。なので、インスピレーションを受けていろいろ作ったのちにまた一回全部消して考え直して練り上げるという(笑)。そんな感じからできましたね」
MAIYA「その寄せすぎない感じがYOCOのメロディが乗ることによって、illiomoteっぽさとか、ダンスっぽいところも出たなと思う。完成して良かった(笑)」
――シューゲイザーやマンチェスター寄りにしすぎるとメロディがなくなっちゃいますからね。
MAIYA「そうそう。キャッチーさがない。ポップさが失われちゃうっていうか。トラックはそれでいいかもしれないけど、やっぱりメロはキャッチーじゃないとわかりづらいと思う。あと、ミックスもらった時も、逆に新しいなあと思って。ああいう曲ってリズムが後ろにあって全体的にぼやっとしてるんですけど、このミックスはリズムが前にあって“わ!”と思った。出来上がるまでの変化が楽しい曲でした。自分が最初にギターリフやトラックを作って、メロを入れてもらって、ミックスで全体的にいろんな人と関わって変わっていった感じがおもろかったです」
illiomote
――この曲のような新機軸もあるけどほかの曲はかなりトラック寄りで。
MAIYA「〈everyone likes〉は結構前に作った曲で出せてなかったので、“これ出していいんじゃない?”となった曲なんです。でもそんなにいじってなくて、ちょっと直したぐらいかな」
――ほかの曲は最近録音したものなんですか?
MAIYA「そうですね。たとえば、〈mid〉っていう曲はギターも入ってないというか、ギターを入れられなかった。べつに入れなくていいかなと思ったんです。最初にYOCOにメロをもらって、ほんとはインディ・ポップっぽく作りたかったんですけど、“いや、なんか違うな”ってなって、途中でめちゃくちゃ変えて。とがってない(笑)」
YOCO「この曲、めちゃめちゃシンプルなトラックがいいなと思ってて。メロが先だったんですけど、サビがわかりづらいのがむしろ自分の中では“とがり”っぽくて、リフっぽいメロディで歌詞もない感じ。それは〈everyone likes〉もそうなんですけど、サビがMAIYAちゃんのギターリフだったり、歌がない空白をサビにしてリズムを楽しんでもらったりすることで、違う楽しみ方ができる曲なのかなとは思ってます」
――前作ではMAIYAさんが“これだ!”っていう音を決めるのに1日かかると話してましたが、かなり把握した結果が今回の楽曲に現れてるのかなと思ったんです。
MAIYA「本当ですか?できてます?自分的には自信なくて(笑)。全然ずっとうまくいかない、どうしよう?みたいになってたんですけど、確かにそうですね。音数をもっと少なくっていうのはやったことがなかったので、〈mid〉で試してみようと思って。ギターってごまかせちゃうんですよ。“音が重なって気持ちいい!”ってなっちゃうじゃないですか。でもそうじゃないのに挑戦してみようということでこの曲ができました」
――余談なんですけど、ドミ&JDベックは巧いから自分たちの手癖で曲絶対作らないらしいです。DTMで詰めるらしい。
MAIYA「そういう作り方をしたほうがおもしろさが出るでしょうね。手癖しがちなんですよ、ギタリストって。私もなるべく手癖使わないようにはしたいけど……曲作るときはもうちょっと考えて作りますね」
――(笑)。そしてYOCOさんの歌詞がどんどん意味より音っぽくなってきていて。しかも今回どの曲もはっきりしたテーマがありますね。
YOCO「そうですね。今回は言葉に気を遣いました。確かに今まで通りのリズム重視みたいなのもありつつ、みんなにもっとわかってほしいというか(笑)、ふさぎ込むんじゃなくて、もうちょっと近づけるような曲になったらいいなあっていうのもあって。どの曲にも好きな言葉があるんです。〈Wake up soon〉だったら“ハロー今シブヤなの”とか、みんな好きになってくれそう、なんかかわいいじゃんっていう感覚も大事だから」
MAIYA「〈Wake up soon〉の歌詞好きよ。もらった時に“ええやん!”ってなった。曲にも合ってるし、うちらっぽいし、YOCOの思ってることも入ってるのは伝わりやすいし、バランスよくできたなと思う」
――前作の「A.O.U」で“とりま会おう”って歌ってた感じに近いというか。
YOCO「確かに近い感じがありますね。現実の世界を想像しやすい言葉はいっぱい使いたい。〈Violet〉も“高鳴るメール来る心拍増”っていうのは好きな歌詞なんですけど」
――そうなんですよ。「Violet」で“未来やっぱいいじゃん”って歌ってて良かった!と思って。
YOCO「(笑)。今まで“未来に希望ある”とか言いながらやっぱ暗かったし、今も暗いんですけど、でもやっぱわくわくしたい。もうね、暗さに疲れてしまった自分もいて。病むにも限界がある」
MAIYA「病むのに飽きたよね」
YOCO「生きてれば苦しいこともあると思うけど、なんか一回“捨てよう”みたいな。今作だけじゃなくて今後出していく曲も、こんなにいろんなことが起こってる世の中だけど、じゃあ人類滅亡します、今年で地球終わりますとかだったら、自分は何したいんだろう?それでまた病むの嫌だし、決まってる期限までめっちゃ音楽頑張って、できるだけ売れる曲作る……かわかんないですけど(笑)。人によっていろいろ野望があるじゃないですか。でも大体の人って普通に生きてたら“これしたい、あれしたい”って思っても押し潰されるというか。“お金のことあるし”“現実的に無理だし”ってなる」
――前向きに人類滅亡を仮定する、と。
YOCO「どうせ死ぬならワクワクしたいっていうのがあって。今年で終わるんだったら“仕事には行きません。明日からずっと有給で〜す”ってみんなするんじゃないかな。あと適当に仲良くしてた人は疲れるから絶対もう喋んないと思う(笑)。もっと自分の欲望や野望に向かってもいいのかなというのは感じてて。まあそれこそ〈everyone likes〉は暗い曲なんですけど、ちょうど1年半前ぐらいにできて、その時はだいぶ落ち込んでて、その時ぐらいにたとえば今年とか来年が最後だと思って、後悔しない、したいことを自分ベースでやってみるべきなんじゃないかと考えた時期があって、それとも繋がってるんです」
――ああ、この曲に?
YOCO「若い人もお年寄りも生きづらい世の中じゃないですか。お金マジでないし、シンプルにみんな貧困みたいな。それに戦争起こるし、招集されるかもわかんないし、“怖……”ってずっと思ってて、未来に不安しかなくて。それこそうちらの世代は将来のことなんてほとんど考えられないような人たちばっかりだし、そんな中で生きてて、どうせめちゃめちゃになるんだったら今のうちに全部やったろ、みたいな感情が自分の中でメラメラしてきちゃった。そういうのが本作とか、多分今後出していく作品では自分の中の一つテーマになってくるのかなって思います」
――いい意味での怒りのスイッチが入ると強い?
YOCO「大事ですよね、怒ることって。怒ってる人って怖いイメージあるじゃないですか。それこそニュースになってたけど、女性の宇宙飛行士候補の方が“パートナーいないんですか?”って質問されて、“プライベートなことで回答するのは差し控えさせていただきたいと考えております”と回答したら、ニュースの見出しで強く言っているような表現をわざわざされていて、ダルいなあと思って。そんなん全部蹴散らしたいんです。怒りのスイッチを“怖い”って思われてもいいんです。知らんがなって感じ。言いたいことそれでもちゃんと言葉にして表現していくことがうちら表現者に絶対必要なことだと思う。“怒るのは怖いからやめよう”じゃなくて、その怒りはどこから来たのか分析して、“これで私は怒ったんだ”って言葉にすることはやっていきたいと思います。死んじゃうともったいない。その気持ちが死んじゃうから」
――1年前はそのことで病んで無を表現してたけど、そこを超えると怒りになってくるんですね。
YOCO「今でも“また見ちゃった、最悪!”ってことはよくあるんです。最近、トレンドに生理用品のことが出てて、その意見がめっちゃ怖くて。ツイッターで言ってる人なんて多分少数派だと思うんですけど」
MAIYA「少ないよ!」
YOCO「でも、そういう意見が目立ちすぎだと思って一回見ないようにして(笑)」
――最近極端な意見が流れてきすぎる気がします。
MAIYA「誰のせいなんですかね」
YOCO「でも何か書くときのベースになってきてますよね。日頃の鬱憤とかSNSの存在とか付き合い方はそれこそ〈Wake up soon〉にめっちゃ入ってるし、ネチネチした陰湿な嫌な感情ばっかり世の中にあふれて、その規模がネットによってすごい広がってみんなに伝わっちゃうし、もうそういうのやめない?ってめっちゃ思います。そこだけが表現する場じゃない」
MAIYA「なんでこんな時代経ってるのに、逆に生きづらくなってきてるんだろう」
YOCO「それこそいろんな人種差別を撤廃しようっていうムーヴメントもコロナ禍ぐらいから勢い増してるじゃないですか。その中で逆行してる勢力も増えてる印象があって。これいつまで続けるんだろう?もうそういうのはいいんじゃないかな。もっとみんなが自由な気持ちでいろんな表現できたり、毎日楽しく仕事したりできるような社会になれるように、みんな普通にしていけばいいのに、他人の自由を阻止する人もたくさんいて。他人が自分らしく生きることを望んでないみたいな」
――いよいよ末期ですね。自分の本当に好きなことを見つければいいのに。
YOCO「こういうことをやってる側だから理解できない時もあるんですよ。“なんでそうなっちゃうの?”っていう」
MAIYA「そういう人たちの気持ちを理解はできないよね」
YOCO「けど、もしそれで苦しんでるんだとしたら、“もっといろいろあるよ。世界はもっと広いよ”って言いたい。私たちもまだ全然知らないけど、もっと人間はユニークな存在だと思うし、それぞれが違う存在だと思うし、そのユニークさを育てることもできると思うから、そういうメッセージをもっと入れていこうかな」
――illiomoteを結成した頃にあったそういうマインドが、コロナもあって思いどおりに活動できない時期もあり。でも簡単に削られはしないんだなと今回感じたんです。
MAIYA「でもうちら、いろいろありすぎじゃないですか。ずっと世の中暗い(笑)。何なの?呪われてない(笑)?」
――この時期に登場したアーティスト共通の感覚かもしれない。ところでこのEPのタイトルが“ヒューマン”(表記はHMN</3)なのはなかなかテーマが大きいですね。
YOCO「大きいです。普通に人間として生きて、本当にしんどいことが世の中にあふれすぎて。で、この記号はブロークンハート的な、ハートエイク的な、失意みたいな心の痛みを表してるんです。人間に生まれてこんなに心が痛いとは、という気持ちです」
MAIYA「“3”はハートで使うんですよね。だからハートが串刺しになってるんです。みんな傷ついてる。でもこれ、全部絶望って感じじゃないから」
YOCO「そう。ただそういう現実がある中で、今のフェーズとしてはやっぱり戦っていきたいと思ってるので。わくわくしたいし、攻撃じゃなくて、いいユーモアを使って聴いた人がその日少し元気になるぐらいでいいんです。べつにその人の未来が変わることなんて音楽には基本的にないし。だからその日聴いて、たまたま救われたっていうふうになったらいいなと思います」


取材・文/石角友香
Information
■2023年3月15日(水)20時〜YouTubeスペシャルライブ開催
https://www.youtube.com/@illiomote1275
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