東京藝術大学在学中の2000年に『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー以来、ミュージカルを中心にさまざまな舞台に出演。コンサートなど音楽活動への精力的な取り組みはもちろん、テレビや映画などでも活躍し、最近では司会業でも知られる井上芳雄。パーソナリティを務めるラジオ番組『井上芳雄 by MYSELF』(TBSラジオ)も好評で、放送が始まった2017年から番組をそのままステージに持ってくるスペシャルライヴを東京国際フォーラムにて開催。2020年にはその第3弾として、デビュー20周年を記念したアニヴァーサリー・ツアーを企画したが、コロナ禍で延期となる。そして1年後の2021年も、初日(4月24日)の千葉公演だけは開催できたものの、ふたたび緊急事態宣言によって残りの富山・大阪・福岡・東京の4都市7公演は中止となってしまった。
だが彼はあきらめなかった!本来はツアー最終日だった5月8日に国際フォーラム(ホールA)の会場をそのまま使用して無観客コンサートを開催。〈井上芳雄 by MYSELF SPECIAL “LIVE”20th Anniversary Festival! 〜裏切らない芳雄4時間フェス〜〉と題してライヴ配信を敢行したのだ。14時30分にスタートした生配信は、当初の東京公演に出演予定だったゲスト陣を迎えた多彩なプログラムやトークで盛り上がり、4時間の予定が大幅に伸びて5時間を超え、19時30分過ぎに幕を閉じた。公演はTwitterでも5万ツイート以上を記録して、「#裏切らない芳雄」はトレンド1位に。彼個人のみならず、演劇やミュージカルのファン全体を巻き込む大きな反響を呼んだ。
第2部はTBSラジオ『井上芳雄 by MYSELF』の雰囲気そのままに、舞台上にラジオブースが設けられ、番組ディレクターの秋山瞬と音楽監督でピアノ演奏の大貫祐一郎も参加。ここからゲスト陣との華麗なるデュエットが繰り広げられる。
最初のゲストは何度も共演している盟友・中川晃教で『モーツァルト!』屈指の名曲「僕こそ音楽」を一緒に。次に『井上芳雄 by MYSELF』のスペシャルライヴには欠かせないお馴染みの2人が登場。田代万里生は毎回男女のデュエットソングで女役を担当するのが恒例で、この日は『マリー・アントワネット』のマリー役に扮し、フェルゼン役の井上と「私たちは泣かない」をデュエットするのだが、このために特注で用意したという見事なロンググドレスも必見だ。一方『ライオンキング』のオリジナル・キャストで初代シンバ役の坂元健児は同作品から「ハクナ・マタタ」を歌うのが毎回のお約束。今回は中川と田代も加えた4人の豪華ヴァージョンで披露される。
初登場の加藤和樹とは舞台では共演したことがない新鮮な顔合わせ。ロックものが得意という彼のリクエストで坂元と歌った『RENT』の「What You Own」をふたたびデュエットするのも面白い。そして同い年で仲の良いはいだしょうことは『エリザベート』から「夜のボート」と『塔の上のラプンツェル』の「輝く未来」を息もぴったりに歌い上げる。
最後のゲストは正統派ミュージカル俳優の2人。海宝直人と歌った『ウィキッド』の深い友情ナンバー「あなたを忘れない」も感動的だが、島田歌穂とブロードウェイ往年の名作『アニーよ銃を取れ』から芝居仕立ての掛け合いの応酬「Anything you can do」が見事な日本語歌唱で披露されるのも必聴である。