未解決のまま時効を迎えてしまった連続殺人事件の犯人が突然、事件の全貌を記した告白本を出版し、日本中を狂わせていく――主演:
藤原竜也 、
伊藤英明 の映画『
22年目の告白−私が殺人犯です− 』は、衝撃的なストーリー展開と徹底したリアリズムに貫かれた演出が共存する新感覚サスペンス・エンターテインメント。この映画の主題歌「疑問疑答」を手がけたのが、「拝啓、いつかの君へ」(ドラマ『
ゆとりですがなにか』 主題歌)で注目された気鋭のロックバンド、
感覚ピエロ だ。
今回、メガフォンをとった
入江 悠 監督と感覚ピエロの横山直弘(v&g)、秋月琢登(g)に「疑問疑答」の制作プロセスを軸にしながら、映画『22年目の告白−私が殺人犯です−』の魅力について語ってもらった。
――映画『22年目の告白−私が殺人犯です−』主題歌のオファーを受けたときは、どう思いましたか?
横山 「そうですね……“いけるだろうか”と」
秋月 「“やれるだろうか”って(笑)」
入江 「そうなんだ(笑)」
横山 「はい(笑)。結果的にはやれたんですけどね」
秋月 「やれなかったらヤバイよ(笑)」
――(笑)楽曲の制作はどんなふうに進めたんですか?
秋月 「最初は脚本を読ませてもらうところからですね。脚本自体もすごくおもしろかったんですけど、完成した映画を観させてもらったら“うわ…”って衝撃を受けるほど素晴らしくて。“この映画の最後に自分たちの曲が使われるのか”とすごく緊張しました」
横山 「プレッシャーもありましたね、正直。脚本を読んだ段階では“これが映画になったらどうなるだろう?”と思ってたんですが、脚本の良さがすごく活かされていたし、映画もめちゃくちゃおもしろくて」
入江 「この映画の制作はかなり大変で、3年近くかかってるんですよ。途中、心が折れそうになることもあったんですけど、脚本のおもしろさに支えられて乗り越えられて。その最後の共同作業が、感覚ピエロさんだったんです。主題歌に関しては具体的なテーマやモチーフは何もなくて、映画から受け取ったものを自由に形にしてほしいと思って。こちらから言ったのは“しっとりした感じではなく、勢いよくエンドロールにつなげたい”というだけで、あとはお任せでしたね。もしかしたら分かりづらかったかもしれないけど、“それ以外のことは言わないでおこう”と自制していたんですよ。説明しすぎると、どうしても型にハマってしまいますからね」
秋月 「デモ音源を作ってからは、何度かやり取りさせてもらって」
入江 「でも“もう少し攻撃的にしてほしい”くらいだよね。デモを聴かせてもらったときも“方向性はこれで大丈夫”と思ったので。完成した曲を大音量で聴いたときはゾワッとしましたね。感覚ピエロの楽曲としても成り立っているし、もちろん映画の主題歌としても成立していて。“ベテランのアーティストみたいなバランスの取り方だな”と」
横山 「嬉しいです」
入江 「儚い色気みたいなものが感じられるのもすごくいいんですよね。それはいまの彼らの年齢だからこそ出せるものだと思うし、このタイミングでお願いした意味があったなって」
――曲が始まった瞬間からすごいインパクトですよね。冒頭のギターの音もめちゃくちゃ鋭くて。
秋月 「あの音を作るためにスピーカーを1台壊してますからね(笑)」
入江 「そうなんだ(笑)」
秋月 「はい(笑)。映画の最後のシーンがすごく衝撃的だから、それを引き継がないといけないと思って。どういう音がいいだろう?と思っていろいろと試していたんですけど、“これだ!”と思える音が出来たときに“バン!”ってスピーカーが飛んでしまって」
横山 「役割が終わったんだろうね(笑)」
――歌詞については?
秋月 「歌詞は難しかったですね、正直。ひとつ考えていたのは、主人公だけにフォーカスするのではなくて、登場人物、全員に当てはまるような歌詞にしたいということで。あと、映画を観てくれた人にも何かを返せるような歌にしたかったんですよ。だから最初に“あなたの世界は、何色か?”と問いかけてるんですよね」
横山 「うん」
秋月 「もうひとつ、曲の最後で救いを描けたらいいなと思っていて。最後の「あなたの世界は、あなた色」という歌詞は「自分が思ったままでいいんじゃないか」という意味を込めてるんですよね」
――なるほど。“すべての登場人物に当てはまる歌詞”というのは興味深い着眼点ですよね。この映画は藤原竜也さんが演じる殺人犯の曾根崎雅人、伊藤英明さん演じる刑事の牧村航を軸に展開しますが、この事件に関わるすべての人たちの感情がぶつかり合う群像劇でもあるので。
入江 「そうですね。“22年”という時間軸があって、そのなかでどう生きてきたか?ということも描いているので。そういう意味でも、すべての登場人物に重ねられる歌詞というのは絶妙だと思います。お客さんにとっても“あなたの世界は、何色か?”と問いかけられることで、何かを思うだろうし。こういうストレートな言葉って、30代、40代では書けないと思うんです。この曲がなかったら、映画はもっと重苦しくなったでしょうね」
――ヴォーカルもすごくエモーショナルですよね。
横山 「メロディ自体が叫んでますからね。映画に出て来る人たちは、みんな叫んでるじゃないですか。だから“最後は自分も叫びたい”と思って」
秋月 「もっときれいなメロディもあったんですけど、曲を作り上げていくなかで“もっと攻撃的にしたい”と思って。あがいてる感じ、もがいている感じを出すためにも、感情的に歌えたらいいよなって話をして。特にサビにはグッと力が入ってますね」
入江 「そうだよね」
――エンドロールで「疑問疑答」が流れた瞬間はどんなふうに感じました?
横山 「僕はこの映画がすごく好きなので、そこに自分たちの曲が使ってもらえるということ自体、すごく幸せでしたね。曲が合ってるのかどうか、これで良いのかどうかを客観的に判断することは出来ないけど、映画が素晴らしいのはよく知ってるし、そのなかで曲が流れるというのはすごい経験だなって」
秋月 「僕はかなり緊張してました。『疑問疑答』が最後にかかるのはわかってるんだけど、“ホントに大丈夫なのか?”ってドキドキしてしまって(笑)。観終わったあとは、まずホッとしましたね。あとは映画が公開した後、観てくれた人がどう感じるのかなって。サウンドの仕上がりもすごくいいので、ぜひ映画館で聴いてほしいです」
横山 「テレビなどで告知が始まってから、いろんな人が“映画の主題歌、聴いたよ”って連絡をくれたんですよ。そういう広がりを持ったデッカイ作品なんだなって実感してますね」
秋月 「そうやな。今日、こうやって監督と話が出来たのも嬉しいし」
入江 「僕としても、すごく幸せな共同作業でしたね。お客さんにとって主演俳優と主題歌は、映画の顔だと思うんです。自分が子供のときもそうでしたけど、監督やカメラマンの名前なんて知らなくて、“シュワちゃん(
アーノルド・シュワルツェネッガー )が出てる”とか“主題歌を知ってる”ということで映画を観に行っていたので。監督の立場で言わせてもらうと、お客さんが映画館を出た後の気持ちも大事だと思っていて。解放感なのか攻撃性なのかは映画によって違いますけど、それを作ってくれるのが主題歌だと思うんですよ。『疑問疑答』によってこの映画を観てくれた人たちは、感想を言い合ったり、ひとりで噛みしめたりしてくれるんじゃないかなと」
横山 「ありがとうございます」
入江 「さらに言えば『疑問疑答』のMVも観てほしいんですよね。映画とは違う世界観ですけど、近いモチーフも使われているし」
秋月 「MVに関しては、映画を意識しないで作ろうと思っていたんです。MVを作ってくれている映像作家にも映画を観てもらったんですけど、あくまでも僕らの世界観を表現して、そのうえで"そう言えば、あの映画の題材も入ってたかもね"という感じになったらいいなと」
VIDEO
――バンドとしても、「22年目の告白−私が殺人犯です−」という作品に関わったことは大きな体験になりそうですね。
横山 「はい。曲を作らせてもらったこともそうですけど、個人的にもすごく大きな命題を受け取った気がしていて。この映画を観たときに“生きていくうえで、何が正解なんだろう?”と思ったんです。“正しさとは何か?”ということも考えたし、それはきっと映画を観るお客さんも同じじゃないかなって。そのうえで、僕らの曲が残り香みたいになってくれたらなと」
入江 「登場人物にはそれぞれの立場があるし、何が正解かはわからないですよね。いまは最短距離でゴールを目指すような風潮もあるけど、この映画ではあえて答えを出していなくて。そういう映画をメジャーのフィールドで作れたことも嬉しいですね」
――簡単に答えを手にするのではなく、それぞれが考えることが必要だと。
入江 「その過程も大事だと思うんです。『疑問疑答』の制作もそうですよね。こちらから“こうしてほしい”と言っていたら想像を超えるような曲にはならなかったかもしれないし、スピーカーが飛んだことも含めて(笑)、すべてが映画のなかに入っていると思うので」
――素晴らしいコラボレーションになりましたね。
入江 「うん、ホントにそう思います。あとは感覚ピエロがもっともっと売れたときに“誰でしったけ?”って言われないといいなって(笑)」
横山 「ハハハハハ!言うわけないじゃないですか!」
秋月 「どんなイメージなんですか(笑)」
取材・文 / 森 朋之(2017年5月)撮影 / 黒岩周作
2017年6月10日(土)より全国でロードショー 監督: 入江 悠 出演: 藤原竜也、伊藤英明、夏帆、野村周平、石橋杏奈、竜星涼、早乙女太一、平田 満、岩松 了、岩城滉一 / 仲村トオル ほか [あらすじ] 阪神大震災、地下鉄サリン事件…混沌とした1995年に起きた5件の連続殺人事件。被害者に近しい者に殺人の瞬間を見せつけ目撃者をあえて殺さずに犯行をメディアに証言させる―その残忍な犯行は世間の注目を浴びた。事件を担当する刑事の牧村は、あと一歩のところまで犯人を追い詰めるものの、事件は未解決のまま時効を迎えてしまうのだった。そして22年後のある日。一冊の本が日本中を震撼させる。その本のタイトルは、「私が殺人犯です。」それは、95年のあの事件の犯人と名乗る男が書き綴った殺人手記。出版記念会見に現れたのは、曾根崎と名乗る妖艶な男だった。過熱するマスコミ報道、SNSにより時の人になっていく殺人犯。しかしその告白は、新たな事件の始まりに過ぎなかった…c2017 映画『22年目の告白−私が殺人犯です−』製作委員会 配給: ワーナー・ブラザース映画