色々な十字架 話題の“90年代ヴィジュアル系リヴァイヴァル”バンド 待望のセカンド・アルバムをリリース

色々な十字架   2024/12/06掲載
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 もともとそれぞれキャリアを重ねてきたメンバーにより、2020年、エイプリルフール企画のヴィジュアル系バンドとして結成された“色々な十字架”。当初は企画バンドだったが、90年代ヴィジュアル系リヴァイヴァルというコンセプトや個性的な歌詞などが反響を呼び、MVを制作し、アルバムを出し、3度のワンマン・ライヴを開催するなど活動を継続。そして2024年11月にはついにセカンド・アルバム『1年生や2年生の挨拶』をリリースした。バンドとして真価が問われる作品といえるが、キャッチーなメロディ・センスや支離滅裂な歌詞世界といった独自の持ち味がいっそうグレードアップされているうえ、ラップ曲やミュージカル曲、真摯なバラードなどアプローチも多彩になり、“本気度”を感じさせる力作だ。tink(vo)、kikato(g)、tacato.(g)、misuji(b)、dagaki(ds)というメンバー5人に話を聞いた。
New Album
色々な十字架
『1年生や2年生の挨拶』

(GEKR-1004/通常盤)
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色々な十字架
『1年生や2年生の挨拶』

(GEKR-1003/初回限定盤)
――エイプリルフール企画で始まったバンドがセカンド・アルバムまできたわけですけど、継続していく気持ちはどのあたりからあったのでしょうか。
tink「WWWのファースト・ワンマン(2021年12月)はわりと記念みたいな気持ちだったんです。せっかくMV作ったし、ライヴもやっておくかくらいの感じで」
dagaki「そのMVがバズった影響で、ライヴやってくれたらいいのに、みたいな声がちらほら上がっていたのを真に受けて(笑)、じゃあライヴやろうかっていう話になったんです」
tink「でもファースト・ワンマンで、曲をやっていくに連れて、最後のほうのお客さんの熱狂を目の当たりにして、ああこれはちゃんとやったほうがいい、やりたいと思って。グラデーションというか、徐々にライヴの中で気持ちが切り替わっていったんです。当初はこんなに盛り上がるとは思ってなくて」
――アルバム1枚で終わりじゃない、という気持ちはその頃からあったわけなんですね。
tink「そうですね。ファースト・アルバムを出す頃には、ライヴ活動を始めて2年経っていたし、ファーストに入りきらなかった曲もあるので、セカンドを出したい気持ちはありました。音楽のキャリアはそれぞれのメンバーみんなあるので、ヴィジュアル系の世界でもっといい曲作れるでしょみたいな、イケイケな感じがありました」
――今回のアルバムは、定番っぽいヘドバン曲をはじめ、ミュージカル曲、ラップ曲、壮大なバラードなど、前作よりも多彩になっていますね。MVが公開された「知識」もとびきりポップな楽曲に仕上がっています。
tink「自分で言うのもなんですがいい曲が揃っています。ヴィジュアル系が好きな人に、どれかが刺さればいいなと思ったんです。〈知識〉はLa'cryma Christiみたいな曲をやりたいなって思って作った曲です」
dagaki「ヴィジュアル系って白系、黒系と呼ばれるものがあって、これは白系を意識した感じです。白い衣装を貴重にして、きらびやかなサウンドというイメージで」
――「知識」の歌詞、すごいですよね。
tink「角煮を使った油でラードにするとか、芋を火で焼くとホクホクするとか、べつに知識でもないですしね(笑)」
――「第13セクターの子供達へ」もサウンドもおもしろかったです。
kikato「〈第13セクターの子供達へ〉は、仕上がりはシューゲイザーっぽいギター・ロックになっていますが、最初はダブっぽい日本語ロック、フィッシュマンズやゆらゆら帝国みたいなモチーフで始めたんです。ヴィジュアル系でダブってあんまりないからおもしろいかなと思って。そういう意外なのもやってみたいねというのもありました」
dagaki「僕らはヴィジュアル系がルーツのひとつではあるんですけど、オルタナティヴ・ロック的なものもみんな根底にあったりするので、自分たちが持っているいくつかの要素を組み合わせてみたいねという話がありました。その結果シューゲイザーっぽくなっていったのは、おもしろい化学変化だと思います」
misuji「もともとヴィジュアル系って、いろんな音楽性があって、いろんなものを集めてこられる場所という感覚があるので。それがかないやすいバンドというのもあります」
dagaki「ヴィジュアル系という縛りがあることによって、逆に自由になるところもあるんですよ。なにをやってもヴィジュアル系という芯があるから、なにをやってもOKみたいな良さがある」
色々な十字架
――さきほどの「知識」もそうですが、色々な十字架の歌詞って、まったく関連性のない言葉を並べるとか、曲のタイトルやメロディと歌詞の内容が全然合っていないとか、それらが同居しているギャップのおもしろさがあると思うんですけど、たとえば今回だと「ごぼう」などは、出だしから支離滅裂ですよね。そこは確信犯的にやっているんですか。
tink「笑いの部分は計算してやっています。Aメロがまったりしている曲は早い段階でボケをもってきたり。〈ごぼう〉はサビの“メロディー、メロディー”が普通の内容で、ボケではないので、わりと早い段階の2行目からボケを持ってこようみたいな組み立て方をしました」
――それと定番ワードみたいな言葉があって、“ガキ”“ババァ”“ジジィ”“お水飲む”“両津”“砂利”“乳輪”あたりって前作から頻発していますよね。そういうお決まりのワードを何度も使うのはどうしてですか。
tink「ティンカーベル初野としてのソロは、“ジジィ”と“ババァ”しか歌わないので。当初は差別化という意味で、(バンドでは)“ガキ”とか“お水”とか、理不尽系に固執した歌詞にしたんです。“人のお水を飲んじゃう”とか“金魚を食べちゃう”とか、そういう理不尽な行動を歌おうと思って。倫理観のないものをコンセプトにしようというのがあって、そうなると“ガキ”という言葉はシンプルに使いやすかったんです(笑)。ガキがキャンプで作ったカレーを大人に食べられちゃったら、かわいそうでおもしろいなっていう」
――そういう小学校ネタ、子供ネタが多めだと思うんですけど、なにかトラウマとかあったりするのでしょうか。
tink「トラウマというか、先生に怒られた記憶とか、いろんな人が経験する小学生がゆえの理不尽な被害みたいなのはあるかもしれないです」
misuji「社会を知らないから、なんでそんなことで怒るんだろう、みたいな?」
tink「そういうのを反映させているのかもしれないですね。それで過去の自分を救いたいではないですけど、それでイヤだった思い出も笑えるかもしれない。そういう美談にしています」
――小学生っぽいネタというところだと、「Highway to Tomorrow〜ダイナミックなおもらし〜」は1曲全部“おもらし”のことを歌っていてすごい曲ですね。
tink「うすた京介先生の作品が好きなんで、影響を受けていて、自分の笑いとしてアウトプットする中でおもらしとか自然と入れちゃうんです。これはいい感じで昇華できました。明日に向かっているっていう、勇気づけられる感じで、すごく前向きに書けて。自分ですごいなあと思いました(笑)」
misuji「こんなに前向きなおもらしの曲って世界で初めてだよね(笑)」
tink「おもらしだけど、知性と品がありますからね(笑)」
――「LOST CHILD」はカインズホームのことを歌っていますね。
tink「ファーストにもカインズホームって使ったんですけど、わりとそういった固有名詞をいれても流通会社からなにも言われなかったんで大丈夫なんだなって(笑)。カインズホーム好きなんで。この曲はdagakiが作った曲なんですが、サビを聴いた瞬間、これはカインズホームだなって思って」
dagaki「めちゃめちゃ早かったよね(笑)。渡してすぐカインズホームの歌にしようと思うって打診があって」
――ライヴだとなにを歌っているのかわからなくて家に帰って歌詞カードを見てみたらすごい歌詞で驚いた、というのはあるあるだと思うんですけど、色々な十字架の場合は、ライヴでステージのスクリーンに歌詞のリリックビデオが映し出されますよね。それがあるから、曲調と全然違うストレンジな言葉がどんどん出てくるっていうおもしろさが、演奏とリアルタイムで直に伝わってくるわけじゃないですか。そこは狙っているんですか。
tink「そうですね。もともとソロ活動もヘンな歌詞なんですけど、ソロの時はほとんどのミサ(※ライヴのこと)でVJで歌詞を出していなくて、ずっと出したいなと思っていたんです。そっちのほうが伝わるので、十字架では絶対やりたいと思って。ファースト・ワンマンをWWWでやったのも大きくて、ちゃんとVJが映る環境だったんですよね。で、いざやってみたらハマって、映像が出ることに対するお客さんの反応もすごく良くて。じゃあVJも常にあるような感じにしようということになりました」
misuji「やっぱり歌詞を含めて、“伝える”のを前提としたバンドなんです。そこはマストだと思いますね」
――音楽的なところでは、「汗拭きシートで冬来けり」でラップをやっていますね。ラップはこれまでもシングル「Feel So Loved」で試みていたりしていましたけど、ラップを導入するようになったのはどうしてですか。
tink「もともとK-POPのアイドル・ラップが好きなんで、取り入れたいという欲求ですね。でも、ヴィジュアル系バンドでラップを入れる楽曲ってめずらしくはないんですよ。その対抗心じゃないですけど、やりたいなあと思って。俺らもラップできるんだぞという。プラス、トラックは自分が好きなように作ったゴリゴリな感じなんですけど、そこにみんなのインダストリアルなアレンジが加わったらどうなるかなと思いました。結果的に謎な感じになって楽しかったです」
――「GTO」ではミュージカル的なやり取りが入っています。
misuji「これ、じつはMALICE MIZERのオマージュなんです。ヴィジュアル系でエレクトロっぽい曲で」
dagaki「あと、途中の合唱みたいなコーラスはSound Horizonですね」
――アニメやゲームやラノベからネタを持ってくること多いですよね。
kikato「この曲は、ソシャゲの『あんさんぶるスターズ!』から影響を受けています。今やる曲って、今ライヴでやる意味が絶対にあったほうがいいから、そういうのは思いついたら意識的に入れるようにはしています」
――90年代ヴィジュアル系リヴァイヴァルではあるけど、姿勢としては今の、リアルな現在進行のものでありたい、ということですか。
kikato「今によりすぎてもイヤだけど、両方のエッセンスがちょっとずつ入っているのが自分的にはちょうどいいですね」
――本作の一番のクライマックスが、先ほども話に出た「第13セクターの子供達へ」だと思うんですが、かなり荘厳なバラード曲で、サウンド的にもギター・リフで押すのではなくて、ギターを中心に空間的な音像を構築していて、斬新な楽曲になっていますね。
tink「これは自分が作ったんですけど、ヴィジュアル系版〈空洞です〉(ゆらゆら帝国)がやりたいと思ったんです。音像とかリフで押さないと言っていただいたんですけど、そういう楽曲って、一夜漬けじゃできない。みんなキャリアがあるので、そこを信じて、やってくれるっしょと思って丸投げしました。ギター陣は音像作りが得意だし、信頼を置いておまかせした感じです」
tacato.「最初もらった時は、全然ヴィジュアル系じゃない曲調と構造なので、すごくやりづらいなと思ったんですけど、それをヴィジュアル系っぽくしていくというのが楽しかった。普通の曲ではやらないけど、ヴィジュアル系ではこれをやってるなっていうことを、一個ずつ発見していけた感じはします」
kikato「こうやったらとヴィジュアル系になる、というのを発見する時が、気持ち良かったよね。サビがLUNA SEAの〈gravity〉みたいなリズム・パターンで、16分で刻むんですけど、それができてハマった時がすごく楽しかった。ここまでみんなで構成した感は、この曲が初めてかもしれない」
tacato.「みんな長く続けてきた経験値が積まれているなあって感じはしますね。この曲だけ、ヴィジュアル系やるぞ、みたいな感じではない部分があります。昔だったら引き出しが一個しかなかったのが、いろんな引き出しを出し合って、それでヴィジュアル系に仕上げるみたいな、その微妙なバランス感覚が集まっているんじゃないかなって気がします」
――個人的には無意味でブッ飛んだ歌詞と多彩なサウンドの融合というところで、十分に個性が確立していると思うんですよね。でもやっぱりヴィジュアル系にはこだわっていきたいですか。
tink「そうですね。もともと好きだったし、やりたかったサウンドなので。90年代ヴィジュアル系って謳っているバンドもいないですし。ライヴとか対バンイベントも楽しいなって思うし、これからももっとやっていきたい気持ちがあります。あと、自分の歌詞も、ヴィジュアル系のサウンドだからこそ映えるんだなと思います。ソロの曲もヘンなんですけど、そこまで売れなかったので(笑)。ヴィジュアル系に乗せたらよりハマった。ヴィジュアル系だから意味があったんだってすごく感じました」
misuji「ぼくもこだわっていきたいですね。ぼく自身はヴィジュアル系を通ってきてないんですけど、こんな状態でやりはじめて、いろんなヴィジュアル系のバンドと対バンしたり、お客さんの反応も楽しくて。いままでやってきたバンドと違って非現実的な世界観を味わえてて、そういう世界で活動できてるのが楽しいです」
dagaki「色々な十字架に関してはヴィジュアル系をとことんつきつめていきたいなと思っています。自分のルーツにヴィジュアル系が大きく根幹としてあったりするけど、ほかのバンドでやってるときは排除しようというか、ヴィジュアル系っぽくない曲を作ろうとしているところがあったりしたんです。そういう自分を押し殺してたり部分もあると思うんですけど、それをこのバンドでやれるのが本当に楽しいんです。ヴィジュアル系とひと口に言ってもやれることはかぎりなくいろいろあると思うので、ヴィジュアル系という軸の中で、遊び続けられるバンドでいたいと思います」
tacato.「ヴィジュアル系で好きでよかったなって言える状態がいまあるんです。この先も好きなことをやっていきたいです」
kikato「前にやっていたバンドはスピッツとかくるりとかみたいないわゆる日本語ロックをやってたんですけど、そこをつきつめていくとブリティッシュロックになるんですよね。でも聴けば聴くほど本場はあっちだなって感じてしまった時期があって。だからいま色々な十字架をやれてるのが楽しくてしょうがないんです。ブリティッシュロックふうな日本語ロックをやるのと違って、日本人がヴィジュアル系をやるのって本物になれるという感覚があって。自分がやるべきことをやれてるなって思いがあります」
――どんどんライヴ会場のキャパが広がってきていますが、バンドとしての目標みたいなのはあったりするのでしょうか。
tink「場所っていうことですよね?」
――場所じゃなくてもいいですよ。
tink「……やっぱり俳優ですかね(笑)」
――えっ(笑)、どういうことですか。
tink「バンドとして売れて、アイドル・プロデュースをやりたいですね(笑)。つんく♂さんルートと、俳優の2本でいきたくて」
dagaki「最近俳優になりたいって言うようにしてるよね(笑)」
tink「まあリアル目標でいうとZeppに立ちたいですね」
kitato「めっちゃ普通の回答!」
takato.「それ最初に言ったほうがよかったんじゃないの?」
――バンドとして最終的にここまでいきたいっていうのはあるんですか。
tink「場所でいけば日本武道館。あとはMステ」
――Mステいいですね。
misuji「曲によっては出れるかもしれないよね」
dageki「〈TAMAKIN〉でもいけたので意外と大丈夫かもしれない!」

取材・文/小山 守
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