2015年夏に
キマグレンの活動を終え、ソロ・アーティストとしてスタートした
ISEKIがカヴァー・ミニ・アルバム『
AOR FLAVA -mellow green-』をリリース。「J-POPの中のAOR風味の名曲カヴァー・シリーズ第一弾」として制作された本作には、「DOWN TOWN」(
シュガー・ベイブ)、「シングルベッド」(
シャ乱Q)、「接吻」(
オリジナル・ラブ)などのカヴァーのほか、
中田裕二とのオリジナル・コラボ曲「HOLD YOU feat.中田裕二」も収録。AOR、ニューミュージックをルーツに持つ、ソロ・シンガーISEKIの個性が存分に発揮された作品となった。
CDジャーナルWebではISEKI、中田裕二の対談を企画。『AOR FLAVA -mellow green-』の制作を軸にしながら、両者の音楽的な交流、大人のポップスに対する思い、30代ソロ・シンガーの在り方などについて語ってもらった。
――ISEKIさん、中田さんが知り合ったのはいつ頃ですか?
中田 「音霊(OTODAMA SEA STUDIO)のイベントに呼んでもらったのが最初だよね」
ISEKI 「そう、
椿屋四重奏のときに出演してもらったからね。最初はイベントのオーガナイザーとして会ったんですけど、その後、僕がキマグレンとしてデビューして。
CHAGE and ASKAさんのライヴでも会ったよね?」
中田 「そうだね。でも、仲良くなったのはこの3年くらいかな?」
ISEKI 「うん。僕がソロになってから、中田くんといっしょにライヴで歌う機会があったんですよ。そのときはCHAGE and ASKAのカヴァーだったんですけど」
中田 「〈PRIDE〉だよね」
ISEKI 「〈SAY YES〉も歌ったよ」
――チャゲアスが取り持つ縁といいますか。アーティストとして、お互いにどんな印象を持ってるんですか?
ISEKI 「椿屋四重奏のときはもちろんロックのイメージですよね。ソロになってからは、昔の歌謡曲をカヴァーしたり、“たぶん好きな音楽が近いな”と思ってたんですよ。しっかりと歌を歌えるシンガー・ソングライターだし、エロい感じもあって」
中田 「最初にISEKIくんのことを知ったのはキマグレンだったから、その頃は“夏、海、太陽”ですよね(笑)。ソロになってから印象的だったのは、
ORANGE RANGEの人とコラボした曲で」
ISEKI 「RYOくんと一緒にやった曲だね(Whisper feat.ISEKI / RYO from ORANGE RANGE)」
中田 「そうそう。けっこうAORっぽい感じの曲だったから、“ISEKIくんはこういうことがやりたいのかな”と思って。キマグレンのときとは違う雰囲気だけど、ISEKIくんは顔が濃いから、AORが似合うんだよね」
ISEKI 「顔、関係あるの?(笑)」
中田 「あるある。塩顔の人はAORをやっちゃダメだから(笑)。90年代までのいい男の顔じゃないと、説得力ないでしょ」
ISEKI 「ハハハハハ」
――普段、音楽の話もしてますか?
中田 「しますよ。ちょっと意外なんですけど、この人、
イーグルスとかが好きって言うんですよ」
ISEKI 「ギターを始めたきっかけもイーグルスだから。 中田くんにはアナログレコードのことを教えてもらってますね。いままでレコードには触ったことがなかったんだけど、“AORはレコードで聴かないとダメだよ”って言われて」
中田 「俺もレコードで聴き始めたのは最近なんですけどね(笑)。AOR系のアーティストの作品って、演奏が上手いじゃないですか。CDでもクリアに聴けるんだけど、どうも演奏感が薄い気がするんですよ。レコードだと実際に演奏している感じがするし、すごく生々しいんですよね」
ISEKI 「うん。ずっとCDで聴いてたイーグルスのアルバムも、レコードで聴いてみるとぜんぜん雰囲気が違って。その後、中田くんの指示通りに機材を買いそろえました(笑)」
――AORに深く触れることで、音楽の聴き方にも影響がありました?
ISEKI 「そうですね。僕はそこまで洋楽を聴いてなかったんですけど、中田くんと話しているうちに“AORの影響を受けた70年代、80年代の日本のアーティストが好きなんだな”ということがわかってきて。あと洋楽のAORってアイディアの宝庫なんですよね。“自分が好きだったあの曲は、ここからアイディアを持ってきてるのか”ということもわかったり」
中田 「元ネタがあったりするからね。でも、音楽の話は入口だけで、あとはライフスタイルの話が多いかな」
ISEKI 「これからどう生きていくか?っていう。いまって、音楽でメシを食うのは大変じゃないですか」
中田 「実際、30代ミュージシャンの道って混迷を深めてると思うんですよ。そのなかでどう進んでいくか?という前向きな話をしてます」
――中田さんはバンド、ISEKIさんはユニットを経てソロになって。共通している部分も多いですからね。
中田 「そう、解散組なので(笑)」
ISEKI 「中田くんはソロの先輩だから“最初の頃、どういう感じだった?”みたいなことも聞かせてもらってましたね。ソロでやっていくためには、精神的にタフじゃないとダメだと思うんですよ。音楽もそうだけど、粘りが大事だなと」
中田 「歌い方も粘ってるからね(笑)」
――中田さんもそうですが、シーンの流行に迎合しないで、自分のスタイルを貫く強さは必要かもしれないですね。
中田 「迎合したくても出来ないんです(笑)。まあ、いまの流行に対してはあまりリアリティを感じられないし、やっぱり自分に合ったことを突き詰めたほうがいいでしょうね」
ISEKI 「うん。売れ線を参考にするよりも、まず自分が何をやりたいかを明確にしないと。いままでやってきたことを否定せず、それを組み込みながらソロとして表現していきたいんですよね」
中田 「なるほどね」
――今回のカヴァー・ミニ・アルバム『AOR FLAVA -mellow green-』にも、ISEKIさん自身のルーツが強く反映されてますよね。選曲は70年代、80年代のJ-POPが中心になっていて。
ISEKI 「そうですね。〈接吻〉(オリジナル・ラブ)なんて子供のときからカラオケで歌ってましたから」
中田 「すごい子供だな(笑)。俺がライヴでカヴァーしている曲もけっこう含まれてるんですよ。〈ドラマティック・レイン〉(
稲垣潤一)とか〈メロディー〉(
玉置浩二)とか。世代も同じだし、好きなものも近いから、こうなるのは当然なんですけどね。それにしてもここまでカブるとは……」
ISEKI 「ハハハハハ」
中田 「これを聴いて思ったけど、切々と歌う曲が好きなんだろうね。情念みたいなものもあるし、セクシーだし。やっぱりこの顔で爽やかな曲を歌うのはおかしいから」
ISEKI 「いやいや、〈DOWN TOWN〉(シュガー・ベイブ)はちょっと爽やかでしょ。ただ、この曲はすごく難しかった。ぜんぜんソウルフルにならないんだよね」
中田 「そこはISEKI節でいいんじゃない? 独特のタイム感があるし、それを活かしたほうがいいと思う」
ISEKI 「お、嬉しい」
中田 「いまの歌い手って、ジャストで歌い過ぎると思うんだよね。ネオソウルと言われている音楽が流行ってるけど、海外ではちゃんと歌が引っ張ってるんですよ。でも、日本はぜんぜんそうじゃない。それに対抗したいという気持ちはありますね」
――ISEKIさん、中田さんのコラボ曲「HOLD YOU feat.中田裕二」もAORテイストのナンバー。これはお2人の共作なんですか?
ISEKI 「そうです」
中田 「違います! 先にしっかりした曲があったんですよ。俺が歌うパートも決まってたし(笑)」
ISEKI 「真実を話しますと(笑)、僕のライヴに中田くんに参加してもらうことになっていて、“カヴァーをやるだけじゃつまらないな”と思ったんですよ。“曲を作ったら、歌ってくれる?”って聞いたら“いいよ”って言ってくれたから、まずは中田くんに参考になるようなAORの曲を送ってもらったんです。それを聞いてから楽曲の雰囲気を決めて、デモを作って。その後も中田くんの意見をもらってるんですよ。たとえば“サビは刻む感じのメロディじゃなくて、ロングトーンがいい”とか。だから共作です!」
中田 「ちょっと口を出しただけだよ(笑)」
ISEKI 「プロデューサー的な立ち位置に近いかもね。歌詞に関しても、中田くんのアルバムを聴いて“こういうイメージがいいかな”と考えながら書いて」
中田 「すごくいい曲だよね。独特の雰囲気があるし、しかもキャッチ―で。キマグレンをやってきたことで、ポップソングの作り方を感覚的に掴んでるんだと思いますね、ISEKIくんは。ただね、歌うのはすげえ難しかった。メロディもISEKI節だし、タイム感も独特だから、合わせるのが大変で」
ISEKI 「ごめんね(笑)」
中田 「いやいや(笑)。普段は得意そうな歌ばっかり歌いがちなんだけど、それは歌い手にとって良くないと思っていて。苦手そうな曲を歌いこなすことも必要だし、そういう意味で〈HOLD YOU〉はいい修行になりました。それにしても難しかったな。コーラスも複雑だったし、自分の積み方とはまったく違っていて。相性が悪いのかな(笑)」
ISEKI 「こらこら(笑)」
中田 「冗談冗談(笑)」
――オリジナル曲が収録されていることで、ISEKIさんの音楽的な方向性も感じられて。この曲が入っている意味はすごく大きいと思います。
中田 「そうですよね。歌い手としてもすごく魅力的だなと思います。和製ソウル感すごくあるし、コブシも効いていて」
ISEKI 「他のミュージシャンとのコラボは、この後も続けようと思っているんですよ。そのきっかけになったのが〈HOLD YOU〉だから、すごく感謝してますね」
中田 「いえいえ。ISEKIくんにはぜひ、時代に埋もれない歌を歌い続けてほしいなと思いますね。あと同世代の歌い手としては、一緒にムーヴメントを作っていきたいという気持ちもあって。チームを組むのは好きじゃないし、それぞれ単独でいいんだけど、30代半ばくらいの歌い手がひとつの理想を持って、時代に向かって何かを訴えかけることも大事だと思うんですよ。ISEKIくんは仲間だと思ってるんですよね、勝手に」
ISEKI 「嬉しいです」
中田 「大人の雰囲気を持った歌い手というのかな。AORはもともと、大人の要素がある音楽だと思うんですよ。それは今の時代に足りない感覚でもあるんですよね。ガキっぽい音楽が多いから、“大人ってカッコいい”と思えるような歌を提示していきたいなと。80年代の
寺尾 聰さんみたいな」
――当時の寺尾 聰さん、まだ30代前半なんですよね。
中田 「そう考えるとすごいな(笑)。でも、子供ながらに憧れたじゃないですか。そうやって背伸びすることは、人間としての向上につながると思うし」
――ソロとしての最初の作品が完成したことで“ソロ・アーティストISEKI”の方向性がさらに明確になった実感もありますか?
ISEKI 「そうですね。キマグレンはコンセプチュアルなユニットだったし、良くも悪くもしばりがあったんです。ソロの音楽性はもともと好きなものに根差しているし、〈HOLD YOU〉もそうですけど、新しいことにトライできるのも楽しくて。ヴォーカルのことで言えば、サビでワーッと盛り上がるというより、ゆっくり上がっていくような歌が歌いたいんですよね。(ここでは)書けないかもしれないけど、時間をかけて愛撫するような……」
中田 「それは書いてもらったほうがいいよ(笑)。わかりやすいから」
ISEKI 「そうかな(笑)。キマグレンのときとは歌い方もかなり違うし、それを切り替えるために2年間くらいかかってるんですよ。その期間の間にいろいろと気付くこともあったし、良かったなと思いますけどね」
――この後のISEKIさんの活動はどうなりそうですか?
ISEKI 「まずはカヴァー・ミニ・アルバムのシリーズを続けようと思ってますね。すでに
2作目の制作に入ってるんですけど、季節ごとに色分けしてリリースできたらなと」
中田 「季節に合わせた良い歌を届けますっていう。歌のソムリエだね」
ISEKI 「お、いいこと言う! カヴァーと並行してオリジナル曲の制作も進めようと思っていて。カヴァーは自分のスタイルを見つめ直すことにもつながっているし、それを踏まえて、来年からはオリジナルの楽曲を提示できたらなと」
中田 「いいね。ぜひ聴きたい」
――そして9月からは全国ツアー〈ISEKI LIVE 2017〜COFFEE&SOUL vol.2〜〉がスタート。12月25日には横浜赤レンガ倉庫1号館3階ホールで〈AOR FLAVA〜毎日がクリスマス10th anniversary☆2017☆SPECIAL LIVE〜〉が開催されます。
ISEKI 「やれるときはどんどん攻めようと思って。クリスマス・ライヴは今年で10年目なので、特別なことをやろうと思っていて。今後リリースしていくミニ・アルバムの集大成にしたいんですよね。お客さんにリクエストを取って、それをもとにセットリストを組もうかなって……いま思い付きました(笑)。中田くんも参加してくださいね」
中田 「ぜひ(笑)」
取材・文 / 森 朋之(2017年5月)
[料金]
前売 3,800円 / 当日 4,300円
全自由(税込・入場時別途ドリンク代必要・整理番号付き)
※6歳以上チケット必要(6歳未満でも座席が必要な場合はチケット必要) / 3歳未満入場不可
2017年9月30日(土)
東京 渋谷 gee-ge
昼公演 開場 14:30 / 開演 15:00
夜公演 開場 18:00 / 開演 18:30
※お問い合わせ: gee-ge 03-6416-3468
2017年10月14日(土)
愛知 名古屋 sunset BLUE
開場 17:00 / 開演 17:30
※お問い合わせ: sunset BLUE 052-325-3410
2017年10月15日(日)
京都 SOLE CAFE
開場 18:00 / 開演 18:30
※お問い合わせ: SOLE CAFE 075-493-7011
2017年10月21日(土)
大阪 心斎橋 ヒルズパン工場
開場 17:00 / 開演 17:30
※お問い合わせ: ヒルズパン工場 06-6110-7111
2017年10月22日(日)
広島 音楽喫茶 ヲルガン座
開場 18:00 / START 18:30
※お問い合わせ: ヲルガン座 082-295-1553
2017年10月28日(土)
宮城 仙台 SENDAI KOFFEE
開場 18:00 / START 18:30
※お問い合わせ: ニュース・プロモーション 022-266-7555
2017年11月3日(金・祝)
福岡 大名 LIV LABO
開場 18:00 / 開演 18:30
※お問い合わせ: LIV LABO 092-791-6009
2017年11月5日(日)
北海道 札幌 musica hall cafe
開場 18:00 / 開演 18:30※お問い合わせ: musica hall cafe 011-261-1787