ISEKIが追求する“自分らしさ”とは J-POPカヴァー集第2弾『AOR FLAVA -sweet blue-』

ISEKI   2017/08/23掲載
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 2015年にキマグレンとしての活動に区切りをつけ、ソロ・アーティストとしてスタートしたISEKIから、カヴァー・アルバム・シリーズ2作目となる『AOR FLAVA -sweet blue-』が届けられた。「J-POPの中のAOR風味の名曲をカヴァーする」というテーマを掲げた同シリーズ、今回は「RIDE ON TIME」(山下達郎)、「君は天然色」(大滝詠一)、「ふたりの夏物語」(杉山清貴&オメガトライブ)、など、80sのヒット・チューンを中心とした夏モードの楽曲を収録。4リズムによるシンプルで奥深いバンド・サウンド、豊かな倍音を活かしたヴォーカルなど、“ソロ・アーティスト ISEKI”の特徴が端的に示された作品に仕上がっている。ジャンク フジヤマを招いたオリジナル・コラボ曲「バブル・サマー feat.ジャンク フジヤマ」からも、AORに対するISEKIの独自の解釈を感じてもらえるはずだ。
――1stミニ・アルバム『AOR FLAVA -mellow green-』からわずか2ヵ月で新作がリリースされます。今回の『AOR FLAVA -sweet blue-』はテーマがさらに明確になってますね。
 「シンプルに“夏”ですね。キマグレンのときとは違う、ISEKIの夏を表現できたかなって。選曲に関しては、プロデューサーと話をしながら、シンプルに自分の好きなものを並べたという感じです。もちろん提案された曲もあるんですけど、前作以上に自分自身の好みが出てるんじゃないかなって」
――1980年代の楽曲が中心ですが、やはりこの時代のポップスがISEKIさんのルーツなんですか?
 「どっちかというと後追いなんですけどね。たとえばユーミンさんのことを知ったのは、〈Hello, my friend〉(1994年)なんです。それからベストを買って、過去の作品を遡って聴いて。達郎さんは〈いつか晴れた日に〉(98年)を最初に聴いたんですよね。だから、カラオケでもめっちゃ得意ですよ(笑)。杉山清貴さん、角松敏生さんは“音霊”や関連のイベントに出ていただいたこともあって、大変お世話になりました」
――日本のAORを支えてきた方々との関わりも大きいんですね。
 「そうですね。今回レコーディングに参加してくれたミュージシャンも、つながりのある方ばかりなんです。ドラムが佐野康夫さん、ベースが小松秀行さん――この2人はオリジナル・ラブにも参加してたんですよね――キーボードはJUJUなどもやっている草間信一さんで、ギターはアレンジもやってくれている鈴木俊介さん。この4人でセッションしながらレコーディングしたんです。完全にバンド・スタイルだし、みなさんすごく上手い人ばかりだから、その場でアレンジも決めて。〈ふたりの夏物語〉(杉山清貴&オメガトライブ)はラテン、〈中央フリーウェイ〉(荒井由実)はラヴァーズロック風にアレンジしているんですけど、“こういう感じはどうでしょう?”って言うと、バッと形にしてくれるんですよ。“レコーディングってこんなにワクワクするんだな”と思ったし、すごく楽しかったですね。スタジオのいい空気感が出ていると思います」
――緻密なアレンジと同時に、演奏の上手さもAORの条件ですからね。ちなみにISEKIさんはバンドの経験はあるんですか?
 「最初はバンドだったんですよ。高校生のとき組んでいたバンドで〈YOKOHAMA HIGH SCHOOL Hot Wave festival〉の決勝大会まで行ったんですけど、そのときもAORだったんです。その後はロック・バンドを組んで、レゲエのバンドをやって、キマグレンという流れで。だからソロになってAORをやってるのは、1周戻った感じもあるんです」
――なるほど。今回のアルバムの1曲目は山下達郎さんの「RIDE ON TIME」。言わずと知れた超名曲ですが、カヴァーしてみて、どんな発見がありました?
 「やっぱり歌がすごいんですよね、達郎さんは。同じようにアプローチしてもさすがに太刀打ちできなので、自分が好きなように歌いました。流れるような素晴らしいメロディなので、歌っていても楽しいんですよ。自分の好みにも合ってるなって改めて思いましたね」
――達郎さんは以前、ライヴのMCで「〈RIDE ON TIME〉のトップの音が出る限り、ライヴは続ける」と仰っていて。
 「だって、めっちゃ高いですから(笑)。しかも高い音が最初から最後まで続くから、達郎さんみたいに余裕で歌えないんですよ。大滝さんの〈君は天然色〉もすごく高いんですけど、下がる部分もあるから、まだ大丈夫なんです(笑)。〈君は天然色〉のアレンジは“ライヴで再現するなら、こういう感じでやりたい”というのがテーマだったんです。原曲にはいろいろな音が入ってるんですけど、4人のメンバーでやれることをやってみたという感じですね。そのためには楽曲を分析しなくちゃいけないんだけど、この時代の曲は本当によく出来ているので、勉強になります。たとえば〈中央フリーウェイ〉はちょっと変則的な転調をしていて、それがわかっていないと上手く歌えないんですよ。聴いてる分にはすごく自然なんですけど、かなり音楽的に緻密に作られているな、と改めて勉強になりました」
――個性的なシンガーの楽曲が揃ってますからね。岡村靖幸さんの「カルアミルク」のカヴァーも聴きごたえがありました。原曲のグルーヴを活かしながら、ISEKIさんのテイストもしっかり感じられて。
 「岡村さんの歌い方にも癖がありますからね。正確にピッチを取るよりも、響きの良さ、グルーヴが伝わるテイクを選んでいると思うし、それが岡村さんの独特な雰囲気につながっていて。いまは何でもキレイに修正できますけど、やっぱり良くないんですよね、あれは。僕もソロになってから、(レコーディングで)なるべくピッチを直さないようにしているんです。それよりも歌のニュアンスを大事にしたいと思うので。ちょっと音がズレていたとしても、ニュアンスが良かったり、気持ちよく聴こえればOKというか。カヴァーをはじめてから、いろんな気づきがありますね。〈カルアミルク〉をカヴァーさせてもらったときも、“岡村さんはやっぱり天才だな”って実感しましたし。こんな曲は絶対に書けないから、違う方向でがんばらないと……」
――ISEKIさんはやはりシンガーの意識が強い?
 「そうですね。曲を作るのもギターを弾くのも、目的は自分が歌うためですから。“歌手”“シンガー”というのが基本にあって、自分が歌いやすいもの、自分の歌の良さを活かせる曲を作るというか。歌だけで説得できるほどの技術もないので、ソングライティングでバランスを取っているところもあるんですけどね」
――オリジナル・コラボ曲「バブル・サマー feat.ジャンク フジヤマ」についても聞かせてください。山下達郎さんの優れたフォロワーであるフジヤマさんの良さがすごく活かされた楽曲ですよね。
 「ジャンク フジヤマらしい曲を作りたいと思って、彼が好きな要素を散りばめてみたんですよ。ベーシックは僕が作って、あとはやりとりしながら仕上げていったんですけど、基本的には“ジャンクをどう活かすか?”というプロデューサー的な立ち位置で。別にプロのプロデューサーではないんですけど、そういうポジションが好きなんですよね。“この人とこの人を組み合わせたらおもしろいだろうな”とか。セルフプロデュースの作品も作ってみたいんですけど、どうも自己満足になりそうな気がしていて……。きっと、そこまで自分のことを信用してないんでしょうね(笑)」
――カヴァー・ミニ・アルバムを2作リリースしたことで、ソロ・シンガーとしてのスタイルも見せてきたんじゃないですか?
 「正直、“まだまだだな”と思うことも多いですけどね。ライヴの集客もそうだし、もっとソロ活動を知ってもらわないといけないなって。ただ、ハマる人にはしっかりハマってるみたいなんですよ。キマグレンのときからのお客さんにも“ソロのISEKIもいいね”と言ってもらえているし、反応はかなりあって。自分としても“いい形で表現できるようになってきた”という手応えがあるので、それを信じてやっていくしかないなと思いますね」
――ライヴにおける歌の表現も向上している?
 「変わってきてるとは思います。ヴォーカルも安定してきてるし、“何を伝えたいか”“何を届けたいか”が明確になってきているので。場の空気になじむことも大事なんですよね。弾き語りのライヴのときは、その場の雰囲気に合わせて曲を変えることもあるし、楽しむことを第一優先にしたいなって。20代の頃はグッと集中して歌ってましたけど、いまは“集中し過ぎるのも良くないな”と思っているんです。それはメンタルのことだけではなくて、適度にリラックスしてないと声の倍音が響かないんですよ。声による空気の揺れや響きによって聴く人の感動が倍増すると僕は思っているので、倍音をしっかり出すことはいつも意識していますね」
――確かに井上陽水さんや山下達郎さんなどは、いい意味でリラックスして歌っている印象があります。
 「そうですよね。陽水さん、達郎さん、玉置浩二さん、田島貴男さんなどは異次元のレベルですから。僕は彼らのような天才ではないので、理論的に歌を認識してるんですよ。そこも少しずつやっていけたらいいなと」
――9月17日、18日は赤坂BLITZで〈Yamaha Acoustic Mind 2017〜THE SESSION〜〉に出演。9月30日からは全国ツアー〈ISEKI LIVE 2017〜COFFEE&SOUL vol.2〜〉が開催され、12月25日には横浜赤レンガ倉庫の3Fホールで〈AOR FLAVA〜毎日がクリスマス10th anniversary☆2017☆SPECIAL LIVE〜〉も。2017年後半はライヴ三昧の日々ですね。
 「キマグレンのときからずっとイベントを作ってきましたから、全部自分で組めるんですよね。自分はどういうジャンルのアーティストで、どういう人たちと一緒にやっていけばいいかも客観的に見れるし、ブランディングを含めて、自分で形にしていけるのは強味かな、と。僕はそこまで音楽的な人ではないと思うんですよ。そこを音楽に詳しい人たちに補ってもらいながら、音源、イベントを通して、自分らしい表現を提示している感覚だと思いますね」
――なるほど。次作のカヴァー・アルバムも期待してます。
 「はい。ちょっとだけ制作が遅れてるんですけど(笑)、がんばります」
取材・文 / 森 朋之(2017年7月)
AOR FLAVA
〜毎日がクリスマス10th anniversary ☆2017☆ SPECIAL LIVE〜

iseking.net/
2017年12月25日(月)
神奈川 横浜 赤レンガ倉庫1号館・3階ホール
出演: ISEKI
開場 18:30 / 開演 19:00
全席指定 前売 5,000円 / 当日 5,500円
※税込・入場時別途ドリンク代必要
※6歳以上チケット必要(6歳未満でも座席が必要な場合はチケット必要)
※3歳未満入場不可


チケット一般発売
2017年9月16日(土)10:00〜
チケットぴあ / ローソンチケット / e+

お問い合わせ
キョードー横浜 045-671-9911


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