神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席ソロ・コンサートマスターと京都市交響楽団特別客演コンサートマスターを兼務しつつ、ソロやさまざまなユニットで活躍しカリスマ的人気を集めるヴァイオリニスト、石田泰尚。とくに今年は、彼の呼びかけで2014年に結成された弦楽合奏団「石田組」の活動が例年に増して熱い! ユニバーサル ミュージックからリリースされる2枚のアルバムと27箇所をまわる全国ツアーで、クラシック・シーンを席巻する勢いだ。
――2014年に結成した石田組の活動が絶好調ですね。2017年に発売されて高評価を得たデビュー・アルバム『THE 石田組』(アールアンフィニ)に続く新作として、今年4月にユニバーサル ミュージックからリリースされた『石田組 2023・春』はサウンドスキャンの週間クラシック・チャートで第1位を獲得。以後もつねに上位をキープされていました。
「特典DVDとか、先着でオリジナル・ポストカードを付けたり、レコード会社がいろいろとがんばってくれたみたいで、ありがたいです」
――そして8月には、好評に応えて早くも2023年2枚目のアルバム『石田組 2023・夏』の発売が決定しました。これらはいずれも2022年8月19日に神奈川 ミューザ川崎シンフォニーホールで開催されたコンサート「石田泰尚スペシャル 第4夜《アンサンブル》四季」を音源とするライヴ・レコーディング・アルバムですね。
「ユニバーサル ミュージックさんからお話をいただいたとき、どうせ出すならライヴを一発録りしたアルバムにしたいと希望を伝えました。横浜みなとみらいホールもサントリーホールも好きなのですが、ミューザ川崎は昨年、無伴奏(第1夜:5月10日)、デュオ(第2夜:6月10日)、カルテット(第3夜:7月4日)、アンサンブル(第4夜:8月19日)、コンチェルト(第5夜:9月6日)と5ヵ月連続の“石田泰尚スペシャル”という企画をやってくれたので、やはりお客さんの盛り上がっている場所でレコーディングしたいと思ったのです。もちろんミューザは響きも最高ですし」
――バロックや映画音楽からプログレッシヴ・ロックまで、バラエティに富んだ選曲がこのアンサンブルの魅力のひとつ。『石田組 2023・春』にはレインボーの〈キル・ザ・キング〉やクイーンの〈輝ける7つの海〉に〈ボーン・トゥ・ラブ・ユー〉、エンニオ・モリコーネやチャップリンのナンバーと盛りだくさんです。
「選曲に関してはとくにこだわりがないというか……この曲が絶対弾きたい! というよりは“こんな曲どうですか?”って教えてもらったのを聴いてみて、とにかく自分でイイなと思ったらやってみようっていうスタンスです。編曲はアレンジャーさんが最高にカッコよく仕上げてくれました」
――劇中の有名な旋律が登場する「ニュー・シネマ・パラダイス」(モリコーネ)もすばらしかったのですが、個人的にはシベリウス作曲の「アンダンテ・フェスティーヴォ」が良かったです! どこかせつない感じもするし、感動的な“アンセム”を思わせる雰囲気もあって。石田組の硬派なイメージにもぴったり合っていると思いました。
「〈アンダンテ・フェスティーヴォ〉は会場の反応もいいかんじでした。リハーサルではみんなにとにかく美しく弾いてくれってお願いしました……その一言でわかってくれる連中なんです(笑)」
――『石田組 2023・夏』は自身のソロ・ヴァイオリンをフィーチャーした「ヴィヴァルディ:四季」(全曲)を中心とした選曲です。
「前回の公演のときミューザ川崎の主催側から“次回はぜひヴィヴァルディの四季をやってほしい”ってリクエストをいただいたので、演奏するのはCDの話よりも先に決まっていました。誰もが知っている超有名曲だけにかえって難しそうでしたが、春夏秋冬それぞれ聴きどころがいっぱいなのでチャレンジしました」
――おそらくオアシスの「ホワットエヴァー」にも、いきものがかりの「ありがとう」にも、特別な想い入れはなさそうですね。
「はい、おっしゃるとおりです(笑)。CMで使われていたり、ドラマの主題歌だったりするので、どこかで耳にしたことはありましたが。ただ、ロックやポップスのカヴァーに関しては、なるべく声のクセや歌い回しなど、歌い手の歌唱そのままを忠実に再現できたらいいなと思っています。なのでこの2曲もオリジナルを繰り返し何度も聴いて練習しました」
――現在、アルバム発売を記念した全国ツアー2023/2024の真っ最中。前回を上回る27ヵ所、全30公演で、8月のサントリーホールは追加を重ねて合計3公演が決定しています。ところで石田組は石田“組長”が信頼を置いている、首都圏の第一線で活躍するオーケストラの楽団員を中心にした精鋭たちによって構成されていますが、その顔ぶれは流動的で公演ごとに変わりますよね。
「もう、全然変わります。CDのメンバーがそのまま聴けるわけではない。でもどんな顔ぶれで演奏しても石田組としてのクオリティは揺るぎません……そういう人ばかりを選んでいるから。今後もメンバーは増えるかと思いますが、新たに入ってくる人は最初は石田組のやり方に戸惑うことも多いと思います。たとえばうちは、リハーサルとか長々とやらないんです。ゲネプロも一瞬で終わって、あとはヨロシクって」
――それはすごいですね。
「もっとも自分がOK出して楽屋に戻ったあとも、みんなは残って自主的にリハーサルを続けているらしいのですが……でもやっぱり、本番の緊張感とスリルを大事にしたいから。リハをやりすぎるより本番のために力をとっておくのがいいと思うのです」
――お忙しいですしね。コンサートマスターや石田組に加えてソロにデュオ、トリオ、カルテット……と。
「ユニットに関してはもうこれ以上増えたらヤバい。本当に今が充実しているので現状のままで長く続けたいです。とくにコンマスの仕事は経験の積み重ねなので、長く続ければ続けるほど良くなっていくと思います」
――では、全国の皆さんが楽しみにしていると思いますのでツアー頑張ってください!
「はい。会場ごとにスタッフが過去の公演をチェックして演目が被らないようにプログラムを組んでいるので、前回聴いてくれた方もぜったい楽しめるはず。ぜひ今年も会場に足を運んでください、お待ちしています」
――アルバムも今後“秋”“冬”と続いていくことを期待しています。
「はい、応援よろしくお願いいたします!」
取材・文/東端哲也