話題のTVアニメ
『ぼくらの』のオープニング曲「アンインストール」の大ヒットにより、世界最大のジャパニメーション・イベント“ANIME EXPO 2007”(LAにて開催)で名誉ゲストとして招聘され、海外でも着実にその存在をアピールした
石川智晶。彼女はコンポーザーの
梶浦由記と組んでいるユニット
“See-Saw”のメンバーとして93年にデビューし、2003年に石川知亜紀名義の初のソロ・アルバム
『Inner Garden』でソロ・デビューしている。そんな彼女がセカンド・アルバム
『僕はまだ何も知らない。』を発表。切なくもあり、スピリチュアルな歌心を持つ彼女に話を聞いた。
ポップ・ユニット“See-Saw”のヴォーカリストとしても活動している石川智晶から、2003年に発表した『Inner Garden』以来となるセカンド・ソロ・アルバム『僕はまだ何も知らない。』が届けられた。ここ数年はアニメーション作品とのコラボレーションの多い彼女だが、今作もやはり、TVアニメ『ぼくらの』が軸になっているという。
「『ぼくらの』のオープニング(〈アンインストール〉)、エンディング(〈Little Bird〉〈Vermillion〉)に向けて、かなりたくさん曲を作ったんですよ、今年に入ってから。『ぼくらの』は原作からも感じるところが多くて、その流れが今回のアルバムに繋がったという感じですね。ただ、アニメの内容にべったり寄り添ってるわけでもないんですよ。今回の場合で言うと、作品に出てくる14人の子供たちに加えて、自分のなかで“15人目の登場人物”をイメージする。その子が何を考え、どういう行動を取るのかということを曲にしていくことで、アニメからも外れず、自分のなかから出てくるものも表現できると思うので」
神聖なイメージをもたらすコーラス・ワークとテクノ・ポップ系のサウンドが一つになった「アンインストール」と並び、アルバム全体の世界観を端的に示しているのが、イノセントにして大らかな空気を持つラスト・ナンバー「アイルキスユー」。この曲にある“僕はまだ何も知らない情けない大人なんだよ”というフレーズは間違いなく、本作に込められたメッセージの中心になっていると思う。
「アルバムのタイトルを歌詞にはめているんですよね。『ぼくらの』もそうなんですけど、私が関わらせてもらうアニメって、未成熟な少年少女の話が多いんです。それは“僕”という人間がいろいろと模索しながら、一つの答えに行き着く。でも、次の瞬間には新たな問題提起があって、“僕は何も知らなかった”っていう葛藤であったり、“まだまだ先があるんだ”っていう希望を感じたり」
「
クランベリーズみたいな雰囲気でやってみよう」というアイディアから生まれたエレクトロ・ポップ「ミスリード」、“近未来のオーガニック・ダンス・チューン”とでも形容すべきサウンドが印象的な「house」といった楽曲もまた、本作の持つ豊かな奥行きを演出している。
「〈house〉は“聴くのがつらいんだけど、でも、何度も聴いてしまう”って言ってもらえることが結構ありますね。子供って、親との関係で傷つくことが多いと思うんですよ。でも、砂場で遊んだりするだけで、意外と耐えられてしまう。そういう悲しさを書いてみたいな、って思ったんですよ」
アニメ作品から派生しながらも、石川智晶というアーティストの豊潤な個性がしっかりと描き込まれた本作。繊細な感情をたっぷりとたたえながら、しかし、決して押し付けがましくない彼女の歌の世界をしっかりと堪能できる、きわめて優れたポップ・アルバムだと思う。
「表現できる場所を与えられたら、それを一所懸命やる。それだけですね、考えてるのは。アーティストのエゴは必要ないんですよ。いい曲を書けばそれでいいわけで、作品以外の部分において、今は自分の思いっていうのはなくてもいいと思ってるんですよね」
取材・文/森 朋之(2007年8月)