今、日本で最も多忙なドラマーといっても過言ではない
石若 駿。ベテランから若手、国の内外を問わず各方面からひっぱりだこの石若がセルフ・プロデュース作品
『Songbook』をリリースした。2013年から作曲に取り組み、多重録音によって制作されたこのアルバムには、自身もメンバーとして参加する
CRCK/LCKSのフロントを務める
小田朋美と小西 遼、現在
ceroのサポートとしても活躍する角銅真美、
菊地成孔プロデュースでデビューした“
けもの”のヴォーカリスト、青羊らが参加した“歌もの”アルバムだ。天才ドラマーとして誉高い石若が手がけた“Songbook”とは?CRCK/LCKSで活動をともにする、小田と小西に話を訊いた。
――今日は『Songbook』リリース記念ということで、お話をうかがいたいのですが、石若さん本人はスケジュールの都合で欠席です。そこで、CRCK/LCKSで活動をともにする小田さん、小西さんに今年の活動をふり返りつつ、石若さんのアルバムについてもお話をお聞かせいただければと。少々ムチャな企画ですが、よろしくお願いします。ではまずCRCK/LCKSのおさらいを。
小田朋美(以下 小田) 「今年1月にレコーディングして、4月に
アルバム・リリース、結成してからもう一年。あっという間ですね」
――そもそも結成の経緯はなんだったんでしょうか?
小田 「飲み会です。阿部さん(CRCK/LCKSマネージャー / Apollo Sounds主宰)が画策をして」
阿部 淳(以下 阿部) 「菊地(成孔)さんが不定期にやってるイベントがあって、そこに若手を出したいとリクエストがあったんです。その頃に留学先のアメリカから帰国した小西と会う約束をしてたんですね。そしたら小田が小西に会いたいと言ってきて。菊地さんのイベントの件もあったし、この2人ならいいんじゃないかと」
小田 「私は私で小西君に興味があって。ものんくるとか共通の知り合いが多くて、なんとなくFacebookでつながっていたんです。そしたらある日、小西君が夢に出てきたんですよ、実際にはあったこともないのに。なんか縁があるかもしれないなってライヴに行ってみたら、面白いことをやっていて。それで意気投合して、いつの間にか一緒にバンドをやっているっていう。夢もバカにならない(笑)。一回限りのセッションかなと思っていたんですけど、面白そうなのでもう少しやってみようと」
――ドラムの石若さん、ギターの井上 銘さん、ベースの角田隆太さんという豪華なメンバーはどうやって決まったんでしょう? 小田 「結成のきっかけになった飲み会は私と小西君、阿部さんの3人だったんですけど、その場で駿の名前があがったんです。あとは小西君が角田君、銘君にその場で電話やメールして捕まえたっていう」
阿部 「駿はその次の日にやりたいです!って返事がきた」
小田 「あんなに忙しい人なのにね。空いててよかったです。駿は同じ大学(東京藝術大学)なんですよ。
佐藤允彦さんの即興の授業があって、そこで会ってるんです」
阿部 「即興でずっとうがいをしているやばい女の先輩がいると思ったら、それが小田さんだったと(笑)」
――いつもはジャズ・フィールドで活動している皆さんですが、レコーディングはいかがでしたか?
小田 「今までほとんど一発録りで、あとはテイクを選ぶ、という感じのレコーディングが多かったので、あまり時間がかからなかったんです。でも、今回レコーディングしてみて、ポップスとして丁寧に作り込むとなると、すごく時間がかかることが改めてわかりましたね。あとやっぱり自分たちの強みはライヴだと思うので、ライヴ感を作品に落とし込んでいくのは難しいことでした。やっぱりポップスって繊細な作業なんだなって」
CRCK/LCKS
小西 遼(以下 小西) 「たしかにライヴの勢いを作品化するのは難しいですね。そのまま録音したらただのジャズ・アルバムになってしまうし」
小田 「歌やサックスのテイクはものすごく録り直しましたね」
小西 「そこは相当気をつかったね。でもやっぱり音色だと思う。1枚目にしてはいいアルバムができたと思っているけど、ポテンシャルとしてはもっといいところが引き出せるというか、もっと工夫できるね」
小田 「音色はオリジナリティとして大きいと思った。今、ceroのツアーに参加しているんですけど、彼らは音楽の質感に対してすごく敏感で。改めて音色や質感にもっとこだわりたいと思いましたね」
小西 「曲のフォーマットを作ることはバンドとしては問題なく、曲の方向性とグルーヴの形さえ見えていれば作れるんですけど、そこからもう一歩踏み込んでCRCK/LCKSらしい音にしていくっていう作業がもっと必要になるかなって。今は手元にあるものだけでやっていて、それはCRCK/LCKSの土台になってきたけど、それだけじゃ足りなりくて。次のアルバムとか曲をつくるときに、これがあるからこれで作るという段階は終ったかなと」
――ライヴの手ごたえは?
小西 「ツアーで自信がついたね。やればやるほど、客をどうやってつかんだらいいかとか、セットリストや曲調のこととかがわかってきた」
小田 「今回は名阪だけだったけど、もっといろんなところを回りたいよね」
小西 「リリース・パーティまではこれまでの手の内でやってたけど、これからは1枚目のアルバムと、1年間の活動期間っていうストックができたから、そこからもう一段上が見えてくると思う。そういう1年だったかな」
――実り多い1年だった?
小西 「実りばっかりですよ。別のインタビューで“反省の1年です”って口すべらしたんだけど(笑)。それは勉強することが多い1年だったからこそ、もっとこうしたいっていう反省もあったわけなんです」
小田 「反省というか、こうしたらこうなるのかって思うことが多かった。たとえばライヴのとき、スタンディングで盛り上がってほしいと思っていても、会場によってはテーブルがあってみんな座ってしっとりしてるってところもあって。だけど持っていきかたでよくなるし。ライヴはほんとに日によってお客さんも違うし、同じ曲やっても盛り上がり方は全部違う」
小西 「音楽は生き物だよね」
――CRCK/LCKS以外の活動も多かった1年かと思います。
小田 「そうですね。もともとみんな、それぞれのプロジェクトがありますしね。小西君は象眠舎(ラージ・アンサンブル)もあるし、角田君は
ものんくる、銘君もいろいろやってるし。私は以前から三味線の
高橋竹山さんと活動をしていますが、最近、ceroのサポートをやっています。あとは映像やCM音楽の制作の仕事を始めて、作曲が仕事のなかに多く入ってきました。でもやっぱりライヴがいちばん楽しいですね!どんなに忙しくてもライヴがあるから生き返られることができています。どのバンドでもライヴは楽しいです」
――ではそろそろ石若さんのアルバムのことを。このアルバムに参加している角銅真実さんと小田さんはceroのツアーで一緒なんですね。
小田 「そうです。ceroでは角ちゃんはパーカッションとコーラス担当。声が素敵ですよね」
小西 「この1曲目なんて何回聴いたかって……めちゃくちゃいい!」
小田 「角ちゃんは駿の打楽器科の先輩なんですよ」
――このアルバムは足かけ3年、コツコツ作り続けていたそうですが、参加された小田さん、小西さんはご存知でしたか?
小西 「僕は知ってました。僕のレコーディングは去年の冬ですから。そのときには1曲目も5曲目もできてたから、だいたいできていたんじゃないかな」
小田 「このアルバム、なにがやばいって駿のピアノがうまいっていう……」
小西 「ピアノうますぎる!」
小田 「もう、なんだよって(笑)」
小西 「それからやっぱりポップ・センス。J-POPじゃない、彼なりのポップというか。女性歌手の使いかたもそうだし、女性シンガー・ソングライター的なところを感じるかな」
小田 「駿の曲はコードの使い方が独特でエグイ。メロディも歌の人たちにしてみたら、けっして歌いやすいものじゃないんです。そう意味ではポップっていうか……」
小西 「めちゃくちゃむずかしいよね」
小田 「でもじゃあメロディが器楽的で歌いづらいかっていうと、そうではなくて。いったん身体に入ってくると、あ、こうだよねって思えるんです」
小西 「僕はこれを勝手に“冬の映画のサントラ”って思ってるんです。駿はそういう空気感を作るのがすごいっていうか。僕はポップ・ミュージックっていうと、どれだけその人に身近であるかってことだと思っているんです。いわゆるポップ・ミュージックは、自己投影しやすいというか没入しやすいじゃないですか。個人的には自分に近い音楽だと思えるんで、ポップネスというか景色を感じられるというか。このきれいな景色を思わせるのがたまんないですね。形容しがたいんですよ、このアルバム。しかもいいのが、クラクラはミックスにすごく時間をかけたんですが、これはざっくりしている」
小田 「っていうかそもそも〈Christmas Song〉に歌入れてくださいって言われて、仮だと思ってたんです。それでうちで録ったテイクを送ったら、それがそのまま使われてた!こんなCD作ってるのも知らなかったんで、ちょっと入れてほしいって感じだと思っていたら、いつの間にかCDになってた(笑)」
石若 駿
小西 「今回のアルバムでいちばんいいのはその感じだよね。凝り始めたらこの少人数で作る意味がなくなっちゃう。もっと音、増やしたくなるだろうし」
小田 「自宅でラフに録ったやつがけっこうよかったりしてね」
小西 「そう。それをいいって言える駿の感じ、考えてるのか考えてないのかわかんないけど、そのセンスはすごいなと思った。僕だったらもっとミックスいじると思いますから(笑)。駿は直感的にやったんだろうな。僕、このアルバムが好きすぎて、聴くたびに歌詞の一部を駿にメールするんですよ。そしたらその続きを駿が戻してきたり(笑)。駿はどこまで続けられるかわからないですけど、できるだけすべてのことがやりたいんだって思います。“NO”を言わないで、面白いと思ったことすべてをやりたいんだと思う。だからこのアルバムが作れるのかな。ただのドラム小僧だったら、こんなサウンド・センスのアルバムは作れないですよ」
小田 「私はいつも詞に連れていってもらって曲を書くことが多いんですが、これは逆に曲が最初で、メロディに言葉がいい形で連れていってもらってるなって。角銅さんの歌詞も青羊さんの歌詞もそれぞれいいですよね。〈Christmas Song〉は最初からタイトルがついていて、クリスマス感のある曲なんだけど、最初に聴いたときに、これは振られてるんだろうなって。ちょっと滑稽で切ない。メロディきいたらすぐ歌詞ができた。親しみやすくてわかりやすいメロディではないけど、引き出してくれる曲だなって」
小西 「強力な引力があるよね」
小田 「ジワジワくるんだよね」
小西 「〈Christmas Song〉は自分になじむまで時間がかかったかな。でも〈Asa〉の音もらって聴いたら最初の5秒くらいでノックアウトされた」
小田 「余談なんですけど、最近ceroの現場で私と角ちゃんのシンクロ率がすごくて。色んなことのタイミングから始まり、感情の動きとか、ちょっとここでは話せないようなところまで被ってたり(笑)。角ちゃんの声を含め歌には、すごくシンパシーを感じています。って個人的なことは別としても、このアルバムに参加されている歌手の皆さんの声ってすごく温かくて、でもちょっと寂しくて、やわらかな引力がありますよね」
小西 「さっき自分の近さっていう話をしたから、ちょっと矛盾しちゃうんだけど、僕にとって角銅さんは“青春の幻影”なんだよね。そういう人の言葉がありありと歌詞に載って、今は近くにいないけど、そのリアルさを感じて」
小田 「“しめられた首があたたかい”ってやばいね」
小西 「やばいでしょ!俺まだ一回もあったことないんだけど。写真もみてるし、繋がりまくってるんだけど、でも会いたくないんだよね」
小田 「会ったら絶対好きになるよ。でも生ナマしいのではなくて、幻影であってほしいと」
小西 「幕の向こうにいてほしい」
小田 「たしかにさっきサントラっていう話が出たけど、フィルム感ありますよね」
小西 「それがいいんだよね。このジャケットも見事に世界観をとらえてるし。あと〈ジョゼ〉を聴いたとき思ったのは、
スティーヴィー(・ワンダー)が好きなんだなって。それを隠さず、へんに凝ったことをしないところがいいなって思った」
小田 「あの、ちょっと自分でもよくわからないんですけど……。このアルバムを聴いたり眺めていたりしていると、私、なにかと結婚したいって思うんです。男性というより、“なにか”と結ばれたいって」
小西 「距離感を描くのがうまいよね。このアルバム、好きすぎてあんまりいいこと言えないんです(笑)」
石若 駿
――では最後にCRCK/LCKSの来年は?
小西 「個々に活動している5人が集まっても、それぞれの音になるんじゃなくて、クラクラになるっていうのがいいかな。俺がリーダーだから俺に準拠した音楽をしろっていうのではなく、5人が混ざり合うのがいいかなと」
小田 「それは強みにも弱みにもなり得るけど、プラスに捉えて発展させていきたいよね」
小西 「そうだね。これからもっと変わっていくと思うよ」
小田 「あとライヴをもっとやりたいね」
小西 「やる度に楽しくなるんだよね。今年ここまできたことを次のフェイズにもっていくことかな、リーダーとしては。みんな忙しいけど、やっていきたい」
小田 「それを実現するためにはまず日程をおさえることだね(笑)。ほんとにCRCK/LCKSはやればやるほどハッピーなんですよ」
2016年12月21日(水)
東京 青山 月見ル君想フ開場 18:30 / 開演 19:00
前売 3,000円 / 当日 3,500円(税込 / 別途ドリンク代)
ぴあ(P 314-095)[出演]
吉田ヨウヘイgroup / TAMTAM / CRCK/LCKS / WONK
[DJ]
大石 始 / 柳樂光隆
※お問い合わせ: 月見ル君想フ 03-5474-8115