MCとしてコンスタントにフル・アルバムをリリースし、ビートメイカー / DJとしても精力的に活動。さらにはMCバトルでも輝かしい戦歴を残す――そんな離れ業をやってのけるラッパーはそうそう多くはないが、
ISSUGIはまさにそうして自身の才能を開花させているラッパーだ。彼のニュー・アルバム
『DAY and NITE』はブルックリン在住の盟友ビートメイカー、
Gradis Niceとの共演作。2人の個性が火花を散らす、聴きごたえも十分な重量級のアルバムとなった。
――相変わらず多忙ですよね。まず、今年の2月にはISSUGI&JJJ名義の『LINK UP 2 EXPERIMENT MIXTAPE』というミックステープ音源をフリーダウンロードで公開されました。 「Jのビートはいつもスタジオとかでも聴かせてもらってたし、俺もいつもリリックを書いてるんで、スタジオで遊びながらJのビートで一曲録ってみて、その日のうちにSoundCloudで上げちゃうということを何回もやってたんですよ。そうしたらそれが面白くなってきちゃって。最初は販売しようとも思ってたんですけど、ああいう形のリリースになったんです」
――Jさんや彼が参加しているFla$hBackSの面々だったり、90年代生まれの世代がすごく活躍してますよね。 「すごくいい刺激になってますね。格好いいやつらが注目を集めてるっていうのは単純に嬉しいし」
――シーンにおけるISSUGIさんの立ち位置や役割が変わってきた部分もあるんじゃないかと思うんですが、そういう意識はあります?
「そうなんですかね? 俺、自分が客観的にどう見られているか分からない人間なので……ちょっと想像ができないですね(笑)」
――周りの声で自覚することはないですか?
「うーん、どうなんすかね。自分としてはいい曲、いいビートを作りたいなと思ってるだけで……周りのやつらとか普段曲聴いてくれてるような人達はどう思ってるんだろう? “服がデカいヤツ”と思われてるんじゃないですかね(笑)」
――あと、今年の1月から毎月違ったビートメイカーと曲を制作し、7inchとして12ヵ月に渡って限定リリースするというプロジェクト〈7INCTREE〉が始まってますけど、やってみてどうですか?
「忙しいけど、単純におもしろいですね。毎月違うビートメイカーとやれるというのもおもしろいし、普段のアルバムの作り方とは全然違うので。7inchを毎月出せる機会もなかなかないし」
――データではなく、7inchっていうのが意味がありますよね。
「自分自身、レコードも好きなんで嬉しいですよね。あと、毎回モノとして残るのがいいなと思って」
――それと、8月にはMCバトル〈KING OF KINGS 2016〉の東日本予選を制覇されました。
「勝ててよかったなという感じっすね。でも、予選なので」
――バトルMCとしては5〜6年休んでいて、去年復活されたわけですよね。いま現在、MCバトルについてはどういう意識で臨んでるんですか?
「“いいフリースタイルをやりたいな”というのが一番デカいですね。まだ日本人があんまり聴いたことのないフリースタイルというか、テレビじゃ流れないフリースタイルをやりたい」
――フリースタイルをやれる場があれば、必ずしもMCバトルじゃなくてもいい?
「そうですね。自分のことを“バトルMC”と文面上で紹介してくれる人も最近いるんですけど、そういう意識も全然ないし。いちラッパーとして、フリースタイルも出来るからやってやるよって感じですね。フリースタイル自体は毎回のライヴでほぼ必ずやってるし。あと“バトルMC”って響き単純にダサくないですか? 俺はラッパーでいいです」
――2017年1月8日にはディファ有明でファイナルが行なわれるわけですけど、意気込みのほどは?
「もちろん勝ちたいすね(笑)。勝ちたいというか、“こっちでしょ!”というところを見せたい。誰が相手だろうと、そこは変わらないすね」
――そして今回の新作『DAY and NITE』なんですが、全曲がGradis Niceさんのビートですよね。彼と初めて会ったのはいつごろのことなんですか。
「たぶん2009年ぐらいだと思います。Gradis Niceが大阪から東京に出てきた時期、池袋のBEDっていうクラブで会ったのが最初だと思いますね」
――2010年のISSUGIさんのアルバム『THE JOINT LP』ではすでにGradis Niceさんが参加されてますよね。急速に意気投合した? 「そうですね。実際に会う前から俺はGradis Niceのことは知ってて、彼のビートはその頃から好きだったんですよ。だから、Gradis Niceのビートでアルバム一枚作るというアイディアはかなり前から自分の頭のなかにはあって。なかなかタイミングがなくて今になっちゃったという」
――これまでもいろんなビートメイカーと一緒にやってきたわけですけど、Gradis Niceさんのビートの特徴はどういうものだと思います?
「どうしようもなくソウルフルなところがありますよね、それは彼のDJミックスからも感じるんすけど。あと、ゴツいドラムとのバランスがすごく格好いいと思いますね。ソウルフルなだけじゃなくて、ガッシリしてて弱々しくない。あと、都市っぽいところもあるっすね、アーバン感」
――それはブルックリンの空気感ということ?
「いや、大阪にいたころからその雰囲気はあったと思う。ブルックリンに移ってからトラップのビートも作るようになったし、向こうに移ってから変化した部分もあると思うけど、根っこのソウルフルな雰囲気は変わらないっすね。あと、Gradis Niceがどう思うか分からないけど、自分の友達の大阪のビートメイカーに関しては共通してソウルフルな雰囲気があるような気がするんすよね。
DJ Scratch Niceにしてもそうだし、彼らが大阪時代に仲良くしていた
Coe-La-Canthというクルーもそうだし、Gradis NiceとScratch Niceの2人が作り出してきたものかも知れないんですけど、街自体にあるのかなと思って」
――16FLIP名義で作ってるISSUGIさんのビートもすごくソウルフルですよね。東京と大阪の“ソウルフル”はちょっと違います? 「
5lackや
Buda(munk)くんのビートもソウルフルだと思うんすけど……言葉では説明しづらいですね。東京と大阪のソウルフルさはまた少し違うと思います。結局そういう部分って人とか街が作り出すものだと思うので、人柄や喋り方、大阪弁ひとつとってもそうだし、なんか柔らかさがあります。何回も行ってるけど大阪には特有のものがありますね」
――じゃあ、Gradis Niceさんのビートの上でラップする時にも独特の刺激があります?
「そうですね。自分のbeatでやるのじゃ出せない雰囲気も勿論あると思います、相性も良いと思うし。そう言ってくれる人も実際多いですね」
――それは感じますね。全体がグルーヴしてるというか、ウネッてる。
「本当すか。それは嬉しいですね」
――あと今回もそうですが、ここ最近のアルバムはすべて“ISSUGI&●●●●●”という名義ですよね。
「そうそう、絶対タイマンという(笑)」
――タイマンという図式を全面に出してる理由は?
「ひとりのビートメイカーでまとめてるアルバムが好きだというその一点のみですね。『THE JOINT LP』みたいにいろんなビートメイカーとやるのも好きなんですけど、ひとりのビートメイカーとやるほうが落ち着くということはあるのかもしれない」
――落ち着く?
「いろんなカラーでまとめたものもいいんですけど、一枚のなかで流れがあって、それぞれの曲がグラデーションみたいに繋がってるアルバムが好きだし、ひとつのカラーとしてまとめられるので何か落ち着くんすよ」
――ビートメイカーごとにビートのカラーは違うわけで、そこに乗るラップのフロウやテンションも当然変わってきますよね。
「もちろん変わってきますね。Budaくんのビートでやるときは自然と声が低くなってるし。Gradis Niceのビートはノリがデカくて豪快なんですよ。だから、ラップのノリもデカくなってくる。特定の拍があるとすれば、そのなかでどれだけハミだして、でも戻ってくる感覚というか」
――ビートに対してキチッと乗っていくだけじゃなくて、揺れも含んだ乗り方というか。
「そうっすね。揺れるんだけど、最終的にはキチッと戻ってくるポイントがあって、そこの幅をどれだけデカく作れるか。ビートメイカーにしてもラッパーにしても、そういうデカいノリを作れるヤツは人の身体を揺らすことができると思うんですよ。たとえタイトなビートに乗っかったとしても、ラップのノリをデカくして全体をグルーヴさせることはできるし、そういうことをできるラッパーが俺は好きで」
――Gradis Niceさんとの作業はどうやって進めていったんですか。
「もともとGradis Niceからはビートを送ってもらってて、気にいったものを溜めてたんですよ。あと、DJ Scratch Niceとのアルバム(2015年の
『UrbanBowl Mixcity』)を出した後ぐらいからGradis Niceとの作業を具体的に始めていて、新しいビートもドカッと送ってもらってたんですね。そのなかから選んだ感じですね」
――Jさんとのアルバムは日常的な作業の延長上に作られたものでしたよね。でも、Gradis Niceさんとは東京とブルックリンでデータを交換しながら制作を進めていったわけで、そこに違いはない?
「ないといえば、ないですね。今回のアルバムにしてもJにミキシングをやってもらった曲もあるし……」
――制作陣が重なってるということですよね。それぞれのアルバムがグラデーションみたいに繋がってる。
「ああ、それはあるっすね。俺の音楽ってほとんどそういう感じだと思うんですよ。繋がってる日常ですね。リリックの中にも“確か12時過ぎからBudaのPlayそれまでにJのbeatsもCheckして”っていうのがあるくらいなんで」
「そうっすね、いつもの友達って感じすね(笑)。昔からずっと一緒にやってるヤツら。知ってるラッパー。そこに関しても今までのアルバムと繋がってるところはあると思います」
――あと、ISSUGIさんのアルバムの特徴として、イントロがあってアウトロがあって、アルバム・トータルをどう聴かすかということが毎回意識されてるように思うんですよ。
「そこは無意識なんですけど、作ってるうちにそういう風になってきますね。毎回流れは大切にしてるし、曲順も今回俺が決めさせてもらいました。やっぱりせっかくアルバムで聴いてくれるなら、一曲だけとは違う感覚でアルバムで聴かせたいなと思ってるので」
――データで一曲単位で聴くというスタイルがひとつのスタンダードとなっているなかで、ISSUGIさんが今回のようなどっしりとした聴き応えのあるラップ・アルバムを作り続けていることが素晴らしいと思うんです。今回もアルバム一枚として聴く楽しみがありますよね。
「嬉しいすね。ただどっしりしたのを作ろうとは思ってないんですけど、俺がやると自然とどっしりしちゃうんすよ(笑)。多分一貫してるから。もちろん俺も一曲単位でデータを買うことはあるし、そういう聴き方がダメだとは全然思わないんですけど、CDでモノで欲しくなるアルバムってあるじゃないですか? 本当に好きなアーティストの作品とか自分もやっぱりCDで欲しくなるし。そいつのアルバムだけは気づくと毎回モノで買ってるっていうヤツがいるから。CDで買わないと盤面がどういうデザインなのか、ケースを開けたところにどういうデザインになってるか、そういう細かいことが分からないし、単純に見るのが楽しい。しかもそういうの見ながら聴いてる方がそいつの考えとかが伝わってくる気がして(笑)。俺の場合、ほぼ毎回ジャケや盤面のデザインも自分でやってるんで、そういうこともあって毎回どっしりしちゃうのかもですね(笑)。アートワークも全部合わせてアルバムなので」
取材・文 / 大石 始(2016年11月)