韓国のグループの日本進出が相次ぐ中、昨年12月のプレ・デビュー・ミニ・アルバム
『I□U』の発表を経て、18歳の若き女性シンガー、
IU(アイユー)が日本デビューする。素朴で愛らしいルックスから発せられるヴォーカルは、明るさと切なさを巧みに表現し、実に伸びやかで艶がある。ダンス・グループの多い韓国の音楽シーンにおいて、IUはその歌声で多くのリスナーを魅了してやまないホンモノの実力を持つ女性シンガーなのだ。そんな彼女の日本デビュー曲
「Good Day」は、ストリングスの音色が印象的な、爽やかなメロディが響くポップ・チューン。魅力溢れるIUに、新曲の話題を中心に話を聞いていこう。なお彼女は今回のインタビューに習い始めて6ヵ月だという日本語で答えてくれた。
――IUさんは、小さい頃から音楽に興味を持ってたんですか。
「ハイ、私のお父さんが大の音楽好きで、子供の頃からよくカラオケに行ってました。私も音楽がすごく好きで、中学1年のときに、私の夢は歌手になることだと思いました」
――体育の授業のとき、ふざけていて先生に怒られて、みんなの前で歌ったことがきっかけで、歌手になりたいと思ったという話は本当なんですか?
「ハイ、そうなんです(笑)。人前で歌うのがとても楽しいと思えたんです」
――とてもユニークなきっかけですね(笑)。では、どんな音楽が好きでしたか?
「
GUMMY(コミ)さんの音楽がすごく好きで、R&Bやバラードが好きになったんです。あと、キム・グァンソクさん、ハリムさん、イ・ソラさんの歌は今も好きでよく聴きます」
――やはり、歌が上手いアーティストの方が好きなんですね。欧米のアーティストでは?
――日本の音楽で好きなものはありますか?
「アニメの音楽が好きです。ジブリの音楽も好きですね。今、アニメは 『夏目友人帳』と『フルーツバスケット』を観ていてどちらのエンディング・テーマも好きです。歌手だと、
中島美嘉さんの<雪の華>が好きで、カラオケで歌ったことがあります。あと、
宇多田ヒカルさんと
新垣結衣さんの声と歌が好きです」
――IUさんは、2008年、ミニ・アルバム『LOST & FOUND』で、中学3年のときにデビューしました。デビュー前は20回近くオーディションを受けてやっと合格したそうですが、それだけ歌手になりたい思いが強かったんですね。
「ハイ。ただ、性格がすごくポジティヴなので、オーディションに落ちてもあまり悲しくなかったんです。オーディションが面白かったので、結果よりオーディションに行くこと自体が楽しかったんです」
――落ちてもドンドンいこうという前向きさだったと。さて、IUさんの一番の武器はやはりヴォーカルですが、歌うときに最も心掛けてることは何ですか。
「まず歌詞のことを考えます。歌詞の主人公になりきって演技をするように歌いますね」
――IUさんは弾き語りもされますが、ギターを始めたきっかけは?
「プロデューサーさんに勧められたんです。難しかったけど、先生が面白い人だったので大丈夫でした(笑)」
――(笑)。作家さんの曲を歌うだけでなく、ご自身で作詞作曲も手がけていますが、普段から曲作りはしてるんですか?
「時間があるときはします。自分で作るときは、ますコンセプトを決めてから進めていきます。今も、甘い感じの曲を作ってますよ」
――韓国では、まず「BOO」や「マシュマロ」といったポップな曲で人気を集めましたが、そのときはどんな思いがありましたか?
「踊るのが苦手なので、ちょっとスランプぎみでした(笑)。やっぱり、アコースティックな曲やバラードが歌いたかったです」
――
2AMのスロンさんとのデュエット曲「小言」がヒットしたときは嬉しかったと思いますが。
「音楽チャートで初めて1位を取れてホントにビックリしました。“私が1位になれるんだ”って。スロンさんのファンのみなさんのおかげですね」
――IUさんの歌の魅力もあったと思いますよ。
「ありがとうございます。スロンさんと私の声の相性もよかったと思います。ただ、2人ともちょっと恥ずかしがり屋で、音楽番組で顔を見て歌うのが難しかったです(笑)」
――では、日本デビューが決まったときはどんな気持ちでしたか?
「ドキドキしました。今もドキドキですね。日本語は難しいから、頑張らないとって思ってます」
――オーチャードホールでの初のショーケース・ライヴで、オーケストラをバックに歌ったときの感想を聞かせてください。
「歌と演奏が上手くハマったので気持ちがよかったです。いつかオーケストラで歌ってみたいと思っていたので、すごく嬉しかったです」
――とても素敵なライヴでした。日本のお客さんにはどんな印象を持ちましたか?
「韓国のお客さんはエナジーが強いし男の人が多いんです。でも日本では女の人が多いし、しっかり歌を聴いてくれてるなって感じました」
――そして「Good Day」で、ついに日本デビューを飾りますが、この曲は韓国で大ヒットし、IUさんの人気を決定づけた曲です。最初に聴いたときどんな印象がありましたか?
「本当にいい曲だと思いました。でも、あんなにヒットするとは思わなかったです。私の一番のブレイク曲なので、日本語で歌って、日本のファンのみなさんに喜んでもらえるんじゃないかなと思いました」
――日本語バージョンになって、歌詞の内容が変わったんですよね。
「韓国バージョンは“雪”って感じがするんです。でも日本語バージョンは“春”って感じがします。私も不思議なんです。それは、韓国バージョンの歌詞では“別れ”を歌っていて、日本語バージョンは“告白”を歌っているからだと思います」
――そうなると歌い方も変わりますよね。
「そうですね。韓国バージョンでは悲しい気持ちで歌うけれど、日本語バージョンでは、告白の恥ずかしさが歌に出てると思います」
――日本語の歌詞で、気に入っているフレーズは?
「“あのね”や“えっとね”とかが可愛いですね」
――サビのキメのフレーズ“ナヌンヨ オッパガ チョウンゴル”(私はあなたが好きなの)という韓国語を残してますが、すごくいいアクセントになってます。
「歌詞の主人公は、それまで自分の気持ちを言葉にしていないんですけど、この部分に一番正直な気持ちが表れていると思うんです。このフレーズ自体気に入っていますし、心を込めて歌っています」
――そして“3段ブースター”と呼ばれる伸びのあるハイトーン・ヴォイスは、すごくインパクトがありますが、練習はどれくらいしたんですか。
「それが2回くらいでできちゃったんです。ちょっと難しかったけど、作曲家さんから“これくらいは大丈夫でしょ?”って言われて、自分の挑戦心がくすぐられて“よし、やってみよう”と思いました」
――ファンの人が歌うとしたらどんなアドバイスをしますか?
「成功したらみんなから誉められるし、失敗しても笑いがとれます (笑)。とにかく一生懸命歌うことが大事です」
――タイトルの「Good Day」に掛けての質問ですが、最近“今日はいい日だ”と思ったのは?
「日本に来てから、ずっと“いい日”でした。生放送や雑誌撮影も面白かったし、あと食べものが美味しいです(笑)」
――何が一番美味しかったですか?
「お寿司が一番好きです。あと、しゃぶしゃぶ! お好み焼きもケーキも、みんな美味しいです。牛丼も美味しかったです(笑)」
――(笑)。あと個人的に思うのが、IUさんは韓国のメジャーの音楽シーンと、アコースティック・ミュージックが多いインディ・シーンを繋ぐ存在のように感じます。ご自身ではどう思います?
「私は、メジャーの音楽も、インディの音楽も好きなので、そのように評価してもらえるのはすごく嬉しいです。チャン・ギハさんや10cmとか私もよく聴きますよ」
――では、日本での活動でこれからやってみたいことは?
「ライヴをたくさんやりたいですし、もう一度オーケストラと一緒に歌いたいです。あと、バラエティ番組にも出たいです(笑)。でも、まずは<Good Day>をたくさんの人たちに覚えてもらえるように一生懸命頑張るので応援してください」
――お話を聞いていると、IUさんはチャレンジ精神が旺盛な人だなと思いました。
「そうですね。まだ若いので(笑)」
――(笑)。今までいろんなジャンルを歌ってきましたが、これからも幅広く歌っていきたいという気持ちはありますか?
「あります。いろんなジャンルが好きなので。ただ、ヒップホップとロックはできないですけど(笑)。長く活動して、ずっと歌い続けていきたいです」
取材・文/土屋恵介(2012年3月)