ヒプノティックな詞にフロア・ライクなサウンド 現在のジャック・ペニャーテを映し出した“正式なファースト・アルバム”

ジャック・ペニャーテ   2009/07/02掲載
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 これが本当にあのジャック・ペニャーテ(Jack Penate)なのか? 軽快にステップを踏んでギターをかき鳴らし、ワンマン・ビート・コンボのようなステージを見せていた、あのジャック・ペニャーテなのか? セカンド・アルバムの到着を首を長くして待っていたリスナーの中には、あまりにファースト『マチネ』とかけ離れた仕上がりにそんな驚愕にも似た反応をする人も少なくないだろう。ポール・エプワース(ブロック・パーティーマキシモ・パーク他)がプロデュースで関わった『エヴリシング・イズ・ニュー』は、フロア・ライクな側面を持ちつつも、たやすくライヴで再現できないようなオブスキュアで壮大なサウンド・スケープを描いた一枚。一体、ジャックの心境にどのような変化があったのだろうか? 




Photo by ALEX STURROCK
――新作でのドラスティックな変化には本当に驚かされました。あなたにとって、このセカンド・アルバムとファースト『マチネ』との連続性はどの程度あると言えますか?
(ジャック・ペニャーテ/以下同) 「正直、音楽的な連続性はほとんどないよね。実際、まったく別物だと考えてくれてもいいと思う。もちろん、僕自身が作っている作品に違いはないわけで、そういう意味ではつながってはいるんだけど、正直言って、ファーストは僕にとってリリースした段階ですでに“過去”のものだったんだ。10代の頃に書いた曲をまとめたものであって、必ずしも“現在”の自分を映し出したものではなかった。そういう意味ではファーストを出すことは恥ずかしいことであり、早くこのセカンドを作りたかったんだ。むしろ、このセカンドが僕の正式なファーストという感覚かな」
――ファーストはビート・コンボ的な側面の強い作品で、ステップを踏みながらステージに立つようなエンターテイナー的な顔を伝えてくれる一枚でもありました。ある種の固定化されたそういう自分のイメージから離れたくなっていたというのもありますか?
 「それは間違いなくあると思う。確かにああいうステージングは昔からよくやってきたし、オーディエンスと一体となって盛り上がるのも嫌いじゃないけど、今の僕はちゃんとバンドと一緒に一つの世界を描くような演奏に興味があるんだ。言ってみれば、ファーストは僕のソングライティングがストレートに生かされたアルバムで、今度のはヴォーカリストとして、あるいはクリエイターとしてのセンスが試されるアルバムって感じかな」
――実際、この新作の曲を実際にライヴで再現していくのはそうたやすいことではないですよね? それだけ表現力も試されます。
 「そうなんだよ。そのためにリハーサルも積まなきゃいけないし、オーディエンスにちゃんと伝えていくための技術や表情も身につけなきゃいけない。前みたいに勢いとノリだけで楽しませるようなライヴとは違うスタイルだからね。今回のアルバムの曲はパキッとわかりやすいコード進行とかメロディ展開で楽しむようなものじゃないだろう?」
――ええ。メジャー・キーもほとんど使用していないですね。
 「ああ、まるで別人のアルバムと言われても仕方ないくらいの大きな変化だよ、確かに(笑)。今回は曲を楽しむのではなく、音の雰囲気を味わうようなアルバムだからね」



――ただ、とくにアルバムの後半には、南米やアフリカ音楽の持つ躍動的なムードやリズム感がかなり出ていると思います。
 「ああ、その通りだよ。実際、デビューしてからというもの、僕はフェラ・クティドクター・ジョンのような音楽をずっと聴いていたんだ。その影響が出ていると言っても過言じゃないと思う。でも、それは音楽的な部分だけではなく、歌詞においてもすごく感化されたんだよ。今回の僕のアルバムの歌詞は、なんというか、言ってみれば、ヒプノティック(催眠的)な内容になっていると思う。たとえば南米の音楽にはヒプノティックな感触の歌詞が多いんだよね。強い意志を反映させつつ、それをダイレクトには伝えずに緩くトランスさせながら伝えていくような。僕の今回のアルバムの歌詞もそういう歌詞になっているんだ」
――私の手元にはまだ歌詞が届いていないのですが、具体的にはどういう内容が歌詞として綴られているのですか?
 「大人にならなきゃいけない、今こそ成長していくんだ、というような気持ちが反映されているんだ。今の社会ではみんな若さにしがみついているようなところがあるけど、僕は年齢相応に成長していきたい。いつまでも子供のような無邪気さを持つことは素晴らしいけど、大人になっていくこともすごく楽しいことだと思うんだよ。20歳の時に僕はレコード会社と契約したんだけど、そこから僕は約3年間ずっと同じ10代の頃に作った曲を演奏し続けなければいけなかった。それは自分にとって相当につらいことだったんだ。でも、今は自由に自分の気持ちを曲の中に練り込むことができる。それも、メロディに直接乗せるのではなく、歌詞で伝えたいことを、サウンドの中にとけ込ませていきたい。すごくナーバスな歌詞もあるけど、あくまで音の一つとしてヒプノティックに捉えていきたいと思っているんだ」
――しかも、フロアライクなダンス・ミュージックに昇華しつつ?
 「そう。う〜ん……まあ、正直、今回の歌詞とサウンドの関係性を説明するのはすごく難しいんだ。内省的だけど音は確かにフィジカルだから。ごめん、その質問に答えるのは次のアルバムが出た頃、次に君に会ったときにでもさせてもらうよ(笑)」



取材・文/岡村詩野(2009年6月)
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