「知らない土地で出会う風景や人から音楽が生まれる」 ――ピアニスト、ジェイコブ・コーラーが描くシネマティックな世界

ジェイコブ・コーラー   2017/10/04掲載
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 1980年、米アリゾナ州フェニックス生まれのピアニスト。2009年に来日して以来、ジャズ・シーンを中心にさまざまなジャンルのミュージシャンたちと共演して活躍、アルバム・リリースも重ねてきた。ピアノ・スコアの分野でも人気を博しているほか、2015年にはテレビ朝日系バラエティ番組『関ジャニの仕分け∞』番組内〈ピアノ王決定戦〉で2度優勝し話題を集めたのも記憶に新しい。そんな彼がこのたび、自身のレーベルである“JIMS Records”を設立。第1弾アルバムとなる『シネマティック・ピアノ・アドヴェンチャー』をリリースした。
――日本での演奏活動も8年になりますね。
 「日本でミュージシャンとして、いくつもの素晴らしい経験を積んでやっと今回、より自由に自分が求める音楽の世界を反映させたアルバムを完成させることができました。アレンジとオリジナルの作曲、それぞれやり方は違うけれど、この2本柱が自分のスタイル。思いのままに創作することも、名曲がもともと持っている魅力と自分の意見をリンクさせて新しい曲を書くことも、どちらも自分らしさにあふれているという点では同じ。楽しくてやりがいがあります」
――これまでにも映画音楽をたくさんとりあげています。本当にお好きなんですね。
 「やっぱり映像と音楽の組合せって最高ですから! 高校時代はジャズのバンド活動にも熱心でしたが、映画音楽のコンポーザーにも本気で憧れていました。子どもの頃から往年のヘンリー・マンシーニや同時代のジョン・ウィリアムズのサントラが大好きだった。今も巨匠エンニオ・モリコーネや日本の久石譲から、ダニー・エルフマンハンス・ジマーのような売れっ子まで、好きなコンポーザーを挙げたらキリがありません」
――最新アルバム『シネマティック・ピアノ・アドヴェンチャー』は「ミアとセバスチャンのテーマ」で始まり、真ん中に「アナザー・デイ・オブ・サン」、最後を「シティ・オブ・スターズ」で締めるなど、映画『ラ・ラ・ランド』から3曲収録されています。
 「『ラ・ラ・ランド』にハマって3回くらい観てしまいました。LAの高速道路で渋滞の車から人が次々に飛び出してきて歌って踊る、あのオープニングから度肝を抜かれたし(笑)。フィルムで撮影しているけれどカメラワークに現代っぽい手法が使われていたり、黄金期のミュージカル映画のいいところと最新技術がうまく融合しているところもすごい。そして何より、古き良き時代の雰囲気を持つ音楽に心を掴まれました。とくに〈ミアとセバスチャンのテーマ〉は劇中いろんなヴァージョンで登場する印象的な楽曲なので、自分もそのひとつを作るみたいなつもりでアレンジしたんです。途中にジャズの〈テイク・ファイヴ〉っぽいテイストを入れてみたり、ロマンティックでクラシカルに弾いたり、けっこう楽しんで書きました」
――たとえば「ムーン・リバー」のアレンジなどに、とてもジェイコブさんらしさを感じました。音数がいっぱいで、そのひとつひとつに想いがたっぷり詰まったような。
 「あまりに有名な楽曲は、誰も聴いたことがないようなアレンジに挑戦してみたくなります。〈ムーン・リバー〉は4拍子の曲の上にもうひとつ川が流れているみたいなイメージ。左手でだけでメロディと伴奏を弾きながら、右手で別の演奏を加えて、ひとりだけど連弾しているような、手が4本あるみたいなエフェクトにチャレンジしました。簡単ではないけれど、自分の中でイメージできたら後はテクニックでどうにか弾ける。クラシックの大作曲家であるJ.S.バッハベートーヴェンも、いろんな楽器が同時に鳴っているようなマジカルなエフェクトを鍵盤で使っていたので、自分もそれに倣って昔から好きで研究してきました」
――テクニックといえば「ウィリアム・テル序曲」もかなりな超絶技巧です。
 「ロッシーニの作曲だけど、やはり自分にとってはTVドラマ(後に映画化もされた)西部劇の『ローン・レンジャー』の主題歌……オペラの序曲だっていうのは後で知りました。ミュージック・ビデオでもローン・レンジャーのコスプレでカウボーイ・ハットを被って大自然の中ノリノリで演奏しています(笑)。故郷のフェニックスから車で2時間くらいのセドナ(ネイティヴ・アメリカンの聖地で、ワイルド・ウエストな風景が広がる人気の観光地)でロケした自信作です」
――オリジナル曲「富士五湖」のMVもとても完成度が高いですね。もちろん曲も素敵です。
 「富士五湖の日本らしい風景に魅せられます。天気次第で富士山が見えそうで見えなかったりするのも幻想的。五湖全部行きましたよ。それくらい好きなんです(笑)。ロケで使ったのは精進湖(しょうじこ)です。ドローンを使用して4Kカメラで撮ったのでスローモーションの映像もとても美しい。じつは兄がカメラマンで、今回のMVは彼が撮影を担当してくれました。最初は2本くらいの予定だったのに、結局8本(8曲分)も作ったので、YouTubeの自分のチャンネルに1ヵ月1本ずつくらいのペースでアップしていくつもりなのでご期待ください。アルバムも長く愛されて、楽しんでもらえますように」
――オリジナル曲の「サマ−・バイ・ザ・レイク」は映画『きみに読む物語』(主演のライアン・ゴズリング繋がり?)へのトリビュート曲だとか。
 「それもありますが、小さい頃、父や兄と一緒によく湖に釣りに行ったので当時の想い出も曲に込めました。本当に湖が大好きなので、いろんな場所に行ってみたいですね、北海道とか。知らない土地で出会う風景や知り合った人がインスピレーションとなって、自分の音楽は生まれているような気がします。それが“ピアノ・アドヴェンチャー”というタイトルの意味でもあるんです」
――「風の谷のナウシカ」や「ルパン三世のテーマ'78」などの“ADVENTURE version”も楽しいです。
 「とくにエキサイティングな〈ルパン三世のテーマ'78〉は日本に来て、最初に気に入ってよく弾いた曲なので思い入れがあります。思い入れがあるといえば〈ア・ブルー・スター〉は16歳の時に自分で書いた最初の曲。今回は20年ぶりのセルフ・アレンジです」
――映画『スティング』で使用された“ラグタイム王”スコット・ジョプリン作曲の「ジ・エンターテイナー」と、同じストライド・ピアノ奏法でアレンジされ20世紀初頭のアメリカ音楽のように生まれ変わった瀧廉太郎の「花」にも驚かされました。
 「楽しんでいただけて嬉しいです。目指したのはたんなる“シネマ”アルバムではなくて自分なりに解釈した“シネマティック”なピアノ・アルバム。リリース後には各地でライヴも予定しているので、そちらの方にもぜひ。12月にはアリゾナで凱旋ライヴも計画しています。またメキシコとかにもビデオ撮影のロケに行ってみたい。これからも冒険を続けます!」
取材・文/東端哲也(2017年9月)
・『シネマティック・ピアノ・アドヴェンチャー』発売記念ライヴ
 10月29日(日)13:00開演
 東京・南青山 MANDALA

・Fantasy Piano Adventure ソロライヴ
 11月30日(木)19:00開演
 神奈川・藤沢 ライブ館

 12月6日(水)19:00開演
 愛知・名古屋 フィオリーレ

 12月7日(木)18:30開演
 静岡 江崎ホール

・大田区ファミリークリスマスコンサート
 12月1日(金)18:30開演
 東京・蒲田 醍醐ビルホール

・グランドオーケストラコンサート
 12月8日(金)18:30開演
 東京・六本木 サントリー小ホール

【詳細】
ジェイコブ・コーラー オフィシャル・サイト
[URL]http://www.jacobkoller.com
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