英国を席巻するポスト・ダブステップ・シーンの寵児、
ジェイムス・ブレイクが1stアルバム
『ジェイムス・ブレイク』をリリースした。ダブステップとR&Bを接合した「CMYK」をはじめ、昨年は数々の革新的なクラブ・アンセムを生み出した彼だが、アルバムでは驚くほど“歌”が前面に押し出されている。もちろん、ダブステップ以降の刺激的な電子音も散りばめられているものの、あくまで主役は、孤独にむせび泣いているようなジェイムス自身の歌声だ。ある意味、本作はダブステップ時代の内省的なシンガー・ソングライター・アルバムとも言えるだろう。ジェイムスに国際電話で話を訊いた。
――最初に夢中になったのはどんな音楽だったんですか? ――大学生の時にはダブステップと出会って、大きな影響を受けたわけですよね。ロンドンのFWD>>というクラブ・イベントがきっかけだったと聞いています。
「そう、当時まだ僕は19歳だったんだけど、音楽によって別世界へと引き込まれるような感覚に魅力を感じてね。聴いていて自分の世界に入り込んでしまうような……あの頃はそんな感覚が大好きだった。僕はダブステップで初めて一つのシーンに足を踏み入れたんだと思う。それまではどのシーンにも属していなかったんだよ。でもダブステップと巡り合ったことで、いろんな人と出会って、ダブステップのカルチャー全体に興味を持ったんだ」
――アルバムを聴いて驚かされたのは、これまでのシングルやEPと較べると、歌の存在感が大きく増していることです。先ほど、自分はまずヴォーカルに惹かれると言っていましたが、アルバムで歌にフォーカスすることは重要でしたか?
「たしかにとても重要なことだった。親父の一言が頭から離れなかったんだよ(※父親は英国プログレ・シーンで活躍したジェームス・リーサーランド)。ヴォーカル入りの曲を聴いてもらってアドバイスをもらったんだけど、“ヴォーカルをもっと上げるべきだ。フワフワ浮遊している感じを出した方がいい”って言われたのが心に強く残ってね。それからミックスでヴォーカルが前面に出るようにしたおかげで、耳元でささやかれているような効果を出すことができたと思う。すごく気に入っているよ」
――また、このアルバムは、ダンスフロアで大勢の人が熱狂してシェアする音楽というよりも、リスナーと一対一で向き合い、心の深い部分に触れてくるようなところが強い音楽だとも感じました。
「同感だよ。ヴォーカル入りの曲の場合、自分自身が歌うとなると、感情をあふれ出させたいし、それには感情が張りつめていないとできない。そういう曲はダンスフロア向けではないよね。ダンスフロアで人が熱狂するような音はほかで作っているし、このアルバムではそういう方向性を目指していなかったんだ」
――あなたの音楽からは、一人ポツンと佇んでいるような孤独も感じられます。
「一人でいる時間が多いからじゃないかな。一人っ子だし……結束の固い仲間は昔からいるけど、一人っ子は孤独感に包まれているものなんだ。でも実はハッピーな人間なんだよ(笑)。暗くて陰気な奴なんかじゃない。このアルバムには不思議と孤独感の中にも希望の光が見え隠れする。それって自分の幼年期と重なるかな。このアルバムは自分にとって自伝的な作品なんだ」
――なるほど。では最後に、あなたは本作がリスナーにどのように受け止められることを望みますか?
「このアルバムには、かなり不思議なサウンドや凝った作りのサウンドが含まれている。それでも聴く人が共感できる作品であれば嬉しいよ。音楽が持つ自由な気持ちを体験してほしいね」
(2011年4月 取材・文/小林祥晴)