個人的な話から、始めさせてもらう。ぼくが過去に観たソロ・ピアノ公演でいちばんグっときたのは、
ジェイソン・モランのそれである。そう痛感してしまったのは、自己バンドであるザ・バンド・ワゴンと共に彼が2015年1月に来日した際、1日だけ持ったソロ・ピアノ公演があまりにも素晴らしかったから。まさに“ピアノと友達”と言うしかない、ピアノと一体化した彼の演奏には驚かされるとともに、ぼくは心から感じ入ってしまった。
photo Chris Weiss
テクニックが秀でているのは当然として、ピアノの調べがもたらす、音珠とでも書きたくなる演奏音の粒立ちの良さや豊穣な広がりと言ったなら。また、彼は手巻きオルゴールの音や、
グラディス・ナイト&ザ・ピップスの1972年のモータウン曲「ノー・ワン・クッド・ラヴ・ユー・モア」を延々と流して、それに合わせてピアノを弾いたりもした。そうした行き方から浮かび上がるのは、型にはまらない、彼の自由な音楽眼のあり方だった。デビュー以来、ずっとブルーノート・レーベルに所属するなど、ちゃんとエスタブリッシュされているのに、そのしなやかさ、心の開かれ方は本当に常軌を逸していて胸がすく。
photo Chris Weiss
そんな彼のアルバム・デビューは、1999年ブルーノート発の『
ヒューマン・モーション』。当時モランはブルーノートの重鎮アーティストだった
グレッグ・オズビーのバンドに入っていて、名門との契約はそれに端を発する。そして、2014年作『
オール・ライズ』にかけて、彼は10枚ものアルバムをコンスタントにブルーノートから発表してきた。
先に書いたように、モランは圧倒的に秀でたピアニストである。ジャズ史初期のスタイルであるストライド・ピアノ奏法からアヴァンギャルドな指さばきまでを彼の演奏は網羅し、作品によってはピアノとキーボード音やサンプリング音を交錯させもする。先鋭アウトロー的活動を標榜する
ミシェル・ンデゲオチェロと現ブルーノート社長の
ドン・ウォズが制作した近作『オール・ライズ』は、ジャズの初期重要ピアニスト / エンターテイナーである
ファッツ・ウォーラーに捧げたアルバムである。だが、そういう体裁を取りつつ現代的なビートや歌やラップも取り入れ、モランは米国黒人音楽が抱え続けてきた娯楽性や閃きをそこで瑞々しく浮かび上がらせている。2007年にモランにインタビューした際、「(あなたと)同じスタンスを持つ人物は? 」と質問したら、「
武満 徹と(
パブリック・エネミーの)
チャックD」と彼は答えた。
photo Chris Weiss
かようなワールド・クラスの俊英に、圧倒的なピアノ審美眼のもと我が道を行く即興演奏を続けてきた
スガダイローが差しの演奏の場を求めたというのは、とても腑に落ちる。両者の生気に満ちた、あっち側に跳んでいくようなデュオ演奏は、昨年12月にニューヨークのスタンウェイ&サンズの工場で実現。2台のスタンウェイを並べて、日米対決は持たれた。
photo Chris Weiss
そのニューヨークでの出会いを日本に持って来てさらに広げようとするのが、「スガダイローとJASON MORANと東京と京都」と題された、2都市で持たれる4月の公演だ。件のニューヨークのデュオ演奏の記録DVDは5月に発売される予定だが、東京公演でも先行発売がなされる。また、モランは新しいステージに入ったと言わんばかりに自己レーベルの“イエス”を設立し、やりたい放題のピアノ・ソロ作『
The Armory Concert』を昨年6月に発表しているが、広島では彼のソロ公演が持たれる運びとなっている。
ピアノという88鍵の楽器の底なしの効用とそれに向かいあう選ばれた演奏家だけが持つ魔法、その尽きることない二乗……。スガとモランの冒険は、まだまだこれからなのである。
2017年4月11日(火) 東京 赤坂 草月ホール出演: スガダイロー、ジェイソン・モラン
ゲスト: 田中 泯(dance)開場 18:00 / 開演 19:00
前売 7,000円 / 当日 8,000円(税込 / 全席指定)※お問い合わせ:
www.velvetsunproducts.com2017年4月15日(土) 京都 左京区 ロームシアター京都 ノースホール出演: スガダイロー / ジェイソン・モラン
ゲスト: 鈴木ヒラク(live drawing)開場 17:00 / 開演 18:00
自由席前売 5,800円 / 自由席当日 6,500円
立見席前売 4,500円 / 立見席当日 5,300円
学割前売(立見席のみ) 3,500円 ※学生証・証明書など要提示※お問い合わせ:
www.velvetsunproducts.com