グルーヴ・コレクティヴのリーダー、
ジェイ・ロドリゲスは、7歳でクラリネットを始め、14才頃には
ティト・プエンテのバンドでアルト・サックスを吹いていた早熟の天才。そんな彼の42歳にして初のリーダー作は、ニューヨーク・ラテン・ジャズで築いた下地と、グルーヴ・コレクティヴで表現したファンクが渾然一体となって溶け込んだ、新しいスタイルのスピリチュアル・グルーヴ・ミュージックだった。
ジェイ・ロドリゲス(以下同) 「この作品は音楽でブルックリンという“精神”を表現しているんだよ。何が俺たちみんなをここに呼び寄せているのか。俺たちは世界中からここに来て、ひとつの民族となって、ひとつの宇宙(ひとつの曲)となっているということなんだ」
アルトゥーロ・オファレル(中央)
――グルーヴ・コレクティヴの長年の仲間が大挙して駆けつけ、演奏していますね。
「メンバーの力量を知っていると曲を書きやすいから彼らに頼んだんだ。とくに複雑なアレンジでは、よく知らない人や新人を起用すると、理解力の面で音楽への貢献度が少なくなってしまうことがあるからね。そうは言っても、今作はファルー(ファルグニ・サア)、マリカ(・ザーラ)、リサ・マリア(・サリブ)など、今伸びてきているシンガーたちを起用しているし、
アルトゥーロ・オファレル(p)とは遠い昔にプレイしたことがあるだけで、いつか一緒にやりたいと思っていたのが、今回実現したのさ」
――このプロジェクトには、プロデューサー兼パーカッション/ベース奏者中村照夫の存在が欠かせませんね。 「10年ほど前に、テルオの主宰する
レッド・シューズ・ファンデーションに呼んでもらったのが出会いなんだ。俺たちはこのプロジェクトについて5年間くらい打ち合わせを続けていて、その期間にとてもいい友人になり、彼は俺にとってのメンターになった。お互いのことを学び、お互いがとても広い視野で音楽を捉えていることを知ったんだよ」
――彼はプロデューサーとしてどんな貢献をしてくれましたか?
中村照夫
Photo by Shiro Kimura
「テルオは俺が想像しているいわゆる“プロデューサー”を超えた存在だった。彼は常に俺のアイディアの一歩先を進んでいて、音楽を完璧なものにするための後押しをしてくれた。“終わるまでは、終わってないんだ!”と、俺やエンジニアのジョー・バーガーに言ってたよ。これはアートであり、時に試練に耐えられなければならないということを彼はいつも俺に思い出させてくれていた。時にはグッドはベストの敵だということも教えてくれた。感情的、音楽的、精神的にも俺を支えてくれていたね。彼がプロデューサーで幸運だったよ。なかなか彼のような人はいないと思う」
――今作はアナログの温かい音作りに聞こえます。
「褒めてくれてありがとう。でも、実際はプロトゥールスだよ。ジョー・バーガーはこれが初めてのデジタル・ミキシングで、それまではアナログ男だったんだ。たぶん、それがアナログっぽい音に聞こえる理由なんじゃないかな」
――楽曲はすべて書き下ろしたのですか?
「〈キス・アンド・セイ・グッドバイ〉みたいなカヴァーは別として、ほかのほとんどはすべて今作のために書き下ろした。〈フィエスタ〉、〈トゥー・サー・ウィズ・ラヴ(いつも心に太陽を)〉は新アレンジだね。〈ファンチン・キャンデリン(エル・レイ・デル・スウィング)〉はコロンビアに住んでいたミュージシャンの伯父の人生を音の想像力で曲にしたもので、ミドル・セクションのファルーの歌は、彼が亡くなる少し前に彼の家が火事になったことを歌っている。最後のパートは生命、希望、夢などが永劫回帰し続けることを表わしたんだ」
――曲の背景に精神的な要素が強いのですね。
「“生命の旅”を表現しているんだ。ブルックリンとは単なる地理的な場所じゃない。ブルックリンは俺たちが夢を見るための、深く、特別な、本当の俺たちにしてくれる場所なんだということをね。ブルックリンというのは心の状態であり、世界のどこにでもブルックリンという場所は存在するんだよ」
取材・文/松永誠一郎(2010年6月)
レコーディングの模様を収めた「アズ・ザ・デイズ・アー・ロング..」PV