音楽にとどまらない、発想としての面白さ――ジェフ・パーカーがゆっくり語る『The New Breed』

ジェフ・パーカー   2017/08/09掲載
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 1990年代を象徴するインストゥルメンタル・バンドのひとつ、トータスに1998年の傑作『TNT』から在籍するパーマネント・メンバーとしてのみならず、スコット・アメンドラブライアン・ブレイドらのバンドで活躍するソロイストとしても引く手数多のギタリスト、ジェフ・パーカー(Jeff Parker)が、2004年の『The Relatives』以来実に13年ぶりのソロ作『The New Breed』を昨年米「International Anthem」からリリース。ポストプロダクションを駆使し、ロック、ジャズ、ヒップホップ、現代音楽をフラットかつポップにミックスしてみせるトータスの感覚を受け継ぎながらも、よりジャズに寄せたコンポーズでオルタネイティヴR&Bのフィーリングをも実現した本作は、過去作の再考と併せ、強調抜きで今聴かれるべき作品です。この傑作誕生の経緯を、プレイ時同様にゆったりとした立ち上がりの口調が印象的なジェフ・パーカーに語っていただきました。
 なおジェフ・パーカーは、ポール・ブライアン(b, key)、ジョシュ・ジョンソン(sax, key)とジャマイア・ウィリアムズ(dr, sampler)を擁するリーダー・カルテット“JEFF PARKER & THE NEW BREED”として8月14日(月)から16日(水)までの3日間、東京・丸の内 COTTON CLUBにて来日公演を開催。これに合わせ、パーカーがダン・ビットニー(トータス)、ジョン・ハーンドン(トータス)、マシュー・ラックス、ロブ・マズレクと組んだアイソトープ217°の1stアルバム『The Unstable Molecule』も新たな装いとサウンドでリイシューされています。
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――これまでのリーダー作品でも基本的にはオーガニックとデジタルの狭間、インプロヴィゼーションとコンポジションの狭間で音楽を作られてきたと思うのですが、『The New Breed』でビートメイクやサンプリングを大幅に導入した経緯を教えてください。
 「きみの言う通り、私は以前からデジタルの音楽制作プロセスには興味を持っていて、それをもっとやってみたいという気持ちはあったし、インプロヴィゼーションとしっかり作曲する音楽の狭間には宇宙があると思っているんだ。私がなぜ昔からヒップホップが好きか、なぜコンテンポラリーな音楽として成り立ってるかって考えると、そのサウンドがゆえだと思う。インプロヴィゼーションを主体とした音楽というのは、ポスト・プロダクションが簡単にできる音楽ではない。なぜかというと、即興演奏はその瞬間に合った音楽を捉えたものだから。ある程度の型にはめておかないと後からいじることは難しい。無理にヒップホップ的な音処理をするとなんとなくギクシャクしてしまう。今回、私がやりたかったことはまさにそこで、インプロを主体としたすごくオーガニックな音楽なんだけども、ヒップホップ的にポスト・プロダクションが可能なもの。そこを探ってみたいという気持ちがあって、それが実現できたのがこのアルバムなんだと思う」
――本作はポール・ブライアンとの共同プロデュースになっていますが、それは目指す音楽を実現させるため?
 「そうだね。彼とは大学時代からの友達で。彼はレコーディング・スタジオを持っているし、エンジニアとしてもとても優秀で、自分から手伝うよと言ってくれたんだ。ただ、私がリファレンスとして挙げるような音楽をあんまり聴いていなかったんだ。マッドリブとかJ.ディラとか。ヒップホップをそんなに聴いてこなかった人なので、逆に今回、彼にとっても勉強になったかもしれない(笑)」
――マッドリブの名前が挙がりましたが、遡るとマイルス・デイヴィスハービー・ハンコックの時代からジャズとヒップホップのミックスはあったじゃないですか。『The New Breed』はその“狭間”の歴史に連なり、それを更新する音楽としてこれ以上ないくらいフレッシュだと感じました。
 「本当に?嬉しいよ、ありがとう。マッドリブのイエスタデイズ・ニュー・クインテットは色々なアイディアを与えてくれたよ。マッドリブのすごいところは、サウンド的にももちろんなんだけど、彼ならではの解釈でジャズとヒップホップの関連性を新しく開拓したところがあると思っている。作りかたの美意識はもちろん、彼にしかできないユニークさがあったのが刺激的だった。それがインスピレーションをくれた」
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――マッドリブは“ビート・コンダクタ”と名乗っていたくらいで、やっぱりプロデューサーじゃないですか。一方で、ジェフはプレイヤーだと思うんです。そこに大きな違いがあると思うのですが、いかがでしょうか。
 「その通りだと思う。だからプレイヤーとしての影響は受けてないよ(笑)。でも、大事なのは発想なんだ。音楽にとどまらない、発想としての面白さが自分にとって魅力だったので、願わくば私の作品もそういうものであってほしいと思っている。演奏家としての力量以上に、私の思っていたヴィジョンや、音楽的に描き出した風景がまず伝わってくれればいいなと考えている」
――このアルバムを聴いて、最も感触が近いなと思ったのがアイソトープ217°でした。今回収録された「Here Comes Ezra」という曲がアイソトープ217°の「Audio Champion」(『Utonian Automatic』1999 収録)に似ているなと思ったんです。
 「同じような発想をもとにしたプロジェクトだったからね。どっちも自分の書いた曲だし(笑)。生演奏の部分と、ビートボックスやドラムマシンで作る部分とのミックスっていうことにおいては、もう20年くらいかけて探訪してきたエリアになるね」
――トータスは完全に作曲された音楽という話はよくされていますが、アイソトープ217°はどうだったのでしょうか。
 「アイソトープはインプロ寄りだった。(『The Unstable Molecule』日本盤ボーナス・トラックの)〈Expedition Rhombus〉は20分の完全なインプロだし。アイソトープはそもそもがインプロで始まり、だんだん形が整ってコンポーズに寄っていった。それに対して、トータスはまったくインプロはやっていない。アイソトープはロブ・マズレクと僕が中心的な作家で、ロブの書いてるものは当初からのアイソトープ的なものの延長線にあるもので、僕が書いているものはその逆にいるのかなという気がする。作品を重ねるごとに、今に繋がるようなミックスした音楽になっていったと思う」
――あなたの演奏はどの作品でも弾きすぎないというのがひとつの特徴だと思うのですが、そこに関してはかなり意識的なのでしょうか。
 「うん、意識しているよ。シンプルな音楽が好きなんだ。音があまりに多いと混乱してしまうしね(笑)。自分はそもそも速弾き系のギタリストではないし、発想がクリアに伝わるような演奏をするタイプだと思っている」
――5月のスコット・アメンドラ・バンドの来日公演も、目をつぶって弾かない時間がかなりあったのが印象的でした。
 「ネルス・クラインがたくさん弾くタイプだから、僕はただ弾くときを待ってたんだよ(笑)」
――最近の客演だと、マット・メイホールピーター・アースキンの作品が印象的でした。どちらも音数は少ないのにすぐにジェフのギター・プレイだとわかるんですよね。
 「マット・メイホールの音楽もすごくシンプルでゆったりとしているから、本人にも演奏していて楽しいって伝えたよ。ピーター・アースキンは、セッションしたときにスタッフ(STUFF)みたいなアルバムを作りたいって言っていたのを覚えている。私がスコットのバンドで演奏しているのを聴いて、コンセプトに合うと思ってくれたみたいなんだ」
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――LAに越してから新しい出会いが増えていますよね。
 「増えたというか、変わったんだと思う。それこそピーターとはLAに行ってなかったら会わなかっただろうし、ベニー・モウピンパトリース・ラッシェンと一緒にプレイしたりすることもなかったと思う」
――カーメン・ランディのアルバム(『Code Noir』)ですね。
 「そうそう。シカゴにもミュージシャンは大勢いるけど、LAにはアヴァンギャルドな人はそんなにいないかな。最近、“シカゴ系”みたいな見られかたはできるだけ避けたいと思っているんだよ。というのも、自分の興味の幅はものすごく広いから、ひとつのところに括られるのイヤなんだ。そこからは離れようと思ってる(笑)」
――シカゴはやっぱり特殊ですよね。進んでるという言い方が正しいかわからないですけど、新しいものを作ろうという気概があるのは確かだから、そう括りたくなる人がいるのもわかります。
 「もちろん筋は通ってると思うんだけどね。言いたいことはよくわかるよ」
――ただ、あなたとしては、たとえばスタンダードなヴォーカル作品などにも参加していきたいということなんですよね。
 「その通り」
――アルバムに話を戻します。ボビー・ハッチャーソンVisions」のカヴァーを収録した経緯を聞かせてください。
 「あるとき、あの曲を聴いていたら、自分のなかにメロディとビートが聞こえてきたんだ。それでサンプラーを使ってみた。オリジナルを聴きながら、ビートをつけて、楽器の音をデジタルの楽器に入れ替えていって。自分でもいいものができたなと思ってデモ版をSoundCloudに上げていたんだ。今回、アルバムに収録するにあたって、それこそイエスタデイズ・ニュー・クインテットみたいにヒップホップの影響を受けたジャズの曲みたいな作りかたをしてみたいと思って、そのデモを踏まえた上で、ミュージシャンの演奏に差し替えて作っていったんだ。うまくいったと思っている」
――娘さんのルビーが歌っている「Cliche」も印象的でした。小さい頃から一緒に曲を作っていたんですよね。どんな曲を作っていたのでしょうか。
 「彼女はポップ・ミュージックが好きなので、ヒット曲のカヴァー・ヴァージョンを作っていたんだよ。アリシア・キーズとかロード(LORDE)とかテイラー・スウィフトとか(笑)。ラップを作って遊んだりもしたなぁ。いまはフランク・オーシャンが大好きみたい」
――渋谷のインストア・イベントでフランク・オーシャンをカヴァーしたんですよね。娘さんと作っていた曲は実験的なものではなかったと(笑)。「Cliche」に関してはどんな感想でしたか?
 「気に入ってくれてるよ。“別に……”みたいな顔をしてるけど、彼女にとって誇らしいみたい(笑)。次のアルバムはもっとヴォーカル曲を入れたいと思ってるんだ」
――色々なシンガーに歌ってもらったり?
 「まだアイディアの段階でしかないけど、そうなるだろうね。シカゴにベン・ラマー(ボトル・トゥリー)というミュージシャンがいて。彼はトランペットを演奏して、エレクトロ系の音楽を作るし、詞を書いて歌も歌う、面白い才能の持ち主なんだ。シーマ・カニングハム(OHMME)というシカゴのヴォーカリストもすごくいいから、また一緒にやってみたい。いま考えてるのはそんな人たちかな……あと、もちろん私の娘も(笑)。まだ発表していない素材もたくさん残っているし、アイディアもいっぱいあるんだ」
――インターナショナル・アンセムのリリースはアートワークも素晴らしいですよね。透明で四角のソノシートも感動しました。
 「そういう発想が面白いから一緒にやりたいと思ったんだよね。アートワークはレーベルのアイディアで、写真は僕のもの。写っているのは父親と叔父とその友達。1960年代後半か70年代かな」
――アルバムのタイトルはお父さんがやっていた洋服屋さんの名前なんですよね。
 「そう。“New Breed”。お店の前で撮った写真はこれひとつしか見つからなかったんだ。1〜2年くらいしかやってなかったみたい」
――それがアルバム・タイトルになって、バンド名にもなって。
 「面白いよね(笑)」
――8月のJEFF PARKER & THE NEW BREEDでの来日公演はどんな編成になるんですか?
 「アルバムに参加したメンバーでやろうと思ってるよ。自分とポール・ブライアンとジョシュ・ジョンソンとジャマイア・ウィリアムズで」
――ビートを組んだものとジャマイアが叩いた曲がありますが、ステージでどう演奏するのかが楽しみです。
 「基本的には生で、時々打ち込みを入れる感じになるかな。ジャマイアはカラフルなアプローチをできる若い世代のドラマーだよね。クリス・デイヴケンドリック・スコットエリック・ハーランドも、みんな同じ先生から学んでいるんだよ。ヒューストン出身の」
――とんでもない先生ですね(笑)。
 「本当に!クリエイティヴなドラマーばかりで。近い世代のドラマーということで名前を挙げたけど、色彩豊かな音色を出すために独自のドラムセットを組んだりする連中のうちのひとりがジャマイア。ジャマイアはドラムマシン的な音も生の音で出せるくらいの人なので、ごちゃごちゃと色々なことをやらなくてもアルバムを再現できると思う。私の好きなシンプルな演奏にしようと考えているよ」
取材・文 / 南波一海(2017年5月)
通訳 / 染谷和美
撮影 / 久保田千史
2017年8月14日(月)〜16日(水)
東京 丸の内 COTTON CLUB
1st 開場 17:00 / 開演 18:30
2nd 開場 20:00 / 開演 21:00


自由席 テーブル席 6,800円(税込)
指定席 BOX A(4名席) 9,000円(税込)
指定席 BOX B(2名席) 8,500円(税込)
指定席 BOX S(2名席) 8,500円(税込)
指定席 SEAT C(2名席) 8,000円(税込)


[出演]
Jeff Parker(g, sampler)
Josh Johnson(sax, key)
Paul Bryan(b, key)
Jamire Williams(dr, sampler)
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