『オール・カインズ・オブ・ピープル〜』の神髄に迫る!
バート・バカラック×
ジム・オルーク、という組み合わせでまず思いつくのは、
『ユリイカ』(99年)に収録された「サムシング・ビッグ」のカヴァーだ。ジムにとっては初めての歌ものとなった『ユリイカ』で、「サムシング・ビッグ」は自然にオリジナル曲と肩を並べていた。ジムはバカラック・ナンバーの魅力を「いろんなものを有機的に混ぜ合わせる、そういう感覚が好きです。例えば現代音楽っぽいところがあってもストレートにそれを感じさせない」と語っているが、それはそのまま『ユリイカ』の、そして、本作『オール・カインズ・オブ・ピープル〜』の魅力ともいえるだろう。
まず本作で目を惹くのは、何と言ってもゲスト・ヴォーカリストの多彩さだ。「遙かなる影」で官能的な低音ヴォイスを披露する
細野晴臣、「ドント・メイク・ミー・オーヴァー」でソウルフルな歌声を聴かせる
小坂忠といったナイス・ミドル勢の渋い歌声。いっぽう、ともにウイスパー系のシンガーながら、バカラックのティン・パン・アレイ時代の曲「アノニマス・フォーン・コール」を
やくしまるえつこ(
相対性理論)、ビターな恋の物語「サン・ホセの道」を
カヒミ・カリィが歌うというキャスティングの妙もさすがだ。また「オールウェイズ・サムシング・ゼア・トゥ・リマインド・ミー」を歌う
サーストン・ムーアには、
ソニック・ユースで
カーペンターズ「スーパースター」のカヴァーをした時のスウィートさがあるし、「セイ・ア・リトル・プレイヤー」ではYoshimi(
ボアダムズ、
OOIOO)の凛々しいヴォーカルの魅力が引き出されている。そのほか、ふくよかな歌声を聴かせる
小池光子(
ビューティフルハミングバード)、ファルセットで歌い上げる
青山陽一、現在のバカラックのミューズ、ドナ・テイラーなど、それぞれ表情豊かな歌声を聴かせるなかで、
坂田明と
中原昌也のデュオで聴かせる「アフター・サ・フォックス」も最高に楽しい仕上がりだ。
こうした多彩なヴォーカルと洗練された演奏を、曲ごとに趣向を凝らしたアレンジでまとめあげていくジムのプロデュース・ワークはじつに見事。また本作にはドラムでジムの盟友・
グレン・コッチェ(
ウィルコ)が参加するなど、シンガーにもミュージシャンにもジムの日米コネクションが反映されているのも大きな特徴だろう。思えば『ユリイカ』はジム一人で作り上げた世界だったが、本作はジムが参加ミュージシャンたちと共に作り上げた“バカラック共和国”のようなもの。その広大な土地を丁寧に耕し、ゲストたちに提供して、大きな実りをつけたジムの情熱と才能に心から拍手を送りたい。
文/村尾泰郎
2010年4月7日発売
『オール・カインズ・オブ・ピープル〜ラヴ・バート・バカラック〜プロデュースド・バイ・ジム・オルーク』[収録曲]( )内はゲスト・ヴォーカリスト
01.遥かなる影(細野晴臣)
02.オールウェイズ・サムシング・ゼア・トゥ・リマインド・ミー(サーストン・ムーア<ソニック・ユース>)
03.アノニマス・フォーン・コール(やくしまるえつこ<相対性理論>、ジム・オルーク)
04.アフター・ザ・フォックス(坂田明、中原昌也)
05.ユーウィル・ネバー・ゲット・トゥ・ヘブン(青山陽一)
06.サン・ホセへの道(カヒミ・カリィ)
07.ドント・メイク・ミー・オーヴァー(小坂忠、ジム・オルーク)
08.雨にぬれても」(小池光子<ビューティフルハミングバード>)
09.セイ・ア・リトル・プレイヤー(Yoshimi<ボアダムズ、OOIOO>)
10.プレーンズ・ボーツ・アンド・トレインズ(汽車と船と飛行機)(ジム・オルーク)
11.ウォーク・オン・バイ(ドナ・テイラー)